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彼女はくノ一! 第四話 (14)

第四話 夢と希望の、新学期(14)

「……例えば……」
 いきなり、茅は話しに入っていけず立ちすくんでいた楓の方を振り向いた。
「……楓。
 楓は、一族とはなんの関係もない生まれで、先天的な優位性はほとんどない。にも関わらず、後天的な学習によって、能力を伸張させ続けているの」
「……この子が?」
 茅と話していた女生徒も、楓のほうを振り返る。ネクタイの色から、その女生徒が三年生だと分かった。
「……そう。
 だとすれば、この子は、わたしとは反対の存在なのね……」
 その女生徒はなにか考え込みながらそういうと、席を立つ。
「帰りましょ。
 もう下校時間よ」
 白々とした蛍光灯の下、その女生徒の顔は蒼白にみえた。
 楓は、ようやく図書室に来た用件、「香也たちと一緒に帰ろう」という誘いの言葉を、茅に切り出しはじめる。茅としゃべっていた三年生は、挨拶をして先に図書室を出て行った。

「……今、文芸部に誘われてたの」
 狩野香也、樋口明日樹、それに楓と加納茅を加えた四人で帰宅する途中、茅の様子はいつもの通りだった。
 楓は、ぼんやりと三人の会話を聞き流しながら、さきほど図書館でみた楓と三年生の会話は……一体なんだったのか、と、思い返す。
 確かに、茅には表情が乏しい面があったり、時折変に難しいことをいったりすることがあって戸惑うことは多いのだが……先ほど、図書室で三年生と一緒にいた時の様子は……普段の茅から比べても、どうしようもない違和感を感じてしまった。
 よく知っている存在である茅が、姿形はそのままに、中身だけ、いきなり異質な存在に変化してしまったかのような……。
 今、こうして香也たちと普通にしゃべっている茅は、まったくいつもの通りの茅で……図書館で感じた楓の違和感は、多分、勘違いだったろうと思うのだが……。
「……それで、楓ちゃんもどっか部活に入らなければならないんでしょ?
 どうするの? 堺君に誘われた通り、やっぱ、パソコン部入るの?」
 樋口明日樹が、黙り込んだ楓に声をかけてくれる。
「……ええ。多分……」
 楓はぼんやりと答えた。
 ……他に、あてがあるわけではない……。
 考えてみれば、楓は、今まで自発的になにかをやる、ということが、あまり、なかった……。
 堺が感心したコンピュータ関係の技能も、上から教えられたから必死になって習得しただけで……他の忍びとしての技能と同様、自分が、それが好きなのかどうか……などと言うことは、楓は、考えたことさえなかった……。

 プログラマ志望なんだ……と、語った時の堺雅史の顔を、楓は思い浮かべる。それから、絵を描いている時の香也の顔も。
 彼らは……自分に比べ……なんと真っ直ぐで、屈託がないのだろう……。
「……んー……」
 楓が黙り込んだのを見て、香也は楓に声をかけてきた。
「……とりあえず、出来ることをやるのは、いいことだと思うけど……」
 普段はぼーっとしている香也は、時々、妙にこちらの心境を見透かしたような言葉をかけてくる時がある。
 この時が、そうだった。
「……そう……ですね……」
 楓は、自分に言い聞かせるように、頷いた。
「とりあえず、自分に出来ることを、やっていくしかないんですよね……」

 平常通りの授業が始まり、香也の日常もそれなりに落ち着いてきたようだ……庭のプレハブに向かいながら、香也はそう思った。
 例えば、夕食後、一時間前後、楓や孫子に見られながら勉強をする、という日課が加わる、など、以前とは違った変化もたしかにあったが……それをいうのなら、楓が来た日から、香也の身辺は、変化の連続だったのだ。
 その中でもとりわけ、試験休みから冬休みにかけての期間が、なんか妙な具合にイベントが立て続けに起こってしまった……ので、こうしてプレハブに向かい、以前と同じような日課として、寝るまでの時間、絵を描いて過ごす……という他愛のない日常が、この時の香也には、しみじみ、ありがたいものに思えた。
 楓は、二宮先生と連れだって外出をしている。時間的には短いのだが、二人が揃って外出するのも、ここのところ、日課のようになっていた。
 家や学校では物静かな二宮先生も、加納涼治の紹介でこの家に来たことからも分かるように、どうやら加納荒野の一族に関係のある人らしい。
 香也たちは、二宮先生の素性について、詳しいことは聞かされていなかったが。
 才賀孫子は入浴している。孫子は長風呂で、一旦浴室に入ると、一時間以上は出てこない。
 羽生譲は夕方からファミレスのバイトに行っていた。帰るのは夜中になるという。
 そんなわけで今夜、香也は、ゆっくりと絵を描ける筈だ。
 プレハブに入り、電灯のスイッチを入れ、灯油ストーブに火を入れ、イーゼルに向かう。
 ストーブの暖気がまだまわりきらない中、絵の具のチューブを搾り、キャンバスに筆を置くと、香也の意識は、冴える。筆を動かしはじめ、香也の頭の中にだけ存在するヴィジョンを、淡々と画布に塗り込めていくと、集中した香也は、時間が経過することさえ忘れる。
 だから、背後にいつの間にか加納荒野が来ていたのにも、しばらくは気づかなかった。
 ふと気づくと、以前よくあったように、いつの間にか荒野が背後にたって、香也の手元を覗き込んでいた。
「来てたんだ」
 香也はキャンバスから目を背けず、手も止めず、荒野に話しかける。
「うん。久しぶりに」
 たしかに、荒野がこうして一人で夜、ここに訪れていたのも……かなり前のことのように感じる。
 実際には、ほんの一、二ヶ月ほど前の事だった筈、なのだが……。
「ほんとう、久しぶり……」
「最近バタバタしていたからなあ」
「うん。バタバタしていた。ようやく、落ち着いてきたけど……」
「そうだな。
 もう、学校も本格的に始まったし……」
 加納荒野は息をつく。
「……落ち着きすぎて、落ち着かない。
 茅、最近手が掛からなくなって、なんか拍子抜けしちゃって……」
 ……ようするに、暇ができた、という事なのだろうか?
 と、香也は思った。

[つづき]
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