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髪長姫は最後に笑う。第五章(8)

第五章 「友と敵」(8)

「何故、そのような条件を呑むと?」
 佐久間源吉は目を細めて荒野を見据えた。
「考えてみたんだよね……。
 うちのじじいが、源吉さんに一体どういう条件をだして仕事をさせていたのか……」
 荒野も、源吉の目をまともに見返して話す。
「……家族の安全、なんじゃないかな?」
 ここは、涼治が何十年もかけて根を張ってきた土地、言い換えれば、涼治の目が比較的行き届いている土地だ。
 近所や、ことによったらこのマンション内にも、涼治の息のかかった者たちが何気なく生活していて、荒野たちの動向に目を光らせているのではないか……と、荒野は疑っている。
 そのような土地で、「偶然」茅が佐久間と関わりのある先輩と知り合った……その「偶然」も、荒野は当然、疑った。
 本当に偶然なのか?、と。
「ここならじじいの目も行き届いているから……源吉さんの奥さんとか子供とか……何年も安心して暮らしているんじゃないかなぁ、って……」
 源吉に働いて貰う代わりに、涼治は源吉の妻子の身の安全を保障した……。
 他にも報酬や細かい取り決めは、当然あったのだろう。
 が、涼治が源吉に保証した最低限の条件は、まず「家族の安全」だったのではないか?
「……いくら長寿とはいっても、うちのじじいもいい年齢だし、そろそろ契約更新の時期じゃないかな?
 おれなら、じじいよりも先まで、源吉さんの子供たち、守れるよ……」
 実は涼治の実際の年齢は、荒野も他の誰も、知らされていない。
 荒野が知っているのは、うっかり昔話をリクエストしようものなら、薩英戦争とかクリミア戦争とかの話しを「体験談」として滔々と語りはじめる、ということだけだ。多分、法螺話だろうと思っているが。
 涼治が昔のことを話し始めるととにかく長くなるので、荒野はでるだけ避けることにしている。
「若のお心遣いはありがたいが……」
 源吉は荒野に深々と頭を下げた。
「この老いぼれ、戸籍上はすでに亡き身。くわえて、子供は佐久間の血は薄く、家名を継がせるほどの器ではありませんでした……」
 源吉は、自分の係累は一般人だ、といっている。
 普通の、一般人であるのなら、一族の、荒野の加護も必要はないと……。
「……息子さんは、一般人かもしれないけど……」
 荒野は、源吉の隣りに座る狭間紗織を、まともに見据える。
「そこのお孫さん……狭間紗織さんは……どうも、佐久間の血がかなり色濃く出ているようだけど……。
 ……源吉さん、そもそも紗織さんのこと、うちのじじいにちゃんと報告しているの?」
 源吉の目が、大きく見開かれる。
「子孫を一般人として育てたかった……っていう気持ちは、よくわかるんだ。
 ぶちゃけ、一族の仕事なんて、たいてはろくなもんじゃない……。
 でも、お孫さんが充分な佐久間の素質ありっていう情報が伝わったら……。
 佐久間は、あるいは他の一族は……狭間紗織さんのこと、放っておいてくれるの?」
 源吉が返事をしなかったので、荒野は言葉を続ける。
「……おれなら、お孫さんのこと隠し通せるし、それに多分、おれはじじいよりはずっと長生きする。
 紗織さんのこと、黙っていることで源吉さんに求めることは、ごく些細なことでさ。
 源吉さんの今の仕事は、おそらくおれらの動向の監視とじじいへの報告なんだろうけど……それには、干渉しようとは思わない。源吉さんは、源吉さんの仕事を全うしてくれ。
 おれらが求めているのは、源吉さんの仕事に支障がない程度に、情報を漏らしてくれることと……それに、おれらの記憶から、源吉さんとこうして話したを抜かないで欲しいって、ただそれだけのことで……」
 源吉が黙り込んだのを「遠回りな了解」と受け取った荒野は、いよいよ本題に入る。
「源吉さん……源吉さんは、茅の計画のこと、どれだけ知らされている?
 茅の正体……おれたちは『姫の仮説』って呼んでいるんだけど、あれについては、どう思う?」
「……敵いませんなぁ、若には……」
 源吉には、なにかを諦めたとうに、ゆっくりと首を左右に振った。その割に、表情はさばさばとしている。
「……本当に、涼治の若い頃にそっくりだ……」
 荒野の言葉は、裏返せば「要求を呑まなければ、狭間紗織の存在を、他の一族にばらまく」といっているようなもので……圧倒的に優位に立っている筈の源吉を、脅しているようなものだ。
 現に源吉は、荒野の要求を退けることができない……。狭間紗織が常人離れした能力を持っている、という証拠データを、この場にいない者に保管させている可能性もあるのだ。
 源吉にとって、荒野の要求を無視をしたり退けたりすることは、リスクが大きすぎた……。
 そこで、源吉はしゃべりはじめる。
「……若が『姫の仮説』と呼ぶものの内容は知っていますが……さて、その真偽のほどとなると、とんとをわかりませんななぁ……。判断を下す材料が、圧倒的に不足しておりますから……。
 もう十数以上前になりますか……仁明がこの子を預けられてどこかに消えたのは風の噂で聞きましたが……直接の関わりは持たなかったもので……」
 源吉は、自分は茅の件には関わっていない、と、主張している。
「……やっぱりおやじ……仁明は……じじいの命令で動いたのか?」
「涼治の、というよりは、当時の一族首脳部の総意を受けて、でしょう……」
 源吉は『姫の仮説』については「判断できない」といった。
 しかし、茅を育成することが、一族全体にとってかなり重要視されていたことは、直接関わりのなかった源吉にとっても、自明視されていたらしい。
「……で、今の茅は……うちのじじいの預かり、ってことになっているの? その、一族の首脳部とやらでは?」
「首脳部も大部分、その頃とは代替わりしておりますから……」
 荒野の直線的な質問に、源吉はどうにとも受け取れる曖昧な答え方をする。
「……今の方針は、茅様を、少し一般人の社会に馴染ませてみよう……というところではないですかな?」
 荒野と同じく、源吉も茅のことについては、「状況をみて、そこから推測する」以上のことはできないようだ。源吉は、茅の件について、あまり深くは関わっていないらしい。
 本当か嘘かは即座で判断できないが……あまり事情に通じていない者が監視役を割り振られる、というのは、充分にあり得るように思えた。
「……茅のような子供たちは、他にはいるのか?」
「いるのかも知れませんが……そのような噂は、とんと聞いたことがありませんな……」
 考えてみれば、源吉は、公的には八年前に死亡したことになっている。他の一族と接触するのも容易ではないだろうし、最近の風聞には疎くて当たり前なのかも知れない。
「……こちらからの質問は、とりあえずこんなもんかな?」
「では……こちらからも一つ、いいですかな?
 若……」 
 荒野が考え込むと、今度は源吉のほうが、荒野に尋ね返した。
「どうして紗織が能力を隠している、とわかりましたか?
 これには、幼い頃から自分の力を隠し続けるようしつけてきた筈ですが……」
「ああ。それ……」
 荒野はなんでもないことのように答える。
「なんか、茅の狭間先輩に対する接し方が、変だったんだ。
 茅、大抵の大人の前でも物怖じしないし、平然と呼び捨てにするのに……狭間先輩と向かい合っている時は、なんか意心地悪そうに名前で呼ぶんだよね……。緊張しているようにも見えたし……。
 だから、茅、狭間先輩のこと、一目置いているんじゃないかって……。
 で、狭間先輩が、茅が目上の者だと認めるぐらいの人なら……なんか突出した能力を持っているんじゃないかってな、って予測して……」
 荒野の答えを聞いた源吉は最初ポカンと口を開け、しばらくして、声を上げて笑いはじめた。
「予測! ……わ、若! それはひどい!
 見込みでしかない、漠然とした根拠に基づいた……はったり! 裏付けのないはったりを元に、この年寄りを……。
 本当に……」
 ひとしきり笑った後、源吉はこういった。
「……若は、涼治にそっくりでございますな……」
 と。
 そういわれた荒野は、苦虫を噛みつぶしたような顔をした。
「で、茅。
 敬語とか敬称の問題な。
 茅が狭間先輩に対して思っているように……なんか一目置いている人に対しては、自分の気持ちを表すためにも、なんらかの敬称をつけたほうがいいんだ。
 そのほうが、気持ち的にもすっきりするだろ?」
 実際には、敬称は敬意を表すため、よいうとりは、便宜上の立場の違いを明確にするために使われる(学校では教師や)などのほうが多いと思うのだが……そういった部分は、茅がこれから自分自身で学ぶべきだ、と荒野は思う。
 荒野の言葉を受けた茅は、しばらく考え込んだ後、狭間紗織のほうを真っ直ぐに見て、
「……これからは、狭間先輩って呼んで良いですか?」
 と、聞いた。
 茅が自発的に敬語を使った、最初の例だった。

[つづき]
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