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髪長姫は最後に笑う。第五章(9)

第五章 「友と敵」(9)

 佐久間源吉との接触を終えて、加納荒野が得たものは、考え方によってはごくわずかなものだ。
 若干の情報と、源吉が荒野たちの記憶を封印しない、という言質……だけ、なのだから。しかも後者に関しては、源吉がそのつもりになれば、いつでも破棄できる口約束である。
 だが、荒野は源吉を信じた。
 何故ならば……。

「そうか……三年生も今になると、そんなにピリピリしているものか……」
「……ん……今の時期はねー……わたしは、絶対安全圏の公立校にさっさと決めちゃったから余裕あるけど……。
 あ。おじいさん、そこに置くと、王手にいけちゃうけど……」
「……あっ! 待った!」
「……いいけど……」
 佐久間源吉と狭間紗織は、あれから二週間とか三週間に一度くらいの割で、荒野たちのマンションを訪れるようになった。二人は、ここで囲碁や将棋に興じながら近況を報告し合ったりしている。
 狭間紗織にとって、佐久間源吉は八年前に物故した祖父……の筈だが、紗織は、驚くほど冷静にこの事態を受け止めている。この辺の順応性も、祖父譲りなのだろうか?
 戸籍上は死人である源吉と、その孫の紗織が密会するのに、荒野たちのマンションは好都合な場所だった。
 茅も、来客者が増えると紅茶をご馳走する機会が増えて、喜んでいる。
 これに、飯島舞花と栗田精一のカップルが突如乱入してきたり、碁を打つ趣味がある才賀孫子が紗織や源吉に再三、挑戦してきたり……と、日が経つにつれて、なかなか賑やかなことになっていった。

『……とりあえず、源吉さんの件はクリアだな……』
 荒野はそう結論する。
 まだまだはっきりしないことばかりで、進展はあまりなかったが……荒野はこれでいい、と、思っている。
 荒野の最終目的は、茅を笑わせること、であり、そのための最低条件を整備するために、防衛的な闘争は、場合によってはやむを得ないかも知れないが……。
 自分のほうから、他の六主家の中枢に近づいていって、様々な謎を解き明かしたい……という欲望は、今の所、ない。好戦的に挑戦していくつもりは、もっとない。
 謎を解き明かし、他の六主家を屈服させることが仮に可能だったとしても、そんなことをしたところで、荒野にとっても茅にとっても、ほとんどなんのメリットもないのだった。

 源吉のような不安要素が目前に現れたと時のみ、その場その場の判断で対処していけばいい……と、荒野はそう思っている。そして、もし可能ならば、条件を整え、不安要素を無害な存在に変換できればば……あえて敵対する必要もあるまい……いうのが、荒野の方法論だった。
 茅のこともあるし、当面は、「めざせ一般市民」、である。
『……まあ、じじいにはこちらの手口とか動きとか、筒抜けなんだろうけどなぁ……』
 荒野は、そうも思っている。
 源吉には口止めをしていないし(狭間紗織のことがあるので、源吉のほうから詳しい事情を涼治に奏上する、というのは、現実問題として考えにくいのだが)、茅の重要性を考えれば、源吉以外の監視員も、当然配置されているだろう……。
 だから、こちらの動向は涼治には筒抜けになっている、と思うくらいでちょうどいい……と、荒野は思っている。

 以前から感じていたところだが……涼治は、「茅」という特殊な存在を利用して、自分を試しているのではないか……という疑惑が、日に日に強くなっていく。
 ……荒野が、茅に、野呂に、姉崎に、佐久間に……今まで、そしてこれから、どのように接し、どのように遇するのか……その様子を細かにチェックしているのではないか……と。
 荒野は、涼治の性格と手口をよく知っている。
 涼治は、荒野が涼治について知っている以上に、荒野について詳しい筈だ。
『……茅の件に、じじいがどれだけ関与しているのかはわからないけど……』
 荒野は、そう考えている。
『……現在、おれと茅をとりまく状況を制御しているゲーム・マスターは、明らかに、じじいだ……』
 と。
 ……今度は、あのじじいはどんな手でこちらに揺さぶりをかけてくるのか……。
 荒野はそう思いながら、とりあえず現在の平穏を楽しんでいる。

「……って、なんでおれはここにいるのでしょう?」
 源吉との初会見があった、あくる週の月曜。
 放課後、荒野は茅にメールで呼び出され、そこで茅に家出使っているエプロンを手渡された。
 荒野が呼び出されたのは、「調理実習室」。
「……だってぇ……」
 何故かその場にいた狭間紗織が、荒野に説明した。
「……荒野君、入るクラブ探しているんでしょ?
 今、料理研究クラブ、二年生と三年生しかいなくて、来年、三年生が卒業すると廃部の危機なの。
 それと、三島先生から聞いたけど、荒野君、給食だけでは足りなくて、お腹が減って大変なんでしょ? 部活のある日は、自分で作った料理食べられるから、一石二鳥じゃない」
 狭間紗織がそう言い終わると、料理研究クラブの部員たちが総出で声を揃え、
「「「おねがいしまーす!」」」
 と荒野に深々と頭を下げた。
 全員、女子。
「大丈夫、荒野、料理できるの」
 顔を引きつらせて棒立ちになっている荒野の様子に気づいているのかいないのか、茅が気軽な口調で保証した。
「……ほれ、お望み通り、学校内での餌場、確保できたぞ。ん?」
「荒野くぅぅん……エプロン姿も似合うじゃないかぁ……」
「そういえばわたし、コウの料理って食べたことないのよね……」
 荒野と茅、狭間紗織の他に、三島百合香、二宮浩司、シルヴィ・姉なども何故か集まっていて、口々に勝手なことを言い合いながらにやにやと笑いながら成り行きを見守っている。
「……恨みますよ、先輩……」
 荒野はうろんな目つきで狭間紗織を睨んだが、狭間紗織は涼しい顔をしていた。
「……んーなんてぇか、元生徒会長としては、やっぱり廃部になる部とかだしたくないよのねー」

 こうして、「風変わりな転入生」として校内に知られていた加納荒野に、また一つ新しい噂の種が加わった。

[つづき]
目次

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