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髪長姫は最後に笑う。第五章(10)

第五章 「友と敵」(10)

「……なあ、加納君……」
 その日、登校して教室に入ると、クラス委員である嘉島繁が寄ってきて荒野が抱えてきた大量のポリ袋を指さして訪ねた。
「……それは、なんだ?」
 嘉島の後ろで、荒野と顔見知りの本田三枝もうんうんと頷いている。
「……なにって、部活で使う食材。
 おれ、料理研に入ったから……」
「ああ。それは知っているけど……」
 荒野の入部届を職員室に届けたのは、クラス委員でもある嘉嶋である。
「……それ、全員の分か? 随分量が多いようだけど……」
「いや、これ、おれだけの分……」
 どかり、と、荒野は大量の食材を自分の机の上に置いた。
「……確かに教室に持ち込むのは多すぎたな……後で調理実習室にでも持っていかないと……」
 机の上に山積みになった食材をみて、荒野も唸る。
「……これ、全部つくるのか?」
「うん。作って、食べる」
「誰が?」
「誰が……って、おれが」
「これ……全部食べるの!」
 その会話を嘉島の後ろで聞いていた本田が、小さな悲鳴のような声を上げた。
 その声をどう誤解したのか、荒野は自分が持ち込んだ食料の上に覆い被さるような姿勢をとり、
「や、やらないからな! ようやく確保した食糧補給場所なんだから!」
 などと言いはじめる。
「「「いや、誰も欲しがってないし……」」」
 ジャガイモやタマネギの山に覆い被さった荒野に、周囲にいた全員が同じように突っ込んだ。
「おい! 大清水来た!」
 廊下に出ていた生徒が慌てて教室に入ってきたのを機に、全員が慌ただしく自分の席につく。
 ホームルームのために教室内に入ってきた大清水先生は、挨拶の号令の後、加納荒野の席にこんもりと生野菜が山になっているのを目にとめ、
「……加納君、それはなにかね?」
 と、嘉島と同じ質問をした。
「はっ! 部活で使用するための食材であります!」
「うむ。加納君は料理研に入ったのだったな……」
 大清水潔先生は、一応、真面目な顔をして頷いた。
「机の上に置くと授業の邪魔になるから、とりあえず教室の後ろにでもまとめておくように……」
 頑固で融通が利かない部分はあるが、悪い先生ではない、という評判の先生だった。

 こんな感じで、加納荒野は一時はかなり嫌がった料理研究クラブの活動に積極的に参加することにした。狭間先輩もいっていたが、校内での食料供給源を探していた荒野にとって、確かに悪い話しではないのである。
「おう、来た来たこーや君。あの冷蔵庫の多量の食材、ひょっとして全部君の?」
「うん。おれの」
 放課後、部活のために調理実習室に行くとクラブの先輩方はすでに集まっていた。一月も終わろうというこの時期、部活に参加する三年生は、推薦などで進路が確定していて、余裕がある者ばかりだった。荒野と同じ二年生も若干名いたが、一年生は皆無。
 そんなわけで、その日部活に集まった部員は、十名にも満たなかった。
 具体的にどれくらい人数を割ると廃部になるのか荒野は聞いていなかったが、広い調理実習室を少人数で埋めている様子をみていると、「来年は廃部の危機」というのも、あながち杞憂というわけではない……と、思ってしまう。
『……問題は、おれ以外の全部員が女の子ってことと……』
「……おーい、猫耳! さっさと作って試食させろー!」
「……そこにきているケバいおねーさんと三七分けの先生がおれに抱きつくのを阻止してくれたら、少しは食わせてやってもいい……」
「わはは……そいつは無理だと思うなぁ……」
 のーてんきな笑い声を上げる二宮浩司先生こと二宮荒神。
「えー。そうなるとわたしって、ボーイズに迫られちゃうわけ?」
 媚びた口調でそんなことを言ってわざとらしい仕草で体をくねらせるシルヴィ・姉崎。
 二人の言葉を受けて、朗らかに笑い出す、興味本位で見学に来た荒野のクラスメイトたち。
「いいか、外野ども。部活見学するのはかまわないけど、邪魔したら即刻たたき出すからな……」
 荒野は、邪魔にならないように調理実習室の後ろに固まっているギャラリーに包丁を向け、そう宣言する。
「コウ! 刃物を人に向けるのは不作法よ!」
 すかさず、シルヴィ・姉が突っ込んだ。
 それには答えず、荒野が背を丸めてもの凄い早さでジャガイモの皮をむき始めると、見学者や料理研の部員たちが、一斉に「おお!」と声をおげた。
 荒野は、特に料理が得意、というわけではないが、刃物の扱いには習熟している。
 食材を適当な大きさに切りそろえ、フライパンで少し火を通してから調理実習室の備品である寸胴鍋に入れ、水を入れて火をかける。
 そうすると、後はアクを取り除いたり、味付けをするくらいしかすることがない。簡単で、大量に作れば作るほど味がしみてうまくなり、数日は食いつなぐことが出来る煮込み料理は、荒野の得意とする所だった。
 あっという間に大量の材料の皮を剥き、切って鍋に放り込んだ荒野の手際よさを見て、ギャラリーのクラスメイトたちからどよめきが起きる。

 その中の一員、野球部所属の嘉島が寄ってきて、荒野の耳元になにやら囁いた。
「……それでな加納君……ものは相談なんだが……」
 嘉島は、
「食材はこちらで用意するから、料理研で、野球部員たちが練習後に食べる物とか、作ってくれないか……」
 とか、言い出した。
「……みんな食べ盛りだし、練習終わるとへとへとでな。
 外食とか買い食いするよりは、手作りの物食べた方が、栄養的にもいいだろうし……」
「そういうことは、おれよりも先輩方に相談してくれ……」
 荒野は、一応そういっておたまを振り、ちょこちょこと調理を続けている他の部員たちを示した。
 が、ふとなにか思いついた表情になり、
「……実はな、ご覧の通り、料理研、定員割れで来年度は廃部の危機なんだ……。
 野球部の伝手で、新入生、何人か引っ張ってこれないかな? そっちの部員の知り合いとか妹とか弟とか、いるだろ?」
 と、いった。

[つづき]
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