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髪長姫は最後に笑う。第五章(11)

第五章 「友と敵」(11)

「どう、その後……」
 加納荒野はある放課後、教室のゴミ箱の中身をゴミ捨て場に開けにいった帰りに、狭間紗織に呼び止められた。
「……うまく、やっていけてる?」
 少し前に知り合った狭間紗織は、荒野たちの事情をある程度知っている部外者であり、そうした立ち位置に立つものは今のところほとんど彼女だけだ。元生徒会長、ということで校内で顔も広く、荒野や茅に部活の斡旋もしてもらっている。
 基本的に面倒見がいい性格なのか、生徒会長を辞めた、卒業間近の今でも他の生徒の相談に応じることが多いらしい。荒野も、時折こうして声をかけられていたる。校内での助言者として荒野も頼りにする存在だったが、三年生の彼女がこの学校にいられるのも、期間として残りわずかとなっていた。
「なんとか、今のところ……」
 荒野としては、頭を下げるしかない。
 死亡したことになっている源吉と定期的に会う機会を与えることで多少恩返しできたかな、という気はするが、彼女には世話になりっぱなし、という感覚がある。
 実際、荒野と茅の学生生活は、予想した以上に順調に推移している……と、荒野は評価している。
「……おれたちは、うまくいっているつもりなんですが、一人入る部活が決まっていないのがいまして……」
 今朝、通学中の会話を思い出した荒野は、才賀孫子のことを狭間紗織に相談してみることにした。校内にコネクションを持つ彼女は、こうした案件を相談するにはうってつけの人材に思えた。

「……才賀さんの部活、かぁ……」
「あいつ、ああいう性格だから、いまだにクラスで浮いてるんですよねぇ……。
 意地張ってないで、さっさと地を出しちゃえばいいのに……」
 一見冷静な才賀孫子は、実は、負けず嫌いであった。勝負事に関することになると、特に負けが込んでいる時ほど感情を顕わにする。
 休日に荒野たちのマンションで源吉と落ち合うようになった狭間紗織は、何度か碁の勝負を孫子に挑まれていた。超人的な記憶力と思考力を持つ佐久間である源吉と、その血を色濃く受け継いだ狭間紗織にその手のゲームで敵うわけはないのだが、孫子は何度敗退しても、懲りずに勝負を挑むのだった。
「……要するに、才賀さんが本気で挑める相手がいればいいってことよね?」
 狭間紗織は、荒野に謎めいた微笑をみせた。
「……一人、そういうのにうてつけの変人がいるけど……」

「……囲碁将棋部?」
 休み時間、教室で荒野の話を聞いた才賀孫子は、軽く眉をひそめた。
「才賀、碁を打つだろ?」
「……打ちますけど……」
 才賀孫子が碁を打つのは、古い歴史を持つ碁というゲームが、広義の戦略ゲームだからだ。その名が示すとおり、孫子は戦略や戦術の研究に興味を持つ。幼い時から打ってきただけあって、孫子はかなりの腕前だった。佐久間源吉や狭間紗織のように反則的に強い相手ならともかく、そこいらの素人碁打ちに負ける気はしなかった……。
「それがさぁ、この学校に一人、強いのがいるっていうんだよね……。
 ……狭間先輩の推薦で……」
 荒野がぽつりと「狭間先輩」の名を出した時、孫子の顔色が少し変わった。
『……かかったな……』
 と荒野は思った。
「……狭間先輩が、三回に一回は負けるって相手が、囲碁将棋部にいるって話しで……」
「……行ってあげても、よろしくてよ……」
 荒野たち会話に聞き耳を立てていた同じクラスの生徒たちは、その場でメールを打ってこのニュースを広めた。

『……美貌の転入生、「あの」徳川に挑戦……』
 と。

「……ということで、その転入生の相手、お願いね……」
「……面倒くさいのだ……」
 同じ日、狭間紗織は、囲碁将棋部の部室に出向いて、だらしなく制服を着崩した男子生徒に孫子との対戦を申し込んでいた。
「君レベルならまだしも、それ以下となるとこの頭脳の無駄使いなのだ……」
 その生徒は、長椅子に寝そべりながら、迷い込んできてそのまま部室に居着いてしまった黒猫を弄りつつ、狭間紗織に顔も向けずに答える。
「わたしほどではないけど、結構強いよー、彼女……。
 美人だし、彼女が入部すると、彼女目当ての入部者が、春にはどかっと入るって……」
 この囲碁将棋部も、定員割れで廃部の危機にあった。
 わずか数年前までは、下手な全国紙よりも部数の多い週刊マンガ雑誌に囲碁を題材にした人気マンガ連載されていた関係でバブリーに部員が増大していた時期もあったそうだが、今では見る影もない。
「……こんなの部のことなど、知ったことではないのだ……」
 その徳川篤朗という生徒は荒野たちと同じ二年生だった。部室に入り浸りで滅多に授業には出ていなかったが……。
「……トクロウくん!」
 狭間紗織は、いきなり声を大きくした。
「……一応部長なんだから、たとえ本音でもそういうこと言わない!
 それに、このわたしが、面白いって保証しているのよ! それ、信じられない?」
「……狭間女史……」
 その男子生徒は、ようやく身を起こした。
「そこまでいうのなら……その人、暇つぶしくらいにはなってくれないと、困るのだ……」
 上体を起こしたその生徒のぼさぼさ髪の上に、太った黒猫が、でん、とのっかる。
「トクロウくんほどユニークな子ではないけど……」
 ようやく腰を上げた徳川篤朗という生徒に向かって、狭間紗織は保証した。
「……それでも十分に面白い子よ……」

「……それでも十分に面白い子、とは君のことか?」
 よれよれの制服に身を包み、頭に太った黒猫を乗せた二年生が、翌日、昼休みに荒野たちの教室に入ってきた。
 ネクタイの色から二年生だと分かるが、荒野たちは見かけたことのない顔だ。少なくとも、このクラスではない。
「すごい美形だから見ればすぐに解る、と、狭間女史はいったのだ……」
 一通り教室を見渡した二年生は、才賀孫子の机につかつかと近づいてきたかと思うと……。
「気に入った。大いに気に入ったのだ。このぼくに挑戦してくるのを許すのだ!」
 目を見開いて引き気味になっている孫子をよそに、そんな叫び声を上げはじめる。

 荒野のクラスメイトたちは遠巻きにして「おい、トクガワだよ」とか「トクロウだよ」と囁きあっていた。
「……誰、あれ?」
 荒野は異様な風袋の二年生の登場に目を丸くしながら、たまたま近くにいた樋口明日樹に尋ねた。
「徳川篤朗って人でね……」
 樋口明日樹も突然登場した徳川篤朗に目を丸くしていたが、小声で荒野に囁いた。
「まあ、有名人。あの年齢で、株や特許でしこたま儲けているって話しで……」
「……株……は、まあいいとしても……特許?」
「うん。発明家なの。かなり有名な企業も、あの人のパテント使っているって……。
 この辺りでは、有名な、変人……。
 先生たちも触らぬ神に祟り無し、で、放置している……」
 樋口明日樹はさらに声を小さくして、「見ての通り、かなりいっちゃっている人だけど」とつけ加えた。
『……世間は広い……』
 荒野は内心で冷や汗を流した。
『……一族の連中も相当に浮き世離れしているけど、その上をいくような奴が、こんな身近にいたとは……』

[つづき]
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