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彼女はくノ一! 第四話 (20)

第四話 夢と希望の、新学期(20)

「……それでさ、結局、お兄さんはつき合っている人、いないの?」
「荒野は、二宮とらぶらぶなの。姉崎とも、らぶらぶなの」
「い、いや、それは解っているんだけど……」
 加納荒野が二宮浩司やシルヴィ・姉崎に抱擁されている風景は、今や学校では頻繁に見られる。もはや風物詩扱いだった。周囲には、「加納兄は複雑な家庭環境だったんだなぁ」とか「外人さんの愛情表現は大胆だよ」と理解されている。
 もちろん、それ以上に性的に不適切な関係を邪推する者も少なくはなかったが、当事者である加納荒野が本気で嫌がっていて他の二人が面白がって追いかけている……という構図が傍目にもはっきりしているので、本格的には問題視されていない。
「……そういうのじゃなくて、同い年くらいの女性と、親しくしてたりしないの?」
「同い年くらいの男性、でもいいけど……」
 もう一人の女生徒が混ぜっ返すと、茅と一緒に歩いていた文芸部員たちは路上で一斉に「きゃーっ!」と悲鳴に似た声を上げた。
 加納茅と文芸部員の五名の女生徒は、学校から駅前商店街の外れにあるケーキ屋、マンドゴドラに向かっている最中だった。
 校則には「保護者の同伴なしに制服姿で飲食店に入ってはいけない」とか「登下校中の買い食いは禁止」などの項目があった筈だが、そんな規則を真面目に遵守している生徒は皆無だ。
「……同い年くらいの……」
 茅はしばらく首を傾げて考え込んでいた。
「荒野、茅ともらぶらぶなの」
「兄弟じゃねー」
「荒野、絵描き……もう一人の狩野香也とも、らぶらぶなの」
「もう一人のカノウコウヤ……って誰?」
「絵描きっていったから、あれじゃない? 一年の美術部員。あの子、狩野君っていってた……と、思う」
「ああ。あのぼやーっとした感じの、目の細い子?」
 一年の狩野香也は、二年に転入してきた加納荒野ほどには有名でも印象的でもなかったので、文芸部員たちには「かろうじて存在を知っている」程度の認識しか持たなかった。
「絵描き、茅たちのマンションの隣りに住んでいるの」
「マンションの隣り? 隣りの部屋?」
「違うの。隣りの一軒家なの」
「……ふーん……ようするに、ご近所で仲がいい、ってわけか……」
 文芸部員の女生徒たちも茅との会話に慣れてきたのか、茅がいう「らぶらぶ」は世間的な意味合いとはだいぶズレがあることに気づきはじめていた。

「……ここ、マンドゴドラ」
「お。本当だ。着いた着いた」
「あー。まだあの猫耳CMやってるー……」
 マンドゴドラのショーウィンドウ上部に据え付けられた薄型液晶ディスプレイには、相変わらず着物姿の茅と荒野が世にも幸福そうな顔をしてケーキを食べ続けていた。
 茅たちが中に入ると、顔見知りのバイト店員が「いらっしゃいませ」といいかけて茅に気づき、慌てて店の奥に引っ込んでいった。
「……てんちょー。例の妹さんのほう、来ましたよーっ……」
 とかいうバイト店員の声に続いて、いかつい顔にダイナミックな笑顔を浮かべたマスターが出てくる。
「お。来た来た。今日は団体様だな」
「いつもご馳走になっているから、今日はお客さん連れてきたの」
「ああ。いいんだいいんだ。気にしなくて。
 こっちは十分に元とっているから、そちらのお連れさんの分も奢るよ……」
 マスターがそう請け負うと、茅についてきた文芸部員は「きゃーっ」と声を上げ、その場で小躍りしだした。
「ちょうどいい。
 人数もいることだし、これから本格的に売り出すイチゴ物の試作品、みんなで試食してもらうか……」
 マスターはそういって店の奥に姿を消した。

「……それでなあ、茅ちゃん……」
 一通り「イチゴ物ケーキ尽くし」を文芸部員たちに振る舞って感想などを聞いてから、マスターはいよいよ本題を切り出した。十脚ほどのカウンターしかないマンドゴドラの喫茶室は女子学生のきゃぴきゃぴしたノリに支配され、他の客が寄りつかない場と化している。マンドゴドラは持ち帰りが主体の店だから、それでいいとマスターは思っている。
 そうした一時的なことよりも……。
「……このCM、もう古いだろ? 一月半ば過ぎで、振り袖はないよなぁ……」
 マスターの言葉に、景気良くケーキを振る舞われた茅の同伴者たちがうんうんと頷く。
「……でな、できたら新しいヴァージョン……今度は、バレンタイン・モードを作りたいんだが……そっちのお兄さんのほうに、話し通してくれないかねぇ……」
 ……羽生さんに相談したら、『加納荒野を口説いてくれたら考える』っていわれてねぇ……。
 と、マンドゴドラのマスターはわざとらしく大げさにため息をついた。
 そばで見ていた文芸部員たちは、だいたい、
『……二匹目……いや、三匹目のドジョウを狙っているな……』
 と思ったが、それは顔に出さず、口々にマスターのアイデアを褒め称えた。
 ケーキを奢って貰った恩義、というのもあるし、ここでもう一つ恩を売っておけば、加納兄弟だけではなく、自分たちにもおこぼれに預かれるかも知れない、という計算があったからだ。
「……荒野に話すのは、いいけど……」
 マスターの話を一通り聞いた茅は、可愛らしい仕草で首を傾げた。
「……ヴァレンタイン、って、なに?」
 その場にいた全員の目が、点になった。

「……っていうわけなんですけど……」
 その日、加納兄弟は久々に狩野家で夕食をご馳走になっていた。
 日本のヴァレンタインについての知識を持たなかった荒野が聞きに来て、そのまま誘われた形だった。
「……日本のヴァレンタインって、いわゆる奇習なんですか?」
「……奇習、って……。
 あながち、間違ってもないか……」
 羽生譲は珍しく難しい顔をして唸った。
「信憑性のある一説によると、昔の菓子屋の陰謀でな……」
 その日に女性の告白代わりにチョコレートを送る……というのは、荒野の知る限り、日本だけの風習だった。
「……なるほど……。
 マンドゴドラのマスターとか、夏に鰻を売り出した平賀源内みたいな人がいたんですね……」
「丑の日か……。
 古いことを知っているな、カッコいいこーちゃんは……」
 鰻が皮下脂肪を蓄えて旨くなるのは本来、冬場である。夏場の痩せた鰻を売るために「土用丑の日に鰻を」などと言いだしたのは、当時コピーライターじみた仕事もしていた平賀源内だった。
 本来関係ないのに無理に関連づけを行って需要を促進し、商品の売り上げを伸ばす、という商法において、「丑の日に鰻」と「バレンタインにチョコ」は類似する。
 ちなみに、現在市場に出回っている鰻は、ほとんどが輸入物かつ養殖、冷凍品なので、あまり旬は関係なくなっている。
「……で、そのカッコいいこーちゃんは、またマンドゴドラのCMやるのかね?」
「……それなんですけどねぇー」
 荒野も難しい顔をした。
「マスターには世話になっているし……でも、いい加減、きりもないので……今度こそ最後ってことで、あと一回だけやろうかと思っています……」
「そっかぁ……でも、衣装が問題だなあ……ヴァレンタインって、クリスマスや正月と違って、これって服装ないし……」
 羽生譲も腕を組んで考え込む。
「……インパクトもあったほうがいいしなぁ……」
「それについては……」
 それまで興味なさそうに聞いていた才賀孫子がいきなり発言しただしたので、加納荒野は非常にイヤな予感がした。
「……わたくしに、とてもいいアイデアがあります……」
 最近の荒野の「イヤな予感」は、的中率抜群だった。

 ……ゴシック・ロリータ……。
 と、才賀孫子は囁いた。

[つづき]
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