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彼女はくノ一! 第四話 (18)

第四話 夢と希望の、新学期(18)

 クラスの中でもかなりおとなしい、静かな生徒だった狩野香也の特技が周知のものとなり、転校生二人や柏あんなの他に、始業式の日に羽生譲の同人誌を持ってきた牧野と矢島の二人の女生徒などが、頻繁に香也に声をかけるようになっている。挨拶程度、ということになれば、人数はさらに増える。そんなわけで、香也個人の周りには、実質上クラス内で孤立しているも同然だった前学期までとは比較する気にもなれないくらいの変化があった。
 転校生二人、加納茅と松島楓も、日を追う毎に好意を集めている感触があった。最初、クラスメイトたちの興味を引きつけたのはやはり外見、二人の整った容姿だったが、そのうち、茅と楓は授業中に軒並み教師を論破したり凹ましたりし続けるようになり、体育の授業では、楓は身体能力の高さを強く周囲に印象づけた。同時に、サッカーやドッチボールのルールを知らなかったり、といった天然の無知ぶりは、もっと強く印象に残ったようだが……簡単にルールを教えると、たちまちコツを掴み、何年もプレイし続けている他の生徒並の活躍をしてみせた。茅は、楓ほどのには順応性は高くなかったが、それでも、色白で一見ひ弱そうな外見に反し、体力的には、女子の平均を大きく上回るようだった。
 授業中の香也は、相変わらず、静かで目立たない生徒だったが、静かで目立たないながらも香也の中ではそれなりに変化が起こっており、年末から自宅で半強制的かつ継続的に勉強をさせられているので、以前よりずっと授業の内容が分かるようになっていた。いつの間にか、不意に教師に指名されてもまごつかない程度には、他の同級生たちに追いついていた。
 そして、休み時間になると決まって楓が香也に近づいてきて話しかけてくる。
 楓ほど緊密に、ではないが、三学期にはいってから香也に近づいてくるようになった牧野と矢島の二人の女生徒などは、昼休みにお気に入りのキャラクターを香也に模写させながら、
「狩野君へのアプローチみていると、楓ちゃんって犬系だよね」
「うん。狩野君ところに来ながら、こう、見えないしっぽ振っているの分かるし」
 などと話し合っている。
 そんなこんなで、いつの間にかクラス内では「香也と楓は公認」というコンセンサスが香也の意志を無視して定着しつつあるのであった。香也は、本来社交的でもないし自分の意見を他人に伝えるのが得意でもないし、第一、無下に否定するような発言をしたらクラス中から総スカン位そうな機運を感じていたので、黙ってそうした雰囲気を容認するしかなかった。

 時間がある昼休みなどは、他のクラスにいる堺雅史が訪ねてくることもあった。家が隣同士であり、ほぼ全校的に「公認」ということになっている、柏あんなと堺雅史だったが、昼休みに堺が訪ねてくるのは香也と付き合うようになってからであり、教室内で柏あんなと堺雅史はあまり会話をしなかった。
 そのことについて柏あんなは「家でいつも一緒にいるし」と澄ました顔をして周囲の顰蹙を買い、堺雅史は照れ笑いを浮かべながら香也と制作中のゲームについて、細かい打ち合わせをするのだった。
 香也は以前、堺雅史にゲーム制作者が集まるソーシャルネットへのアクセス権を発行して貰ったのだが、そこには、数えるほどしかアクセスしていない。
 自分が描いた絵に対して、否定的なものであれ肯定的なものであれ、極めて短時間で反応が帰ってくるのは面白いと思ったのだが……虚構のキャラクター一人一人の髪型や外見など、ヴィジュアルに対する細かな修正案やオーダーを点検していると、香也は、制作者たちの、自分の作ったキャラクターたちに寄せる過剰な思い入れを感じ、その情の熱さや濃さに対して、噎せ返るような気分になるのだった。
 ただせさえ人が苦手な香也は、本来なら存在しない、自分たちが作った虚構の人間にそこまで思い入れをする彼らの心境が理解できなかったし、若干、引き気味にもなった。
 コンピュータ越しに他人とコミュニケートすることに慣れていない、ということを口実に、香也は、ゲーム制作のソーシャルネットからは次第に遠ざかるようになり、堺雅史や楓を介して必要な情報をやりとりするようになっていった。
 そんなわけで、最近では堺雅史と香也が接触する機会が増えている。どちらもインドア派であり、性格的にも馬があった。樋口明日樹や楓たちを除けば、堺雅史は、香也がこの学校に入ってからはじめて出来た、友人らしい友人なのかも知れない。

 放課後になると、香也は毎日のように美術室に向かった。美術部は極めてやる気のない顧問と幽霊部員多数、それに香也と樋口明日樹しかいないので、実質明日樹と香也の二人きりで活動していたようなものだった。三学期に入ってからは楓や堺雅史などが訪れるようになったこと以外には、あまり変化がない。
 そして、結局堺に誘われるままに楓はパソコン部に入部したので、週に何日か、香也と明日樹は美術室で二人きりになった。二人きりになった、といっても、以前から部活の時はだいたいそんな感じだったので、なんの変化があるというわけでもないのだが。
「……今、この状態みればわかると思うけど……」
 しかし、ある日の放課後、樋口明日樹にいきなりこういわれた時、香也は到底承諾できない気持ちになった。
「……三年になると、わたし、受験でこっちにはあまり顔出せなくなるけど……そうしたら、狩野君が部長ね」
 到底承諾できない……という気持ちは強いのだが、香也は、反論もできないのだった。
 樋口明日樹に「受験を止めろ」とか「三年になるな」とかいっても無駄な相談というものだし、一年で、いや、全学年の部員を集めても、明日樹と香也以外にまともに部活に出ている者はいないのだから……必然的、除去的に、香也が次期部長、という形になる……。
 香也の気持ちとしては、目一杯否定したかったが……目一杯否定したところで、なにが変わるというものでもなかった。

 加納茅は「図書室で先輩に誘われた」とかで、すんなり文芸部に入部した。
 もっとも、部活のない日も決められた下校時間ギリギリまで図書室に入り浸っていたから、文芸部に入ったからといっても、茅自身の生活にはあまり変化はないようだったが。
 楓は茅と一緒に下校するようにしていたから、自分の部活がない日は美術室に来て、香也の背中を見ながら静かに時間がたつのを待った。
 そして下校時間になると、変える方向が同じ樋口明日樹も含め、四人で一緒に帰宅した。

 学年が違うこともあって、加納荒野や才賀孫子とは、登校する時を除き、学校で接触する機会があまりなかった。才賀孫子はそつなくこの学校にとけ込んでいるようで「二年に入ってきた美人の転入生」という以外の噂はあまり聞こえてこなかった。
 が、加納荒野に関しては、
「この間、おれ、狭間先輩とあれがツーショットしているのみちゃったよ……」
「あー。あの猫耳兄のほう? あれ、料理研に入ったとかいってたな?」
「マジ? あそこ、女子しかいないって話しじゃね? ハーレムだよハーレム!」
「あと、この間、シルヴィちゃんに廊下で抱きつかれてたぜ、あの猫耳兄……」
「くっそー! あのケーキ屋の猫耳め!」
 などという噂が、そうした事にはうとい香也の耳にも漏れ聞こえてきているくらいだから、全校的にはかなり凄いことになっているような気がする……。
 香也は、
『……あの人、たしか平穏な学生生活を望んでいたような……』
 とか、思わないでもなかったが……学校でも加納茅とずっとくっついていたら間違いなくシスコン疑惑が確定したした筈でもあり、そういう意味では別の騒がれ方をしていたほうが、幾分は、マシか……と、思わないでもない……。

 いずれにせよ、狩野香也の三学期は、平穏ながらも確実に過ぎ去っていくのであった。

[つづき]
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  • 2006/05/19(Fri) 00:48 
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