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彼女はくノ一! 第四話 (17)

第四話 夢と希望の、新学期(17)

 今学期に入って初めて自分の受け持ちのクラスで授業をすることになったこの日、岩崎硝子先生はかなり緊張していた。
 それというのも、今学期から転入してきた生徒が「手強い」と、岩崎先生よりも先にこのクラスでの授業担当した同僚たちにさんざん聞かされていたからだ。
「……手強い? もしかして、授業の妨害でもしたとか……」
「静かといえば、静かなんですけど……」
「むしろ、逆。熱心すぎるんです!」
「わたしも、質問責めに合いましたよ」
「こっちは黒板書きの誤字、何度も指摘されたなあ……」

 ある教師は、自分の体験談をこう語った。
 転入生のうち髪の長いほう、加納茅は、授業中、教科書やノートを机に出していなかったり、よそ見ばかりして教師のほうにあまり注意を払わなかったり、と、非常に態度が良くない。
 よそ見はともかく、教科書を出していないのは何故かと問いただすと、
「もう全部覚えたから、開く必要がないの」
 と自分のこめかみのあたりを指でつつく。
 それを聞いた教師は、当然その場しのぎの虚勢だと思ってページ数を指定して、なにも持たない茅に、教科書の内容を朗読させる。
 すると茅はm目を閉じて何ページでも何十ページでも、教科書の内容を、誰かが静止するまでえんえんと朗読し続ける。
 加えて、
「このページの問題の答えは……」
 などと、教科書に記載されていた問題の解答まで、解説付きで、口頭で説明しはじめる。
 目を閉じたまま、そらで。
「もういい!」
 と、その教師は茅の言葉を遮った。
 なんのことはない。これでは、自分の代わりに茅が授業をしているようなものだ。
 転入時に行った小テストの結果を考え合わせても、加納茅は、この学校で教える程度の知識は、既に学習済み……というより、丸暗記済みにしか思えない……。

 また別の教師は、松島楓についてこう語る……。
 もう一人の転入生、松島楓は、加納茅よりもよっぽどおとなしい、扱いやすい生徒だ。
 授業態度も真面目で、熱心で……むしろ、だからこそ、かえって授業が進まない。
 全教科の内容をおおかた暗記しているらしい加納茅に比べ、松島楓は教科により出来不出来の差が激しかった。楓は、自分の理解が深い教科に関しては、授業中もかなりおとなしい生徒といえた。
 が……楓が苦手とする教科に関しては、積極的に手を挙げ、自分が理解できるまで教師を質問責めにする。楓は予習をしてきた上で解らない箇所を質問してくるのだが……どうも根本的な部分で、基礎的な知識が欠落しているような部分もみうけられた。
 例えば、現国の長文読解の問題に対し、
「『この時の気持ちを以下の中から選択せよ』、とのことですが、物語の登場人物の気持ちって、作者でもない第三者が明確にこうだと指摘できるようなものなのでしょうか?」
 とか、
「この『四百字以内にまとめよ』という問題なんですが……この字数はどのような必然性があって決定された字数なんでしょうか?」
 などという根元的な質問を、真面目な顔をしてぶつけてくる。
「……まあ、態度からいっても、こっちをからかっているわけではない……っていうのは、わかるんですが……授業の進行の妨げには、なっているわけだし……」
 その現国の先生は、かなり疲れた顔をしてうなだれた。
「……あの松島って生徒は……いったい今まで……どういう生活してきたんですかね……」

 そんな噂をざんざん聞かされた後、岩崎硝子先生は緊張した面もちで、今学期最初の自分のクラスの授業に臨んだ。背後に、どこかの語学研究所から日本の語学学習の現場を研究するために派遣されてきたとかいう、シルヴィ・姉崎という女性を伴って。

「……で、どうでしたか?」
 自分のクラスの授業を終え、職員室に戻った岩崎硝子先生は、自分の席につくとそのまま机の上に突っ伏した。
 ぐったりした岩崎先生に、学年主任の先生が声をかける。一年生の転入生二人の手強さは、教員たちの間で、今では周知のものとなっている。
「……二人とも、真面目ないい子だとは思うんですけどぉ……」

 岩崎先生は半ば涙声になりながら語り出す。
 金髪青眼、褐色の肌、地味なスーツにも包んでも隠しきれないプロポーションの良さ……というシルヴィ・姉崎と一緒に教室に入ると、案の定、教室内は騒然となった。特に男子。
「静かに!」
 しかし、これは事前に大体想定していたことだったので、岩崎先生も落ち着きはらって生徒を静かにさせる。
 始業式で全校生徒にお披露目されたシルヴィ・姉崎を改めて紹介し、
「今日は姉崎さんも見学するので、集中して授業を行いましょう」
 と宣言する。
 紹介されたシルヴィは、いかにも外人らしい大仰なジェスチャーで、
「はぁーい!」
 と片手を上げて挨拶し、簡単な自己紹介をした後、持参した折り畳み椅子をもって教室の一番後ろに陣取った。
 加納茅は、他の先生に注意されたせいか、教科書とノートを広げてはいる。しかし、あくまでポーズだけ、なのか、すぐに校庭のほうに顔を向け、岩崎先生のほうを見向きもしなくなった。
 だから、岩崎先生は最初に加納茅を指名し、ページを指定して、教科書を朗読させる。話しに聞いていた通り、茅は、教科書を見もせずに教科書を朗読した。発音は、大部分の生徒よりもましだったが、それでもさほど正確でもなかった。
 そのことに少しほっとしつつ、岩崎先生は茅の発音の怪しいところを自分で良い直し、茅に復唱させる。
 茅はおとなしく従って、より正しい発音を覚えようと試みた……。

 ここまでは、よかった。

 しかし、この時、加納茅の隣の席の松島楓が、片手を上げた。無視するわけにもいかず、岩崎先生が楓を指名すると、楓は立ち上がって、早口の英語でまくしたてた。
「……失礼ながら、ミズ・イワサキの発音は若干訛っているのではないか? その部分の発音は正しくは……」
 うんぬんから始まり、
「……この教科書は一通り目を通したが、あまりにも非実用的な構成ではないのか? なぜならば……」
 という「教科書批判」まで、行いはじめた。楓としては、単なる質問のつもりだったが、岩崎先生には、そう感じられた。
 楓の発音はネイティブ並で、しかもやたら早口で、時折俗語が混ざる。基本的には丁寧な言い回しを選んでいるようだったが、外国語で話された内容を頭の中で日本語に翻訳しながら聞いていた岩崎先生には、とても尖った口調に感じられた。英語教師、とはいえ、岩崎先生もごく普通の日本人であり、ネイティブほどには英語に堪能ではない。その岩崎先生には、楓は、きつい口調で、ネイティブの立場から日本の語学教育を批判しているように感じられた。
 早口でまくしたてられる楓の質問をなんとか聞き取ろうとしながら、岩崎先生は、段々泣きたいような気持ちになってくる。
『……いじめ? これって新手の先生いじめ?』
 楓の早口が一区切りしたところを見計らって、岩崎先生は、涙を堪えながら、なんとかいった。
「……松島さん。いいたいことはわかりましたけど……。
 ここは、日本の学校です。授業中は、なるべく日本語を使いましょう……」
「……えー? これって、英語の授業じゃないんですか?」
 岩崎先生にそう言われた楓は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして叫んだ。
 その時の楓は、「心底驚いた」という様子で……やはり、この子には悪気はないんだな……と、岩崎先生は思う。
「……でも、日本語でないと、他の生徒のみなさんが、なにをいっているのか解りませんから……」
 岩崎先生が懇願するニュアンスも込めて、楓に重ねてそういった。
「……前いたところでは、英語の時間に日本語使うと、お仕置きされたのに……」
 とか、ぶつくさいいながらも、楓はおとなしく自分の席に座った。

 岩崎先生がふと目を上げると、教室の隅でシルヴィ・岩崎が口に手を当てて体を細かく震わせていて、あかるさまに笑いを堪えていた。

[つづき]
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