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髪長姫は最後に笑う。第五章(13)

第五章 「友と敵」(13)

「……とりあえず、君が物まねが得意だって事は分かった……」
 かなりしらけた気分になった荒野は半眼にならないように気をつけながら玉木珠美言った。
「……で、ね。マッチメイクの件、手配したの狭間先輩だから。おれがマッチメイクしたっていうのは、完全に君の誤解。おれ、狭間先輩に才賀のこと相談しただけ。そしたら、狭間先輩が囲碁将棋部のこと持ち出して、今のような状況になっちまったわけで……」
 加納荒野は警戒していた。
 初対面になる玉木珠美……とかいうこの生徒、なんだかノリが羽生譲に近い……。
『……深入りをするのは、危険』
 荒野の本能が、警報を発していた。
「……っていうわけだから、おれ、ほとんど無関係。詳しいことは、狭間先輩に聞くといいよ……。
 そういうことなんで……じゃあ、今日はこのへんで!」
 しゅた! と片手を挙げて、荒野は保健室から出ようとする。これ以上巻き込まれたくはない、というのが本音だった。羽生譲もそうだが、悪気もなく実に楽しそうに他人をオモチャにするこの手の人種が、加納荒野はかなり苦手だった。この町に来るまでこの手の人種を知らなかったので気づきもしなかったが……。
「逃がすな! うどー一号!」
「……」
 玉木珠美と一緒に保健室に入ってきたガッシリとした体型の男子生徒が、保健室を出ようとした荒野の手を掴んで拘束した。
「その子は有働祐作。
 わたしと同じ、放送部員で滅多にしゃべらないシャイなナイス・ガイだ!
 ちなみに、ウドの大木とか使い古されたシャレをいうのは禁止だ!」
 玉木珠美が同じ放送部員である有働祐作について説明する。
 有働祐作という生徒は、荒野よりも一回り大きい位だったが、横幅と厚みがある男性らしい体型の持ち主で、なんの予備知識も無しにあったら、なにかしらスポーツをやっているもの、と、思ったことだろう。
『……それでも、百八十前後かな?』
 と、荒野は有働祐作の身長を目測で見積もった。同年配の生徒のなかではでかい方なのだろうが、飯島舞花と比べるとたいしたことはないな、と、思ってしまう。最近、飯島舞花というデカ物と顔を合わす機会が多いので、荒野の中で身長に対する感覚が狂っていた。荒野の二の腕を掴んでいる力も、一般人としては強い方だろう。
『……なんだかなぁ……』
 と思いながらも、荒野はとりあえず保健室の脱出を断念した。振り払うことも可能だったが、そこまで強引に荒野を引き留める理由を知っておきたかった。
「えっと……まだなんか、おれに用があるの?」
 歩みを止めた荒野は、にっこりと愛想笑いを浮かべて振り返り、首謀者である玉木珠美に問いただした。
「さっきも説明したとおり、才賀とか徳川君とかの件、おれはほとんど部外者だから……」
「その件はそれでよし。
 ……しかぁし!」
 玉木珠美は少し間を置いて、閉じていた目をいきなり見開いて、叫んだ。
 擬音でいうと「くわっ!」というやつだが、荒野は玉木のそうしたその芝居がかった挙動に接し、内心でいよいよ白けきった。
「……もとより、放送部の興味は、加納荒野君、君自身のほうにより大なのだねぇ!
 ある時はケーキ屋の猫耳! またある時は謎の転入生兼帰国子女! そのまたある時はまったく似てない美少女の兄! さらにまたある時はリーマンな国語教師の遠縁! さらにさらにまたある時は何の伏線もなしに現れたパツキン・ガールの身内!
 こんなにも話題性てんこ盛りで、その実、正体に関しては確実な情報がまるで流れてこないという加納荒野君……一体、君は何者なのだぁ?
 ということで、我が放送部はここに、加納兄弟に独占インタビューを申し込む!」
「玉木さん、所々日本語がおかしいぞ……」
 ハイテンションに人差し指でびしぃ! と指さされ、玉木珠美に詰め寄られた荒野は、それでも落ち着きはらった様子を崩さずに、やれやれと首を振った。
「それから……いろいろ不信感をお持ちなのは分かったけど、独占インタビューの件は謹んでお断りする。
 おれにもプライバシーってのがあるから……」
 加納荒野は冷静だった。
 アクションこそ大げさであるものの、玉木の荒野たちに抱いた疑問や興味自体は、不自然だとは思わない。荒野個人は極力目立たない、平凡な一般人の学生を演じるつもりだったが……この学校に通う前に遭遇したいろいろな偶然や、それに一族の他の者の勝手な行動により、荒野たちは当初の予定よりもずっと目立つ存在になってしまっている……。
 ここまで来たら……疑問を持つな、興味を持つな……というほうが、どだい、無理なのだ……。
 が、そうした興味本位な視線に付き合って、いちいちリアクションしなければならない理由も、荒野の側にはないのであった。
「……なるほど……プライバシー、か……」
 荒野が冷静な態度を崩さないのを見て、玉木珠美は目を細めた。
 そうして真剣な顔つきをすると、ついさっきまでのハイテンションな時とは随分印象が異なる。
「……そういいたくなる気持ちも、分からないではないがな……。
 加納君……君に興味を持ったもの、一人一人に説明してまわるより、この機会に全校に君のことを正確に知って貰った方が、後々のためにもいいとは思わないかね? 放送部は、君がみんなにそうと信じ込ませたい君の情報を流布することが可能だし、君にとってもいい機会だと思うが……」
 こうして真剣に話そうとすると、玉木という生徒も意外にいい顔をする……と、荒野は思った。
「全校、とか、みんな、なんて抽象的なものに、自分のことをしゃべってもなあ……」
 荒野は愛想笑いをとどめたまま、頭を掻いた。
「おれ、自分のことなんて、すぐ目の前にいる人たち、毎朝挨拶しあうような身近な人たちにさえ分かって貰えば、それで充分だよ……。興味本位で誤解したり変な噂流したりしたい人は、勝手にやってりゃいいと思う。少なくとも、いちいち説明して誤解を解きたいとは思わないな……」
 実は、玉木がなにげにほめのかした「風評」というのは、意外に、怖い。
 一度弾みがつくとどこまでもエスカレートする。
 今の時点では、荒野たちは「なんか風変わりな」程度に認識されている。が、荒たちの持つ常人離れした能力が、なにかのきっかけで衆目を集めはじめたら……それまで親しく付き合ってきた人々の大半は、荒野たちを怖がり、排斥し始めるだろう……。
「……玉木さんはマスコミ方面に行くのを志望しているみたいだから、メディアに対しておれよりも幻想を持っているんだと思う……。
 おれ、悪いけど、校内放送で自分のことしゃべっても、たいして状況は変わらないと思う……。
 だから、インタビューも、パスな……」
 玉木という生徒が、なにか確信を持って荒野に興味を持ち始めた……とは思わない。確かに目立つ存在であるから、興味を持っただけで……一族のこと、などは当然、知らないだろう。
 ただ、いろいろかぎまわるうちに、「……偶然にしては……」と思い始め、口実を設けて、荒野に直に対面する機会を作った……ということなのだ、と、荒野は、今のやりとりをそう解釈する。
「……そっか。……それは残念」
 荒野がまともに視線を合わせてそう断ると、玉木珠美は、ふっ、と微笑んで、視線を外した。
「……それでは、放送部は独自に、地道に君の周囲をかぎまわることにするよ……」
 そういって、玉木は、有働を伴って保健室から出て行った。
 インタビューは諦めたが、荒野の周辺は調べ続ける……と、いっている……。

「……ま、あれだな……」
 保健室から出てきた三島百合香は、荒野の背中をぽんと叩いた。
「……謎の多い主人公に不信感を持ってつきまとうキャラ……ってのもお約束だよな……」
「……日本の伝統、とかいうのはナシにしてくださいよ……」
「……ぎくぅ!」
 荒野は、三島の機先を制した。

[つづき]
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