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第四話 夢と希望の、新学期(22)
三時間ほどかけて、羽生譲はデジカメとビデオで楓たち四人を撮影した。あくまでモデルや衣装の雰囲気を確認するための企画用のスナップであり、背景や証明は二の次、ということで、加納家の一室で撮影されたわけだが、最初にノリの良い才賀孫子と茅の撮影を行ってから、あまり乗り気ではない荒野や楓の撮影を行う。単体でポーズを撮らせることもあり、二人とか三人とかでうち解けて話している様子をビデオで撮ることもあり、で、まず絵コンテありき、だった以前とは方法論が明確に違うようだった。
モデルが茅と荒野の二人から、孫子と楓も加わった四人に増え、一画面に入れる組み合わせを考えるための資料、という側面もあったのだろうし、それ以外にも、今回は種類を多く撮ってなるべく長い期間放映することも考えているようだった。羽生譲は、そのために、撮影をしながらアイデアを練っているような節も見受けられた。
交代でカメラの前に立ち、羽生の細かい指示に従ってポーズをとったり表情を調整したりしているうちに、最初は乗り気ではなかった荒野や楓も、徐々に羽生の真剣さに取り込まれていく。こうした時の羽生譲の目は妥協を許さない真摯さを含んでいて、付き合っている人間も真剣に対応せざるを得なくなる迫力を持っていた。
「はい。ご苦労さん。
今日はこれでいいや」
と羽生譲が宣言した時、揃って高揚した気分になっていたモデルの四人は、ほっとしたような物足りないような複雑な表情をしていた。
「続きは今度の日曜日な……」
羽生はそう続け、モデルたちに向かって「汗かいたろ? 風呂にでも入って早めに休んで」、とつけ加えた。
平日の夕食後からの撮影だったのでかなりいい時間になっていたし、明日も平常通りの授業があるわけで、早めに就寝したい即席モデルたちは、女性陣三名が一度に風呂に入ることにした。狩野家の風呂は必要以上に大きく、その程度の人数なら一度に入ってもなんら問題ない。
風呂の順番待ちをする間、加納荒野は狩野香也がこっそりしたためていたスケッチを発見した。撮影中は気づかなかったが、珍しい服装だったので、先ほどの四人の姿を隅のほうでこっそりと描いていたらしい。服装や体のラインが克明に描写されている割に、顔は細部まで描かれていなかった。三時間強の撮影時間内で、香也はスケッチブック一冊分を四人の姿で埋めていた。
そのスケッチブックの中の香也の描線は、以前にも増して生き生きとしているように思えた。
そんなことがあった翌日も、学生たちは学校には平常通りに通う。
「そういや、才賀さん、今度の土曜日に徳川と囲碁対決するんだって?」
いつも通り適当にマンション前あたりで合流し、適当に挨拶を交わしあった後、飯島舞花がそう切り出した。
「噂で聞いたんだけど……というか、全校的にかなり噂になっているけど……。
変人対美人、って……」
「相手の方のことはよく知りませんけど……」
孫子は、徳川篤郎とは一度しか対面していない。
「……狭間先輩に三回に一度勝つような相手なら、不足はありませんわ」
才賀孫子は何度か狭間沙織に碁の勝負を挑んだが、一度も勝てたことがない。
「……で、負けたら、才賀さんはそのまま囲碁将棋部に入る、と……」
舞花がそう続けて、孫子が頷く。
そういう約束だった。
孫子にしても、自分が全力を出して挑める相手が居るクラブになら、籍を置いてもいいと思っている。
「で……才賀さんが勝った時は、相手はどうすんの?」
「別に、なにも……」
孫子は澄まして答えた。
この前の昼休み、なんの前置きもなく「挑戦することを許す」などと尊大な事を言い出した生徒の態度にはたしかにカチンと来たところもあったが……だからといって、必要以上に敵意をもっているわけでもない。
まるで頭に来ない、というわけではないが、長年定石を研究し、それなりに経験を積んでいる孫子がまるで歯が立たなかった相手、狭間沙織に、一定の割合で勝てる相手なら、その程度の態度はとってもいい、と、孫子は思っている。
孫子は、負けず嫌いではあったが、同時に、実力を持つ人間を認める度量というものもあった。ある種の才覚を持っている人間に対して、相応の敬意を払うのに、躊躇はしない。
「……狭間先輩の話では……」
荒野はそう前置きをして、孫子に対戦相手に対する情報を伝える。
「あの人、相当な奇手を使うって……」
努力家で勉強家、秀才肌の孫子に対して、相手の徳川篤朗は、瞬間のひらめきや思いつきをその場その場にうまく適応させて結果に結びつける天才型の人間だ、と、荒野は聞いていた。
碁でも、その他の場でも……。
ある意味、勝つための努力は惜しまず、しかし、突発的なトラブルに対する順応性には弱い孫子との相性は、かなり悪い……と、荒野は見ている。
「……それは……楽しみですわね……」
荒野の言葉の意味を理解した孫子は、満足げに微笑んだ。
その孫子の表情をみて、荒野は、孫子が、本当になにを望んでいるのかを、初めて察した。
『孫子と楓は……本当に、正反対なんだな……』
荒野は、そう思う。
恵まれた境遇に産まれた孫子と、そうではない楓。
どちらも努力家で、潜在的な能力に恵まれていて……でも、今までは、自分が勝者の側に立つのが当然だと思っていた孫子と、そうではない楓……。
『この場に孫子を置いた鋼蔵さんの判断は、正しい……』
荒野は、そう思う。
器用で、努力家で、大抵のことはできる孫子は……自分以上に突出している存在と接することを、無意識裡に、求めている。
楓の存在にあれだけ過剰反応しているのも、香也に惹かれているのも、勝てないと分かりながらも狭間沙織に何度も碁を挑むのも……同じ心理から、でている……。
富にも才能にも容姿にも恵まれた孫子は、この土地に来るまで、物事が自分の思い通りに動くのが当然、という環境下にいたはずで……そんな孫子は、多分、自分では意識していないのだろうが……自分の思惑を超えた存在に、触れたいと思っている。
『鋼蔵さん、あの時点でそこまで見抜いていたのかなぁ……』
だとしたら、とてもではないが、敵わない……と、荒野は思う。
あの時、鋼蔵は、荒野たちを見渡して「ここには面白い子ばかりがいるなぁ」といっていた。流石、才賀の首領、というとこか。
人を見る目、見抜く目が、荒野のような若造とは、まるで違うのだ。
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つづき]
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