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髪長姫は最後に笑う。第五章(14)

第五章 「友と敵」(14)

 徳川とか玉木とか、時折奇妙な生徒はいるものの、荒野のクラスメイトを見渡す限り、大半の生徒は平凡なごく普通の学生たちだった。その辺は三島百合香が指摘したとおり、何百人も通う施設の中に数人は変わり種が混じってしまうのは、確率の問題だろう、という気もする。
 その観点から見ても、三学期という半端な時期に四人まとめて転入してきた荒野たちが目立つのも道理で、一人一人でも充分に目立つの外見の持ち主なのに、一遍に四人もまとめて転入してきたら……確かに、玉木に指摘されるまでもなく、注目を浴びて当然、な筈なのだ。
 それでも、一年に入った茅と楓は、まだいい。
 始業式の騒動が緩衝材になったということと、ある意味、外見よりも強い印象を残す二人の奇矯な言動のせいで、結果としてかえって荒野や才賀より早く周囲にとけ込んだような気がする。
 荒野がなんとかクラスメイトたちとうち解けてきたのは転入から二週間ほど経過してからで、それも旧知の樋口明日樹、クラス委員の嘉島繁、席が近い本田三枝などが何くれと話しかけてくれるようになって、そこで初めてほぐれたかな、という感じだった。
 荒野は、自分の外見が平均的な日本人の集団の中に入ると浮き上がることを知っていたし、均質性を重視する日本が、異質な存在に対して過敏に反応するとも聞いていたので、特に焦るということもなかったが、その程度の時間でクラスメイトたちとタメ口をきけるようになったのは僥倖だった、とも、思っている。
 そうした荒野に比べ、才賀孫子は未だにクラスの中で孤立しているように見えた。孫子の、一見して取り澄ました様子が同性異性を問わず周囲の者を遠ざけている、というのもあったし、孫子も、話しかけられれば慇懃に答えはするが、どうも積極的にクラスの連中と交わろうとはしていない。
 通学時や狩野家での孫子は、従来通り、それなりに感情を見せるのだが、学校では少し表面を取り繕っているように見受けられた。
 四人の転入生のうち、それまで「学校」という環境に馴染みのなかった三人がどうにかこうにか環境に適応しつつあるのに、唯一の学生生活経験者である孫子が未だに馴染んでいない……という奇妙な逆転現象が起こっているわけで……。

『……前の学校でも、あんな調子だったのかな……』
 そう思った荒野は、ある朝、通学の途中でそれとなく孫子に前の学校での様子を尋ねてみた。
「……前の、学校……」
 荒野が尋ねると、孫子は形の良い眉をぴくりと吊り上げた。
「あ、あなた……女子校……それも、良家の子女しか通わないような閉鎖的な女子校が、どれだけ非人間的な環境か、知っていて……」
「あの」孫子が、自分の肘を抱いて小刻みに震えだした。
「……そ、そんなに大変なところなのか?」
 そもそも、ほんの子供の頃を除けば学校に通った経験がない荒野は、まるで想像がつかなかった。
 孫子は顔面を蒼白にしながらコクコクと頷いた。
「……年末に手伝った同人誌……あれ、同性愛を扱ったものもあったでしょ?」
 ……あれを地でいくような世界だった……いいや、現実のほうがはるかに上にいっていた……と、孫子に告げられ、荒野はこめかみを指で掻きながら、返答に困った。
 孫子の説明を要約すると、以下のようになる。
 元々、派閥とか友人関係を重視する年頃の少女ばかり……しかも、異性にあまり免疫がなく、卒業後も生家の都合優先で結婚するのが当然だと思っているような箱入り娘が集まってくるような学校では……。
 人間関係は、強固、というよりは、粘着質なものになる、と……。
「今の学校に移ったことだけは、伯父様に感謝していますわ……」
 孫子は、呟いた。
 本来になら異性に向かうべき興味が、同性に向かう。生徒間に、比較的自由に振る舞えるのは学生のうちだけ、という共通の認識がある。加えて、生徒たちの家柄がよいから、表面を取り繕うことだけは、幼い頃から仕込まれている。親同士が取引相手だったりしたら、それも生徒の関係に反映してくる……。
 要するに、濃厚な疑似的同性愛関係が、どんどん陰湿な方向に向かう下地が揃っているのだ……と、孫子はいう。
「……もちろん、まともな生徒も多かったのですけど……」
 最後にとってつけたように孫子がつけ加えても、孫子の説明を拝聴していたみんなは、しばらく二の句が継げなかった。
「……あ、あれだ。
 わたしも、ちょい前まで女子からラブレターとか貰ってたけど……そういうの聞くと、まだまだ可愛いほうだったんだな……」
 飯島舞花が慌てて取り繕うようにいって、「ははははははは」といかにもわざとらしい、乾いた笑い声をたてた。
 舞花がラブレターを貰わないようになったのはここ数ヶ月のことで、栗田精一との交際をカミングアウトしてから以降である。
「……ってことは、才賀、前の学校でも今みたいにしてたわけ?」
 不審に思っていた孫子の学校での態度について、なんとなく納得してきた荒野は、孫子にさらに質問を重ねた。
「今みたいに……っていうのがどういうことをさすのかよくわかりませんけど……」
 孫子は荒野に頷いてみせた。
「……前の学校でも今の学校でも、特に変わったことをしているとは思いません」
 孫子の取り澄ました態度は、前の学校で、余分な派閥関係に取り込まれたくない、という一種の障壁でもあったものが、習性となったものだろう……と、荒野は納得した。
 そして荒野は、
『才賀は、学校でも、もっと地を出した方がいい……』
 とも、思った。

「……というわけで、おれも協力するから」
 放課後、いきなり放送部の部室に乗り込んだ荒野は、簡単に孫子の事情を説明し、玉木珠美に協力を申し出た。
「……昨日はインタビューをあっさり断っておいて、それかい」
 荒野を出迎えた玉木珠美は、荒野を値踏みするように目を細めた。
「ま、人手はいくらあっても足りないから、ご協力には感謝するがね。
 で、君、狩野君は具体的になにができる?」
 玉木に昨日のハイテンションな様子はなく、あくまで冷静な、ビジネスライクな態度だった。そっちのほうが玉木という生徒の地で、昨日のは放送用につくったキャラだろう、と、荒野は判断する。
「……まず、才賀についての情報提供……」
 といって、荒野が孫子の実家のことなどを話し出すと、それまであまり荒野に興味を示さなかった玉木は、途端に身を乗り出してきた。
「おい! 才賀って、あの才賀なのか!」
 身を乗り出して、興奮した様子でそう叫んだ後、ふとなにかに気づいたかのように、玉木は座り直して姿勢を正す。
「……それ、おおやけにしても構わないんだろうな?
 あと、裏はとらせて貰うぞ……」
「本人も隠している様子はいないし、公開しても大丈夫だとは思うけど……なんなら、本人に確認してみたら?」
 そうする、と、玉木は頷いた。
「あと、実況中継って具体的になにやるの? 手伝えること、ある?」
「狩野君はパソコンに詳しいか?」
 玉木の眼鏡が光った。
「囲碁の実況だと、映像がないと分かりづらい、という意見が出てな……。
 いろいろ相談した結果、パソコン部と協力して、ネットで映像中継することにした……」
 ウェブカムの応用だよ、と玉木はいった。
 孫子と徳川の囲碁対決に興味を持つ生徒が予想以上に多く、なるべく多くの生徒に見せようとすると、ネットでストリーミング配信して、放映するアドレスを告知する……という方法が一番楽にいける、ということになったらしい。
「……それ以外に、ネット環境がない生徒のために、希望者には、後でDVDに焼いたデータを実費で配布する予定だがね……」
 たかが学校の放送部……と、いえども、かなり本格的なんだな……。
 と、荒野は思った。
 インタビューの件、即座に断っておいて良かった……とも。

[つづき]
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