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髪長姫は最後に笑う。第五章(15)

第五章 「友と敵」(15)

「……というわけで、率直にお聞きしたいのだが、才賀さんの実家は、あの才賀なのか?」
 翌日の昼休み、玉木珠美は荒野たちの教室に乗り込んできて、才賀孫子に直談判した。
「あなたのいう『あの才賀』がどの才賀を指すのかはよくわかりませんけど……」
 才賀孫子は初対面にも関わらず挨拶も抜きに本題を切り出した玉木にも物怖じせず、淡々と答えた。
「……それがいわゆる才賀グループを指すのであれば、たしかにわたしの保護者の伯父が代表を務めております」
 荒野が指摘した通り、隠すつもりはないらしい。
 いきなり乗り込んできて才賀孫子の席に一直線に近寄った玉木の様子に、何事かと見守っていたクラスメイトたちは、孫子がそう言い切る。
 すると、
「おおおおおおぉ!」
 と雄叫びともため息ともどよめきが、教室内のそこここで上がった。

「ね、ね。加納君知ってた?」
 たまたま荒野のそばの友人立ちと雑談に興じていた本田三枝がおろおろしながら荒野に詰め寄る。
「うん。まあ」
「すごいよ、才賀さん! 財閥だよお嬢様だよ! あんな美人で頭もいいのにお金持ちだよ!」
 本田三枝の狼狽ぶりは他のクラスメイトの思いを代弁したものだったらしい。
「天が二物も三物も与えた!」
 とか、
「まるでマンガだ!」
 みたいな吠え声が、教室のあちこちから聞こえはじめる。
 比較的静かな者も、携帯を取り出して才賀孫子に関する新しい情報をメールや通話で親しい友人に伝えている。

「ところであなた、初対面だと思うのですけど……」
 そうしたクラス内の混乱とは別に、孫子はあくまで自分のペースを崩さない。
「失礼。わたしはこういうもんだ」
 玉木珠美は荒野にも渡した例の酔狂な名刺を孫子に手渡す。
 玉木の名刺を一瞥した孫子の眉が、ぴくん、と跳ねた。
「……この学校の放送部は、転入生の身元調査までなさるのですか?」
「そこの加納君に打診して断れてたばかりでね。才賀君で二人目だ」
 玉木は芝居がかった仕草で肩をすくめる。
「……と、いうのは冗談。
 確か才賀君は、うちの一年生が徳川との囲碁対決を中継する許可を取りに行った時、
『ふっ。御存意に』
 とかいってご了承してくださった筈。
 今日のはまあ、その中継をより面白くするためための下調べだな……。
 ご協力いただけると、ありがたい……」
 孫子当人の目の前で孫子物真似をした玉木を、孫子は冷ややかに見つめた。
「わたくしよりも、対戦相手の方がいろいろと面白いのではなくて? なかなか興味深い人物と聞いておりますけど……」
「トクツー君かぁ……
 確かにあれはミニラ先生流にいうと、
『ヤツはアレでナニだな』
 っていうやつだけど、如何せんこの学校では既に名物と化しているから、情報として新鮮味がない」
「その点、転入生でまだ詳しいことを知られていないわたくしは、まだしも弄り甲斐がある、と……」
「いやだなぁ、才賀君。弄り甲斐だなんてそんな直球な……」
 玉木はぱたぱたと掌を振った。
「……で、どうかね? 中継の前に、少し時間をとって才賀君と徳川君の簡単なプロフィールを流したいのだが、ご協力いただけるかね?」
「構いませんわ。どうぞ御存意に……。
 タマツーさん」
 孫子ににっこりと微笑まれながらそう言われてた玉木珠美は目をしばたいた。
「徳川篤朗君がトクツー君なら、玉木珠美はタマツーさんでよろしいのではなくて?」
 怪訝な顔をする玉木に、孫子は追い打ちをかけるようにいった。
「……それとも、タマタマさんとお呼びいたしましょうか?」
「タマタマいうなぁ!」
 ほぼ脊髄反射的に、玉木珠美は叫んでいた。
「失礼。お約束ということで。
 それでは、才賀さんのプロフィールはこちらで調べさせてもらい、後でチェックしていただく、ということで……」
 玉木珠美はいきなり振り返り、教室内にたむろしていた生徒たちに向かって、
「今度の土曜日、午後一時半からの放送部の中継、よろしくぅ!
 アドレスとか詳細は今日の放課後、ポスターにして張り出すから!」
 と大声で宣伝して荒野たちの教室から出ていった。

『……なかなか、興味深いやりとりだ……』
 と、荒野は思った。
『……こいつら、結構いいコンビなんじゃねぇ?』
 玉木珠美も、孫子を目前にして物怖じせず、余裕で即興漫才かませる程度には度胸もあり、頭も回る生徒だった……というわけで……。
 玉木と孫子のやりとりをみていた教室内の生徒たちも、孫子が見る目が以前の壊れ物の高価な美術品を眺めるような目つきから、より親しみを持ったものに変わっているような気がする……。
 それだけでも、放送部に協力した甲斐があった……と、荒野は思った。
『……あとは、土曜日の中継がどういう感じになるかだな……』
 荒野がそんなことを思っていると、二の腕を誰かにつつかれた。
 振り返ると、樋口明日樹がすぐそばまで来ていて、
「……あれ、仕組んだの、加納君でしょ?」
 と小声で聞いてくる。
「いや。放送部の中継は、大体、狭間先輩の仕込み。
 おれは才賀のこと、少々放送部の玉木に耳打ちしただけ」
 荒野が素直に答えると、
「狭間先輩かぁ……」
 樋口明日樹は何故かため息をついた。
「……いわれてみれば、あの人がやりそうな……」
「……知ってるの? 狭間先輩?」
「うん。あの人、生徒会長やってた時、文化部のテコ入れに力入れてたんだよねー。
 徳川君みたいなのがおとなしく囲碁将棋部に居着いているのも、あの先輩のおかげみたいなもんだし……」
 運動部に比べ、全般に幽霊部員が多い文化部は、放置するとすぐに活力がなくなる。
 狭間紗織が会長に在任中の一年間、紗織は時に強引な手段も使って有力な生徒を適所に在籍させ、それなりに活気を持たせた、という。
「……まあ、狭間先輩が生徒会から降りちゃうと、すぐに元の黙阿弥になったんだけどね……。
 しかし卒業間際に、こういう絡め手やっていくかな、普通……」
 樋口明日樹の説明を、荒野は内心で頷きながら聞いていた。
『……先輩、おれらがこの学校に来なければ、こんな強引な真似しないで、そのまま大人しく卒業していったんじゃないのか?』
 とも、思わないでもなかったが。

[つづき]
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