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彼女はくノ一! 第四話 (29)

第四話 夢と希望の、新学期(29)

 中継開始時刻の三分前くらいになって解説役を頼んでおいた狭間沙織が実習室に駆け込んできて、中継に必要な人員は勢揃いした。
「カメラさーん。予定通り行きますから準備よろしくぅ!」
 玉木珠美がヘッドセットのマイクに向かって告げると、囲碁将棋部の部室内に配置されていたモニターの中で、放送部員たちが緊張した面持ちでカメラの角度を調整する。
「秒読み入ります! 四! 三! 二! 一!
 ぽちっとな」
 玉木が手前のエンターキーを押すと、「しばらくお待ち下さい」の画面が用意されたファイルに書き換わった。雅楽のBGMが流れはじめ、才賀孫子と徳川篤朗の顔写真を向かい合わせに配置し、中間に「VS」の大文字を置いた静止画が、天井に設置したカメラからみた、中央に碁盤を置いた画面に切り替わり、その中央にでかでかとした白い筆書きの「囲碁三番勝負!」という文字が浮かぶ。

「皆様お待たせいたしました。二年E組の徳川篤朗君と二年B組の才賀孫子さんの囲碁対決をお送りします。実況はわたくし、二年A組玉木珠美、解説は三年C組の狭間沙織さんにお願いいたしました。
 狭間さん、お願いいたします」
「解説を担当する挾間沙織です。よろしくおねがいいたします」
 ヘッドセットを受け取ったばかりの狭間沙織が軽く会釈しつつ挨拶を述べた。
「さっそくですが狭間さん、この実況を視聴するほとんどの人が囲碁について詳しく知らないと思うので、簡単なルールの説明をお願いします」
「はい。囲碁ルールは極めてシンプルです。
 碁盤の線の交差点に白と黒の石を置いて、自分の石で相手の石を囲むと、相手の石を取る事が出来ます。
 それで、最後まで打って盤上に残った石の数が多いほうが勝ちです」
 玉木に話題を振られた狭間は、耳慣れない用語を避けてすらすらと答えた。
「あ。一手目、才賀さんが打ちました。才賀さんは黒い石を使うようです」
「先攻は黒い石、ということになっています。一般には、黒のほうが有利とされていますね。才賀さんが挑戦者という形ですから、先に黒石を譲られたのでしょう」
 松島楓がログインしていたネット碁のゲーム画面で、孫子の手と同じ位置に黒石を置いた。
「徳川君、間髪入れずに石を置きます。才賀さんが打ったところから、だいぶ離れた所に置きましたね……。
 挾間さん、石はどこに置いてもいいんですか?」
「相手の石に囲まれた地点……呼吸点へは、置いてもすぐに取られるの打てませんが、それ以外には特に制約はありません。
 数手先を読んであえて一見関係のなさそうな場所に置く、ということもありますが……これは、すぐに才賀さんの動きに対応せず、地を作るためでしょうね」
「地を作る?」
「長期的なことを視野に入れて、自分の有利な地勢を作ろうとすることをそういいます。
 相手の動きを牽制しながら盤面を自分の有利な方向に形成していくわけで、よく将棋は戦術的なゲーム、囲碁は戦略的なゲーム、などという言い方をいいます。
 二人とも初対戦の相手ですから、しばらくはお互いの手の内の探り合いでしょう」
「はぁ、なるほど……。
 ああ。才賀さんも徳川君もパチパチ景気よく石を置いていきます」
 離れた場所に幾つか石を置くことで始まったが、孫子がすぐに篤朗の陣地に隣接した場所に石を置きはじめ、それからは乱戦に近い状態になった。
「あ。今、才賀さんが白石を取りました」
「囲むと、ああして相手の石を取れるわけですね」
「今度は徳川君が黒石を……」
 玉木は、事前にそれなりに勉強してきたものの、囲碁のルールをあまりよく知らなかったので、実況といってもたいした事はいえなかった。だいたい、才賀孫子も徳川篤朗もテンポ良く石を置いて陣地を作り、素早く相手の石を取っていくので、解説や実況がまるで間に合わない。楓が素早く対応しているゲーム画面を黙って見ていた方が、ゲームの進行がよく理解できるくらいだった。
「両者とも相手の手を見た後、すぐに自分の石を置いていきます。
 狭間さん。
 碁、というのは、いつもこれだけ速いスピードで進行するものなんでしょうか? もっとスローな……お年寄りがのんびり打つ物、というイメージがありますが……」
「それは……プレーヤー次第でしょうね……」
 狭間沙織は苦笑いしながら玉木の初心者らしいイメージをやんわりと否定した。
「実力の拮抗するプロ同士の対局ですと、長考するすることも珍しくありませんが……。
 今のところ、二人とも定石に応じた打ち方をしていると思います」
 つまり、まだ、「篤朗らしい」打ち方を披露していない……と、狭間沙織は見る。

 盤面が四分の一ほど埋まったところで、徳川篤朗は腕を組んで三分ほど考え込んだ。
『そろそろ来るかな?』
 と、挾間沙織は思った。
 案の定、篤朗の次の一手を見た才賀孫子は、「え?」と小さく声を上げて目を見開いた。
「才賀さん、かなり驚いているようですが、これは?」
「徳川君が、どうして今、そこに打つのか、まるで理解できないのでしょう」
 狭間は頷きながら玉木の質問に答えた。
「それ以外にもっと差し迫った場所……打たなければ自分の石を取られる場所、局面がかなり悪くなる場所があるんですが……」
 ……こことか……こことか……と、狭間は楓が孫子たちのゲームをコピーしているネット碁の対戦画面を指さして説明した。
「……そうした火急の場所をさしおいて、徳川君がまるで関係のない場所に置いたので、才賀さんは戸惑っているのだと思います……」
『……篤朗君、これが怖いのよねー……』
 説明しながら、狭間はそんなことを思っている。
 今までの打ち方を見ていると、孫子は基本に忠実な、極めてオーソドックスな打ち方をするプレーヤーだ。そうしたプレーヤーが篤朗のようなトリッキーなプレーヤーと対面すると、場合によって、大きく自分のペースを乱されることになる……。

 案の定、才賀孫子も、徳川篤朗に続いて長考を始めた。

[つづき]
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「あ。一手目、才賀さんが打ちました。才賀さんは黒い石を使うようです」

「あ。今、才賀さんが黒石を取りました」
「囲むと、ああして相手の石を取れるわけですね」
「今度は徳川君が白石を……」

囲碁には詳しくないけど、ゴス子さんの石は黒となってる状態で、相手の石を取るという状態で黒石をとるん?

  • 2006/05/19(Fri) 01:30 
  • URL 
  • かささぎ #-
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