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髪長姫は最後に笑う。第五章(21)

第五章 「友と敵」(21)

 ランニングを終えてマンションに帰り、競うようにして風呂場に入る。二人とも汗をかいているし、順番に入るのも面倒なので、最近では一緒にシャワーを浴びることにしている。
 一緒にシャワーを浴びても、茅は髪を完全に乾かさなければならないので、最近では朝食の準備は荒野の仕事になっている。トーストとハムエッグにサラダ、に飲み物……荒野はコーヒー、茅は紅茶……という簡素なものだったが、それで充分だった。
 学校に通うようになって、茅は食事中に学校での出来事を荒野に話すようになった。大方は「同じクラスの」あるいは「文芸部の」誰それの他愛のない噂話だったりするのだが、同じ年頃の同性が強く興味を持つ「恋愛感情」について、茅はまだ実感として完全に理解しきれていないようで、伝聞で聞くそうした噂話しの大半はどこか焦点がぼやけているような所があった。その関係で荒野のほうも何度か聞き返してようやく理解するような所もあり、おかげで一回の食事時間は以前よりはよほど長くなってしまった。
 荒野としては、茅が今まであまり興味を示さなかった「人間関係」に対して興味を持ち始めた、という事自体を、「いい傾向だ」と思っている。そして、荒野と茅の関係がこのまま「偽装兄弟」あるいは「育成役と被育成者」で終わるのか、それとも本格的な「恋人」になっていくのか結論づけるのも、もう少し時間がかかる……と、荒野はみている。この土地に来てから初めて「他人」という者を意識した茅は当然として、荒野自身もまだまだ人格的に未熟であり、今の時点で二人の関係性を変に意識することはお互いにとってあまり良くない結果を招きかねない……というのが、荒野の判断だった。
 このぬるま湯のような環境下で、茅としゃべくりながら時間をかけて食事を摂ったりする関係は、目下の所、荒野もかなり気に入ってはいるのだが……。

 週末の朝は、食事の後、茅はキッズ向けトクサツ番組を鑑賞する。
 土日の朝、日本のテレビではこの手のヒーロー番組が花盛りであり、茅の一番のお気に入りは日曜の朝にやる例の「戦隊物」というやつだが、それ以外の「怪獣がでてくると異星人の巨人に変身する青年の話」とか、「バイクに乗った仮面ヒーロー」とか、それよりもっとマイナー(らしい)な似たような番組も含めて、茅は真剣に観賞していた。
 たいていはソファに座った荒野の膝の上に乗り、瞬きも惜しむように一心不乱に見ていた。
 その手の番組は基本的に子供向けなので、ストーリー自体は単純で、善悪の区別が着ぐるみのデザインを見れば一目で分かるようになっている。日本では何故か、ヒーローも戦うときは着ぐるみに変身して戦うことになっているらしい。合成された光線や火花を散らしながら着ぐるみのヒーローと悪役が予定調和的な勧善懲悪のストーリーを毎週のように繰り返す内容は、荒野には大同小異の退屈な繰り返しにしか見えなかったが、茅は、そうした単純な内容のどこが気に入っているのか、いつも真剣に、食い入るように見ていた。
 茅と一緒にそうした番組を鑑賞しながら荒野は、
『……現実が……こんなに善悪きっぱりときれいに区別できる世界なら、誰も苦労しないよなぁ……』
 と、思った。
『おれたち一族なんて、こういう番組の中にでたら、ヒーローに倒される側の悪役モンスターだよな、絶対……』
 とかも、思った。
 ある番組の中で、実際に「悪の忍者集団」という設定の悪役組織が出てきた時、荒野はあやうく吹き出しそうにもなった。その番組の中の「忍者」はプラスチックだがカーボンだかの安っぽくてゴテゴテしたプロテクターを着けた集団で、「いくらキッズ向けの番組といってもこれはないだろう……」的なチープさと胡散臭さを発散させていて、荒野を多いに失笑させた。
 ……これが現在の一般的な「忍のイメージ」だとすれば……むしろ、その非現実的なイメージを、荒野たち一族の者は歓迎すべきなのだろう……。
 もっとも、番組の視聴者の大半も、その辺の安っぽさは弁えた上で番組を楽しんでいるのだろうが……。ハリウッド映画の中のニンジャのイメージも相当にアレなので……日本のトクサツ番組だけをどうこういうつもりは、荒野にはないのだが。

 土曜日のトクサツ・タイムが終わると、掃除と洗濯を茅と分担して行う。それが終わって買い物に行くと、ちょうど店の開く時間になった。学校が始まってからこっち、保存の効く食材に関しては、なるべく週末にまとめて買う習慣になっていた。
 その週は才賀孫子と徳川篤朗の囲碁の試合があったので、一旦買い物から戻った後、改めてパンと具材を買いに出て、かなり多めにサンドイッチを作る。昨夜からそうしようと茅と打ち合わせしていた。
 二人で二十人分くらいのサンドイッチを作り終わったところで、ちょうど茅の携帯に孫子からメールが来たので、ついでに問い合わせてお隣の狩野家からかなり大きなバスケットをお借りすることにした。
 すぐに孫子が大きなバスケット抱えてきて、「支度があるから」と座りもせずにそのまま狩野家に引き返す。いくら学校の、とはいってもネットでストリーミング中継する場にすっぴんでいくわけもなく、これから入念にメイクでもするのだろう。制服姿でも浮かないようなナチュラルメイク、くらいは、孫子なら訳なくできるような気がした。
 放送部の玉木にかなり当てにされていた楓は、朝から学校に詰めている、という。

 サンドイッチを孫子が持ってきたバスケットに詰めて制服に着替え、茅と二人で自転車に乗って学校に向かう。学校は休みだったから、駐輪場はがら空きの筈だった。
 途中、コンビニでペットボトルのジュースや炭酸飲料、それに紙コップを買い、学校に着くとちょうど昼過ぎくらいの時間だった。放送部員とパソコン部員でごった返す実習室に着く、とちょうど中継の準備が一段落した所なのか、食料を持参した荒野たちは熱烈に歓迎された。
 特に、玉木珠美の歓迎ぶりが印象的で、
「 ナイス・タイミング!
 いやー。ありがとうありがとう。
 ちょうど、なにか買い出しに行かせるか、出前かデリバリでも取ろうかと思っていた所なんだ」
 と荒野たちの手を握ってぶんぶんと振った。
 玉木はかなり強引な手段を用いて人手を集めていた節もあったから、荒野たちの差し入れで余分な散在をせずに済んで本心から安堵としているのかも知れない……と、荒野は思った。
 玉木は楓に抱きついて「この子すごいのよー」とか、他の放送部員たちに吹聴している。玉木に抱きつかれた楓は、照れ笑いを浮かべながら困ったような顔をしていた。
『……ああ。楓、なじんでいるな……』
 楓のそんな様子をみて、荒野はなんとなく嬉しくなった。
 荒野は、楓は、もっといろいろな事に自信を持っていいと思っている。
 玉木が楓を認めたことが、何故かとても嬉しかった。

[つづき]
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