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髪長姫は最後に笑う。第五章(22)

第五章 「友と敵」(22)

 強引で人使いが荒い割に、玉木珠美はなかなか人望があるようだった。
 一見強引なようだが、荒野や楓の例から考えても、玉木は他人の表情を読むのがうまく、本当に嫌がる相手に仕事を押しつける、ということはほとんどないらしい。と、いうよりは、目の前にいる人間がなにをできるのか、したがっているのかを見抜くのが、巧い……というべきだろうか?
 学習して修得できるタイプのスキルではなく、天性の資質、なのだろうな……と、同年代の人間に比べ、より多様な種類の人間を見てきている荒野は思う。
 玉木は、個人として特に優れた、突出した能力を持っているわけではない。が、人と人を繋ぐ潤滑油的な人材としては、優れている、と……。
 徳川篤朗と狭間紗織、それに荒野自身や孫子、楓、茅など、癖のある面々と短期間に親しくなり、それなりの関係を即座に築き上げる……というのは、一種の人徳というものが備わっている、とみるべきだろう。
 なんだかんだいいながらも、楓や堺などの部外者を含めて、今、この場、実習室にいる放送部員たちは玉木を中心にして動いていた。

 玉木は狭間紗織と軽快な会話で地味な「囲碁中継」にアクセントを加えながら、長考(そうした長考は、大方、孫子のものだった。最初のうち、徳川篤朗はその場の思いつきで石を即座に置いているとしか思えなかった)の時間を有効活用して、昨夜編集した動画を流していた。それらの動画は、要するに徳川とか孫子のインタビューやプロフィールを編集して、一、二分くらいの短い物にまとめたものだったが、徳川は現在の活躍を中心に、孫子の場合は、玉川が実家にコンタクトを取るとどっさりと動画や静止画を送ってくれた、という。

「……うん。才賀さんが教えてくれた番号にかけると、最初秘書みたいな人がでて、用件を告げるとなんかしぶい声のおっさんに変わって、
『なに? 孫子の学校の友達? ……あいつ、もう友達できたのか……。
 やっぱり転校させて正解だったなぁ、おい……聞いてくれよねーさん。
 あいつ、おれの末の弟の娘でなぁ……』
 とか延々長話されちゃって……」
 そうした経緯を、玉木は例によって達者な物真似混じりに長々と語ってくれた。
 どうやら、玉木と意気投合した鋼蔵によって、どっさりと「孫子の成長の記録」が玉木の元にもたらされたらしい。基本的に「他人の家族のアルバム」というのは退屈なものなのだが、玉木は、編集の面でもそれなりの才能を発揮し、例えば動画などでも一回のつき二分以内にまとめ、視聴者が本格的に退屈を感じる前に画面を中継に戻した。
 囲碁の中継、孫子の思いでアルバム、篤朗の事業の実体……この三つが数分単位でめぐるましく入れ替わりながらネット上で放映される。そのどれかに興味を持った視聴者は、続きが気になるところで全く別の映像が流れるので、よけいなフラストレーションと「早く続きが見たい」という欲望に駆られるようになった。
 玉木の指示に従って用意した映像を流すタイミングを調整していた楓は、同時にアクセス数もチェックしていたのだが、アクセス数は最初の数分で簡単に全校の生徒数を越え、時間が経過するごとに、さらに加速度をつけて増え続けた。
 どこでどういう口コミが発生しているのか、孫子の幼少時の映像が流れる度にどかーんとアクセスがあがったし、篤朗の工場の内部が映し出されると「これ、合成?」という意味の問い合わせが殺到して、それらの映像は全てドキュメンタリーであることを字幕で流さなくてはならなかった。
 一般的な常識として、篤朗の年齢で、歴とした事業主である、という例は、なかなか信じてもらえないらしい。

 そのうちに黒猫が部室内に侵入したり、篤朗の姉が乱入して浅黄を篤朗に押しつけていったり、というハプニングを起こる。
 篤朗の姪、浅黄がカメラマン役の有働の足下にじゃれついて邪魔をし始めると、それまで黙って成り行きを見守っていた茅が突然立ち上がって囲碁将棋部の部室に向かい、浅黄を抱えて実習室に帰ってきた。浅黄は、昨夜茅から強奪した猫耳カチューシャを装備していた。
 モニターの中では、有働が頭に太った黒猫を乗せながら、けなげにカメラを抱えている。
 一旦浅黄を抱えて帰ってきた茅は、実習室に来ても浅黄が一向に静かにしようとしないので、中継の邪魔になると判断したのか、浅黄と一緒に廊下に出ていった。いつもとは違う雰囲気の中にあって、浅黄も、わけがわからないだながも、興奮しているらしい。

 最初のうち、孫子は一手一手真剣に考えながらうっていたのだが、次第にぞんざいな篤朗の態度や黒猫や浅黄の乱入、などに真面目にやるのが馬鹿らしくなったのか、途中から、パチン、パチンとテンポ良く打ち始めた。
 当初、孫子が圧倒的に有利だったが、篤朗がじりじりと孫子の石を囲み、追いつめて、一つ、また一つ、と、孫子の白石を取っていく。
 荒野のような素人の目にも、当初優勢だった孫子の白石が、すぐに優勢を失い、混戦状態に入ったことが、盤面からわかるようになった。今では、盤面は白と黒がまだらになった、モザイク状にになっている。
 楓が孫子と篤朗のゲームをコピーしている画面も、両者が取った石の数が、ほとんど拮抗していることを表示していた。

 一旦テンポよく打ち始めた孫子は、すぐに事態の推移を感じ取り、再び元の、一手一手慎重に検討しながら打つ方法に戻した。が、一度崩れたペースは容易に元に戻らず、一局目は、当初圧倒していた孫子が篤朗にいいように崩される形で終わった。
 結果として孫子は僅差で勝つことができたが、辛勝、といっていいだろう。
 あるいは、孫子は、本来ならもっと楽に勝てたところを、篤朗に振り回されたおかげで、苦労してどうにか負けないですんだ……という所まで追い込まれた形で……。
 勝ったにも関わらず、孫子の表情は苦渋に満ちていて、晴れやかではなかった……。

「……さて、一局目はこれで才賀孫子さんの勝利という形で終わりました。
 ここで十五分の休憩の後、二局目に入ります。
 それまでの間、みなさんはこのままCMをどうぞ……」

 玉木珠美はそういって、昨夜羽生譲が編集していたマンドゴドラのCM映像を流しはじめた。
 すっとんきょうな格好をした加納荒野、加納茅、才賀孫子、松島楓の姿が軽快なBGMを背景に流れ出すと、実習室にいた面々の視線が瞬間に荒野に注がれた。
 いや、厳密には、荒野と同じ実習室内にいた松島楓のほうをみた人間もいた筈だったが、荒野の主観では、その場にいた全員の視線が荒野に集中した……ように、思えた。

 彼らの視線を無理に言語に翻訳すると……。
 好奇と……憐憫……だったろう……。

 たいていのことには動じない荒野も、この時ばかりは頬が熱くなるのを感じた。
「……お、おれ……」
 と、不明瞭な擦れた声をあげ、その場にいたたまれなくなった荒野は、反射的に背を向けて実習室から逃げ出すように出ていった。

[つづき]
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