2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

彼女はくノ一! 第四話 (31)

第四話 夢と希望の、新学期(31)

 しばらく、パチリ、パチリ……と孫子と篤朗が交互に石を置く音がテンポよく続いた。当初、孫子が一手置く度に篤朗の白石を取るような感じだったが、時間がたつにつれて次第にただ石を置くだけになり、反対に、当初石を置くだけだった篤朗が、じわりじわりと孫子の黒石を取っていくようになった。
 一時は誰がみても優勢だった孫子の黒石はどんどん篤朗の白石に浸食され、試合を終えた時には、白石と黒石が半々に入り混ざったモザイク状の盤面になっていた。
 最初の対局は、篤朗にかなり追い上げられた孫子が、僅差で辛うじて勝ったのびた、という形で終了した。

 試合が終わると十五分の休憩時間がとられ、その間、試合に臨んでいた孫子たちはモニターしていないネット上では、場つなぎに数日前撮ったばかりのマンドゴドラのCM映像が流れている。
 ほとんどマスカレードに近いノリの加納兄弟や才賀孫子、松島楓がにこやかに笑い戯れている映像が軽快なBGMとともに流れ、時折「洋菓子のマンドゴドラ」の店頭写真や電話番号を書いた静止画が挿入される。もともとテストとして撮った映像を突貫で適当に加工、編集したものだから、映像としてのコンセプトが一貫していないし、見ていてもどこか締まりのない印象を与える。
 しかし、囲碁の試合中継の合間に予告なく流された映像としてはインパクトがありすぎるくらいで、その場にいた出演者たちに向かって「ぐっじょぶ!」と親指を突き出したり、「いいよ、これ、いいと」とp笑いながら親しげに肩を叩く、などの反応を示す生徒が続出した。
 出演者たちの反応は、というと、加納荒野は映像が流れ出した途端、皆があっけにとられ、そのような反応を起こす前に引きつった顔をしてさっさと実習室から出て行き、すぐに生徒たちに囲まれて賛辞の渦中に填ってしまった松島楓は俯いて赤くなったり青くなったりしながら小さくなっている。
 孫子がいたの囲碁将棋部にはカメラマン役の数人しかおらす、楓のいた実習室ほどの騒ぎにはならなかった。孫子はそうした外野の思惑や反応にはあまり関心がなかったし、周囲の人間に注目され、騒がれることに慣れていたので、片手を挙げて軽くいなしながら椅子から降りて背背伸びをしたり、肩を回したり、と、こわばった体をほぐしはじめた。
 見ると、篤朗も孫子と同じようなことをしていた。

 最初の対局で孫子が理解したことは、篤朗は、普通の碁打ちならごく普通に学ぶはずの定石などの知識はまるで欠いており、従ってまるっきり我流の、予測のつかないうち方をする、ということ。
 それににも関わらず、とても、強い……ということだった。
「……トクロウ君、やりずらい相手でしょ?」
 いつの間にか、部室に来ていた狭間紗織が、孫子に近寄って小声で話しかけた。
「ええ。とても……」
 孫子は真面目な顔をして、紗織の言葉に素直に頷く。
「とても、やりずらい、相手です……」
 孫子が、荒野たちのマンションで、初めて紗織と佐久間源吉の対局を見た時、双方の打ち方の緻密さ、エレガントさにかなり驚いたものだったが……徳川篤朗のうち方は、それと比較するのにも馬鹿らしくなるほど出鱈目で行き当たりばったりで予測がつかなくて……それでも、気づくといつの間にか窮地に立たされているのだった。
 ひらめきに頼った篤朗の打ち方は、孫子が今までに知っているどんな打ち手とも異なっていた。
「篤朗君の打ち方、ね……」
 紗織はため息をつきながら、率直な感想を述べる。
「……特定のパターンというものがないの……あそこまでランダムに打てる、というのも、一種の才能だわ……」
 異常ともいえる記憶力を持つ紗織は、篤朗との対局も合わせ、今までに行った対局の一手一手を克明に記憶している……というより、忘れようとしても忘れられない体質なのだ、という。
 その紗織が、「特定のパターンがない」と断言するというのは……やはり、「一種の才能」、なのだろう。
 紗織の洗練された打ち方を思い返して、孫子もため息をついた。
 紗織の打ち方に比べたら、篤朗の打ち方はいかにもその場しのぎで野蛮で出たとこまかせで……しかし、篤朗が「三回に一回は紗織に勝てた」という言葉が、とても真実味をもって孫子の腑にも落ちるのだった。

 孫子は紗織に碁で一度も勝てたことがないが……紗織のような洗練された打ち方に対抗するには、篤朗のような破天荒な打ち方しかないだろう……。
 そして、沙織ほど突出した記憶力は持たないものの、多くの定石を努力して覚え、対局数を増やすことで地道に腕を上げてきた努力家の孫子は、碁のうち手としては沙織に近い。
 よって、次の一手の予測がつきがたく、それでいてここぞというときに妙手をくりだしてくる篤朗のような相手は、とても苦手だった……。
 言い方をかえれば、孫子と篤朗の対局は、努力の末知識と経験を積み上げてきた秀才型の孫子と、どこから来るのか分からないひらめきに頼った天才型の篤朗との対決、という事になる。
 そして孫子は、沙織のような正当派の打ち手に負けるのならまだしも、篤朗のような「なんで強いのか理解できない」相手に負ける、というのは、どうにも納得がいいかないのだった。

 囲碁将棋部の部室内で孫子が真面目に闘志を燃やしている頃……。
「いやー、凄いな、みんなの恰好……いったい誰の趣味だ?」
「……その、今回のは大体才賀さんの……」
「ええ? 才賀さん? あの子、こういうのが趣味なの! 楓ちゃんのこれも?」
「こ、これは、羽生さんって同居している人がどこからか持ってきた衣装で……。 わ、わたしの趣味じゃ、ないんですよ……」
「……い、いや……そうだろうけど……」
「い、いいじゃん。似合いよ、うん。こう、ぼん、きゅっ、ぼん、な感じで……」
「楓ちゃん、制服だと目立たないけど、スタイルいい……」
「衣装という点では、加納兄も凄いな……猫耳がチョコレート工場の社長に化けた……」
「チョコレート工場の社長は、どちらかというと徳川だろ? みたろ? 徳川の工場」
「馬鹿! ファッションの話しだって!」
 マンドゴドラのCMを流しっぱなしにしてすることがなくなった実習室内で、CMの出演者の中で一人取り残された楓は、他の生徒たちに取り囲まれて逃げ場を失った状態にあった。
 楓を取り囲んだ生徒たちはいつ果てるともない雑談に興じている。
 やたらと騒がしい生徒たちに囲まれて縮こまりながら、楓は、モニターでアクセス数をチェックする。アクセス数は、CM映像が流れ始めても、増え続ける一方だった。

 孫子は気を引き締め……油断もしないし、相手のペースに巻き込まれない……ということを自分自身に命じて、気概を新たにして二局目以降に臨んだ。

[つづき]
目次

有名ブログランキング

↓作品単位のランキングです。よろしければどうぞ。
newvel ranking  HONなび


↓このblogはこんなランキングにも参加しています。 [そのご]
駄文同盟.com 姫 ランキング 萌え茶 アダルト探検隊  BOW BOW LOVE☆ADULT アダルトタイフーン  エログ・ブログTB 18禁オーナーの社交場 ノベルりんく
アダルトアフィリエイト

Comments

>もともとテストとして取った映像を吶喊で適当に過去魚、編集したものだから、

・・・・過去魚?

  • 2006/03/29(Wed) 08:36 
  • URL 
  • #-
  • [edit]

過去魚 → 加工
でしたね。

……変換ミスもここまで来ると芸だなぁ……。

その前後もけっこうミスが凄かった。
修正させていただきました。

ご指摘ありがとうございました。

Post your comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackbacks

このページのトップへ