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第五章 「友と敵」(25)
「……そういや、徳川や才賀も一緒にカラオケにいったんだよな……」
荒野は、今度はその二人に水を向けた。
「二人とも、なに歌ったんだ?」
才賀は器用になにでも歌えそうな気がするが、徳川はいったいどういう曲を歌うのか見当がつかない。ある意味、今日の主役は二人だから、歌わずに済ませる、という選択肢は与えられなかったと思うのだが……。
才賀は、今流行しているJ-popのナントカ(荒野は、その曲名も歌手名も知らなかった)を、徳川は「戦え! ご奉仕! メイドール3!」を歌った、という。
才賀は歌唱力の確かさで、徳川は選曲のミスマッチさで大いに受けを取った、と、同行した玉川が保証してくれた。
「ぼくが歌える歌などそのていどくらいしかないのだ!」
と、何故か徳川篤朗は胸を張った。姪の浅黄につき合って、毎週日曜日の朝には例の「特撮物」を観ているらしい。
夕食後、茅と意気投合した浅黄は、
「かやといっしょにいる」
と駄々をこねはじめたため、そのまま荒野たちのマンションに一泊することになった。一応保護者であるはずの徳川篤朗は、浅黄を二人に預けても、あまり心配そうな様子も遠慮している様子も見せなかった。荒野たちを無条件で信用しているのか、それとも単に鈍感なだけなのか、篤朗の泰然とした態度からは推し量れなかった。
浅黄は茅といっしょに風呂にも入り、外にいる荒野にも聞こえる音量で「戦え! ご奉仕! メイドール3!」を合唱していた。少し狭かったが三人で川の字になって同じベッドに寝た。浅黄がいるので、荒野も茅もひさしぶりにパジャマを着用した。荒野は、浅黄に腹を蹴られ、何度か夜中に目を覚ました。
翌朝、いつもの時間に浅黄を起こさないように気をつけながらごそごそ起きだし、スポーツウェアに着替えてランニング。帰ってきても浅黄はぐっすりと寝込んでいたので、そのまま交代でシャワーを浴びる。先に荒野がざっと汗を流し、朝食の用意をしている間に茅がシャワーを浴びた。
浅黄を起こし、三人でいつものように朝食を摂る。浅黄の飲み物は、ホットミルクを用意した。一晩ぐっすり寝た浅黄は、一旦目を覚まし顔を洗うと、昨日と同じくらいの元気さをみせ、大きな声で「いただきます!」と唱和してから、口のまわりを盛大に汚しながら騒がしく食事を済ませた。
食事を終えた後、三人でソファに座って「奉仕戦隊メイドール3」を鑑賞する。
三島の話しによると「二月に番組の入れ替えがある」ということで、「奉仕戦隊メイドール3」は最後の盛り上がりを見せていた。
それまでシュルエットでしか姿をみせなかったガンドール皇帝ガンジールが直接メイドールたちの前に姿を現すようになり、メイドブラックは敵組織の幹部であるマハラジャフスキー伯爵の甘言を真に受けて奉仕戦隊の敵に寝返って悪のメイドさんになり、メイドブラックを失った御剣兄弟は悲観にくれ「真の、あるべきご主人様像とは何か?」と迷うようになっていた。
そんな感じでテンパっていた番組の内容に浅黄はいちいち反応し、怒声やら歓声やらをあげる。
そのうち、いつもは静かにじっと観ている茅までもが浅黄の反応に引きずられて声をあげながら観るようになり、エンディングテーマの「元気にご奉仕体操! 1! 2! 3!」が流れはじめる頃には、二人してテレビの前で「ご奉仕体操」の振り付けつきで合唱をし始めた。
『……まあ、茅が楽しそうだから、いっか……』
そんな二人の様子をみながら、荒野はそう思った。
「奉仕戦隊メイドール3」が終わってしばらくすると羽生譲から「そろそろ撮影の準備だよーん」という連絡が入ったので、三人でお隣りの狩野家にお邪魔する。
松島楓や才賀孫子、それに玉木珠美や有働勇作をはじめとする私服の放送部の面々、以前の撮影でもお世話になった写真館のご隠居やメイクさんがすでに庭に集まっていた。何故か飯島舞花も、栗田精一込みで見物に来ていた。
楓や孫子はすでに衣装に着替えていて、放送部員たちにからかわれたり称賛の声を浴びたりしながらメイクを直されていた。孫子は平然としていたが、楓はとても恥ずかしそうで、真っ赤になって「ほら、もっと顔を上げて」ととりついているメイクさんに注意されていた。
今回ばかりは、荒野は楓の気持ちがよくわかった……。
「ほい。これ、衣装。さっさと向こうで着替えくれい……」
羽生譲から衣装を渡されたので、ちょうど暇そうだった飯島に浅黄を預けて母屋に入っていく。
そこの空いている部屋で着替えをして、再び外に出ると、背中に羽をつけた小悪魔的な衣装の才賀孫子とどうみてもSMの女王様にしか見えない真っ赤なエナメル・ボンテージの楓が布団を抱えていた。孫子は例によって平然としていたが、楓のほうも例によって耳まで真っ赤にしている。
「退廃的なコスチュームと布団干し。非日常と日常の対比。
いいだろ?」
荒野が着替えて出てきたことに気づくと、羽生譲は荒野に声をかけてきた。
「天気、良いしさ。ちょうど、布団干したかったところだし……」
楓と孫子の回りでは、レフ板などをもった放送部員たちがご隠居の指示に従ってわらわらと光量などを調整していた。その写真館のご隠居も、時折有働勇作のほうに振り返って、ビデオカメラの操作法などを質問しては「うん、うん」と楽しそうに頷いている。
「今回は写真館のスタジオが取れなかったんで、急遽外になったんだが……かえってよかったな……今回は、衣装がああいう感じだから、下手にスタジオなんかで撮っちゃうと、不健康そうな印象ばかり強くなるじゃないかなーって危惧もあったんだけど……外の光線で、あの二人にああいう日常的なことやらせると、外面の退廃的な雰囲気なんか吹っ飛んじゃうんだよな……。
二人とも、若いし……どんな衣装着ても……肌の若さとか、内面から滲み出る健康そうな雰囲気は、隠せないんだよな……」
羽生はつらつらとそんなことを荒野に言って聞かせたが、荒野は羽生の話しの内容を半分も理解できなかった。荒野は才賀や楓と同年配で、彼らの姿に「若さ」を感じたことはない。
ただ、改めてそう言われてみると、退廃的……というよりは、もはやイッちゃっててお笑いの領域に突入していそうな極端なコスチュームに身を包んでいても、二人の顔色や肌のきめ細かさは隠しようもない……という点については、同意できた。
荒野がそんなことを思っていると、日傘を差し盛装した茅がとことこと出てきた。モノトーンで過剰にフリルやらリボンやらが着いていることを除けば、モネの絵にでも出てきそうな古めかしいシュルエットのドレス姿だった。
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つづき]
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