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髪長姫は最後に笑う。第五章(26)

第五章 「友と敵」(26)

「……あらー? まだ髪切ってなかったの? 駄目じゃない。半端に伸びて変な髪型になってるわよ。
 ほら、今、毛先だけ切りそろえちゃうから、じっとしてて……」
 前の撮影の時にもお世話になったスタイリストさんは荒野の顔をみるなりそういい、有無も言わせず荒野の体にポンチョを巻き付け、荒野の髪に手早く鋏をいれた。
「伸ばすなら伸ばすでいいけど、お手入れはちゃんとしないと駄目。
 毛先くらいは切りそろえないと、後が大変なんだから……」
 結局、以前の時にその美容師さんに貰った名刺の店には行きそびれ、荒野の髪は前の時以上に伸びている。確かに、ぼちぼち切った方がいいだろう、という気もしているのだが、未開地やまともな床屋や美容院がないような土地で長期間過ごすことになれている荒野は、いざとなれば以前そうしていたように、自分の手で、鋏やナイフで適当にざく切りにしてもいいと思っていた。
 基本的に荒野は、あまり自分の身なりには関心があるほうではない。
 髪型や服装は、不潔でなく、見苦しくない程度に整えておけばそれで満足できた。
『でも……いざとなれば自分で切る……なんていったら、この美容師さん、不機嫌になりそうだな……』
 先進国の荒野と同年輩の人たちは、ファッションに拘りすぎる、と、荒野は思っている。あくまで、荒野の基準からすれば、だが。また、そう思ってしまう自分のほうが、この清潔でなにもかもが整備された世界では異質なのだ……ということも、今までの経験から思い知らされている。
「……おれのこの恰好……おかしくありませんか?」
「……町中でこれ着ていたら、たしかにおかしいけど……。
 でも、これはお仕事用の衣装で、きみはお仕事でモデルをしているわけでしょ? 素人だからって、一度引き受けたお仕事についてグダグダいわない」
 髪を切られながら、美容師さんに試しに聞いてみると、こんこんと諭されてしまった。
 聞きながら荒野は「正論だ」、と、思った。
 一度引き受けた以上、それは契約なのだ……。
「はい。荒野君は終わり。次は茅ちゃん……は、相変わらず手をいれるところ、ないわね……。
 毛先だけ、ほんの少し切らせてね。軽く整える程度だから……」
 美容師さんにポンチョをはぎ取られるようにして放り出された荒野は、チョコレート色の丸いつばつき帽子をかぶり直し、ステッキをついて現在撮影中の孫子と楓のほうに向かった。

 写真館のご隠居は、有働勇作にデジタルビデオの操作を一通り尋ねると、自分でいろいろいじくり廻してみて、「やあ。ごたごたとよけいなのがついているけど、やっぱり基本は写真とかわんないや」といった。
 そして、自分でいろいろと試し撮りをはじめる。
 流石に光源とかの扱いにはうるさく、人手過剰なことを良いことに、放送部員たちに細かすぎるほど指示をしてレフ板を持たせ、楓と孫子に物干し竿に干した布団を布団たたきで叩かせる。
 楓と孫子が、例の異様な服装で向き合ったままぱんぱんと布団を叩くと、もうもうと埃が舞い上がり、それがレフ板の光を受けてきらきらと輝く。
 当初照れ照れだった楓も、いざ本番、ということになれば赤面してばかりもいられないのか、今では堂々とした様子で、写真館のご隠居に従っていた。

 そうしてとりあえず一カット撮り終えてみて、写真館のご隠居は有働に操作方法を聞きながら、ビデオカメラの液晶で出来を確認してみる。
「……んー。老眼なもんで、こんな小さい画面ではわかんないや……」
 といいはじめたので、慌てて孫子が自分のノートパソコンを母屋から持ってきて、撮影した分のデータをビデオカメラから移し、パソコンの画面で確認する、という流れになる。
 当初まごついていたご隠居も、何度かパソコンの液晶で出来を確認しながら撮影するうちに段々とコツを掴んできたようで、時間がたつにつれて作業効率が格段に良くなってきた。
 羽生のアイデアで、今回はとにかく多種多様なシーンを撮る、という事になっていたので、四人のモデルたちはいろいろな組み合わせでいろいろなシュチュエーションのシーンを撮ることになる。
 布団たたき。丸いちゃぶ台を庭に持ち出して、そこで四人で湯呑みを抱えている。肩を組んで笑いあっているバストショット。庭木にホースで水をやる……。
 などなど。
 もともと、四人が四人とも、どこにいても違和感のある衣装だったので、その恰好のまま日常的なことをやるだけでも、そことはないユーモアが生まれる。ましてや、モデルたちは揃いも揃って美形で、加えて、風貌にまだあどけなさが残る年齢でもある。

 例えば楓の衣装など成人した女性が着れば誤解のしようのない「意味」が付着する。が、まだまだ成長途上で成熟していない「楓のはにかんだような表情」が上乗せされると、コスチュームと表情の落差が、奇妙な「味」になる。
 楓の体は十分に成熟していが、顔の表情や挙動から覗きみえる中身は、時にまだまだ幼さを覗かせる、少女のものだった。
 そうしたアンバランスな傾向は大小の差はあっても四人のモデルたちに共通していて、一見ポーカーフェイスな茅も、大人びた雰囲気を漂わせる孫子や荒野も、何かの拍子で「子供の顔」をひょいと覗かせることがある。そうした微妙な瞬間を、ご隠居は器用に掬って動画データに定着してみせた。
『ご隠居……やっぱ、目が、いいな……』
 今回も写真館に頼みにいった羽生譲は、自分の人選に満足した。
 ご隠居の視力がいい、ということではない。モデルをリラックスさせ、表情が輝く瞬間を見逃さずカメラに収める……という根本的な勘所を、長年の経験からか、写真館のご隠居はきちんと押さえている……と、羽生譲は思った。

 そうこうするうちに、マンドゴドラのロゴが入ったワンボックスカーが家の前に乗りつけ、マンドゴドラのマスター自ら多量のケーキを何ケース分も持り抱えて庭にやってきた。
「お。やっているやっている。みんなご苦労さん」
 そのうち、マンドゴドラのロゴが入ったワンボックスカーが家の前に乗りつけ、マンドゴドラのマスター自ら多量のケーキを何ケース分も持って庭にやってきた。
「おかげさんで、昨日も問い合わせや注文がひっきりなしでな。
 羽生さんの勧めに従って、今度からネット通販ってやつにも手を出すことにしたよ……。
 今度は全国が相手だ。わは。わははははは」
 よほど評判が良かったのか、マスターはご満悦の様子だった。
「お礼といってはなんだが、山ほど商品持ってきたから、撮影に使うなりみんなで食べるなりしれくれ。
 足りなかったら連絡くれれば、誰かに持ってこさせる」
 マスターは五分ほどで言いたいことを言いきると、すぐにまた乗ってきたワンボックスカーにとってかえし、店へと戻っていった。
 注文が殺到して忙しい中、無理して挨拶と様子観に来てくれたのだった。
「はい。モデルさんたち!
 ケーキも来たことだし、今度は一人一人、食べるシーンのアップ、いってみましょうか!」
 羽生譲が号令をかける。
「……提案っす」
 と、荒野が片手をあげた。
「この子も、撮影したらどうっすか? 使用許可とかは後でとってみるってことで……」
 荒野は、口の回りを汚しながら満足そうな顔をしてケーキを貪る浅黄を指さした。
 荒野と茅について撮影現場に来ていた浅黄は、今まで慌ただしい雰囲気に呑まれるということもなく、手が空いていた玉木珠美とかと庭の隅で遊んでいたのだが……。
「……いいっすねぇ、それ」
 玉木が、自前のビデオカメラを構え、無心にケーキを食べ続ける浅黄を撮影しはじめる。
「浅黄ちゃん。ケーキおいしい?」
「……おいしー!」
 玉木のほうを……ということは、玉木が覗いているカメラのほうをみて、浅黄が無邪気に答えた。
 裏表ない子供の、素直な声……。
 これ以上、「味」を保証する映像はないのではないだろうか?
 その場にいた全員が、そんなことを考えた。

[つづき]
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