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髪長姫は最後に笑う。第五章(27)

第五章 「友と敵」(27)

 飯島舞花と柏あんなは昼食に米と干しアワビ、昆布などを一緒に煮込んで粥とも雑炊ともリゾットともつかないものを作ってくれた。味付けは柏あんなが担当したのか口に含むとかすかに胡麻の香りがして、どことなく中華風のアレンジだった。人数が多くて炊飯器で十分な量のご飯が炊けないために苦肉の策的な献立でもあったが、この季節、野外で撮影に従事していた人々には、食べやすく温かい食事が歓迎された。
「……だけど……お前らもよく来るよなぁ……」
 荒野は配膳してくれた礼を述べててから、二人にそういった。
「いいじゃないか、お兄さん……どうせお隣りだし……」
「っていうか……ここ、加納先輩の家じゃないでしょ?」
 飯島舞花は平然と柏あんなは憮然と、それぞれに答える。
 二人の後ろでは栗田精一と堺雅史が使い終わった食器を抱えて母屋と往復したりしている。
 もちろん、荒野とて本気で二人を非難したり揶揄したりしているわけではなく、撮影用の恰好をしている自分の姿を見られている、という引け目から来る照れ隠しの韜晦だった。舞花はそのことを分かっていたようだが、あんなは荒野の態度に半ば本気で腹を立てていた。
「……照れているんだよ……こういう恥ずかしいところ観られて……」
 舞花が小声であんなの耳元に囁いたつもりだったが、荒野の聴力は人並みよりほんの少し鋭いので充分に聞き取ることが出来てしまった。
 おかげで荒野はさらに不機嫌になった。もっとも荒野は外面を取り繕うことにかけては年期がはいっているので、荒野の内心の変化に気づいたのは茅だけだったが。

 この家の住人、狩野香也や狩野真理も、庭に出て撮影に従事する者と一緒に食事に摂っていた。この日も香也は、朝食を終えた後、庭のプレハブに籠もり、絵筆を走らせていたのだが、食事の容易が出来たとかで呼び出されたのだった。
 新学期がはじまってからこっち、香也は冬休みにあまり描けなかった反動もあって、部活と帰宅後の時間をほとんど使用して絵を描いている。それは、自分自身の習作だったり、あるいは堺雅史に頼まれたゲーム関係の絵だったりするすのだが、基本的に香也は絵さえ描ければたいていのことは我慢できてしまうので、最近の平穏な生活には満足している、といえた。
 休み時間などにクラスメイトが話しかけてきたり、放課後、堺雅史が美術室に尋ねてきてゲーム関係の詳細を話し込んだり、また、部活を終えて帰宅して庭のプレハブに籠もっていると松島楓、才賀孫子、加納荒野らの誰か(あるいは、全員)が訪問してくる、ということも珍しくなくなっており、香也を巡る人間関係もさり気なく複雑さを増してきている。
 が、その影響は、香也自身の内面に大きな変化を与えるほど甚大なものにはなりきっておらず……しかし、確実に香也を影響を与えていることも、また確かなのだった……。
『もしも……みんなが来なかったら……』
 この庭に、こんなにいろいろな人たちが賑やかに来訪してくる、ということもなく、この広い家にはいつまでも三人きり住民しかおらず、ガランとしていたままだったろう……。
 そうした仮定の想像をすると、香也は、とてつもなく寂しい思いを感じる。

「……なーなー。こーちゃん……」
 香也がお椀の中身を啜っていると、羽生譲が声をかけてきた。
 羽生譲はこれだけ大勢の人間が集まってきていても臆するところがなく、それどころか普段にも増して生き生きと、集まった人々に適切に仕事を割り振っていた。
「誰か若いのに模造紙かなんか買ってこさせるからさ、なんか背景、ちゃっっちゃと描いてくれないかな?
 即興で。ぼちぼち、セットが欲しくなってきた……」
「……んー……」
 香也は少し考えこんたが、すぐに、
「……いいけど……なにを描くかは、そっちで指示して……。
 あと、カメラは、駄目……」
「おっしゃあ!」
 香也の返答を聞いた羽生は、拳を握るとすぐに食事を終えそこいらにたむろしていた放送部員に声をかけ、紙と画材の調達を命じた。

 香也は衆人環視の中で買ってきて貰ったばかりの油性マジックの封を切る。
「……なに描く?」
「そーだな……ま、最初はオーソドックスに、お菓子の家……かな?」
「……んー……」
 香也は水彩絵の具を混合して水で薄め、手持ちの中で一番太い筆を、地面に敷いた模造紙の上に、じゃっ、じゃっ、と、無造作に走らせる。
 一見大ざっぱな動作で紙の上で手を動かしていると、すぐに羽生がいった通りのものが紙の上に姿を現す。絵の具を節約しながら、だから、太い枠線を引いた中をかなりすかすか気味に塗りつぶしただけだったが、それでもそれなりに質感が出ていた。
 月の沙漠とか、お花畑とか、羊のいる草原とか、ペンギンのいる氷原とか、ハイキングコースの山頂と、かキャンプ場とか、海水浴場とか……羽生は次々と思いつきで香也にリクエストをしたが、香也は一枚あたり五分もかけずにそのリクエストに応じた。
 時間もなかったので、本当に最低限の線しか描かなかったが、それでも香也が描き上げ、周囲で待機していた人に一番上の紙をはがすように合図すると、遠目にはそれなりに「言われたとおりのもの」が現れるから不思議だ。
 何枚かの模造紙を重ね、その上で筆を走らせていたが、絵の具が下の紙にしみこんでいく前に、最上部の紙がはがされる。
 あまりの手際の良さに、見物をしていた人々はどよめいた。荒野たち、香也のことを知っていた者も驚いていたが、香也が絵を描くところを初めてみる人々は、特に感銘を受けた様子だった。
 結局、食事休憩がそのまま香也のライブ・パフォーマンス鑑賞会になったような感じで、小一時間ほどで全ての紙を使い切ると、香也を見守ってきた人々から盛大な拍手が起こった。
 香也は描いている最中は絵に集中していたが、描き終え、周囲の騒然とした様子に気づくと、頭をかきながら心持ち上気した顔であたりを見回し、
「……んー……」
 といいながら、そそくさとプレハブの中に引っ込んでいってしまった。
 基本的に香也は、騒がしいのや、他人の注目を浴びることに慣れていない。

 香也が全ての紙を使い切った時には最初に描いた紙は乾いていて、その両端を二人の放送部員に持たせて、ピン、と張りつめた状態で持たせながら、羽生譲は、
「ご隠居。
 この背景で、モデルさんたちになにして貰いましょ?」
 と尋ねていた。
 今回は、徹底的にアドリブでやる気のようだった。
 ご隠居の指示で動くこともあったし、モデルたちや周囲にいた人々からアイデアがでることもあった。
 そんなこんなで、その日の夕方までかかって、多種多様な動画データを収録することが出来た。

[つづき]
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