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髪長姫は最後に笑う。第五章(28)

第五章 「友と敵」(28)

 夕方になり、撮影も一通り終わり、集まった人々も三々五々に散っていった。徳川浅黄も徳川篤朗が迎えに来て、狩野兄弟もマンションに帰り、狩野家にはもともとの住人と玉木珠美だけが残った。

 楓が羽生譲の部屋に構築したLAN環境は、マシンを提供してくれた加納兄弟、それに徳川篤朗が、しばらくは貸しておいてくれるといってくれたので、いまだままだった。その部屋に羽生譲と玉木珠美はやってきて、ご隠居が操作したビデオカメラのデータを転送した孫子のノートパソコンを繋ぐ。
「くノ一……楓ちゃんから聞いたぞ。そっちのおねーさんは女子アナ志望だってか?」
「本当はジャーナリスト志望なんですが、分かりやすいのと半分冗談でこういう名刺作ってます」
 玉木は、羽生譲にも例の名刺を渡す。
「わはは。好きだなあ、こういうセンス……。ああ。だからか……カッコいいほうのこーや君が……」
「カッコいいほう?」
「お隣りのマンションの……銀髪の、上級生のほうのこーちゃん。
 この家にも、カッコよくないほうのこーちゃんがもう一人いるんからな……」
「もうひとりの……あの、絵を描いてたほうの?」
「そ。ややこしいことに、あの子も同じカノウコウヤっての。字は違うけんどな。
 で、そのカッコいいほうの荒野君が、君とは気が合うって保証してくれたんよ……。
 ……あー……」
 羽生譲はどてらの袖から煙草の箱を取り出して、言いにくそうに玉木に確認した。
「これ、吸ってもいいかな? 吸わないと、どうにも調子でなくてなー……」

 二人は撮り溜めた動画を編集しながら、お互いのエディアトル方針をつぶさに観察し合い、あるいは意見を交換しあって、夕食の支度が出来るまでには、かなり相互理解を深めていた。
 創作畑の羽生譲はマンドゴドラのCM映像、ドキュメンタリー方面志望の玉木珠美は希望者に実費で配布する予定の孫子と篤朗の囲碁勝負のDVD用の映像を編集していたわけだが、方向性の違いこそあれ、どのシーンを重要視し、どのシーンを不要と感じるか……という部分をみてみれば、お互いの手の内は、かなりの部分、理解できる。
 お互いの仕事ぶりを横目で確認しながらなんとなく「そこんところはこうしたほうが……」などという意見をどちらからともなく言いはじめ、結局、二人の共同作業で二本の編集ラインを行うような感じになった。
 一度食事のために席を外した後も、二人はすぐに羽生の部屋にとって返し、やかましいばかりに意見を交換しながらかなり遅い時間まで作業を続けた。明日も学校がある玉木は十時前に帰って行ったが、玉木も羽生もまだまだ作業は終わっていなかったので、帰り際に「明日、また、放課後に来ていいですか?」と聞いた。
 マシン環境だけなら学校の実習室でも大差ないが、学校には、羽生のような経験を積んだアドバイザーがいない。この差は、玉木にとっては、大きい……ということだった。
 羽生にしてみても一人きりで作業に取り込むよりも、隣りに話しの分かる相棒がいたほうが効率が良い、ということは今日の成果をみれば明白だったので、異存はなかった。狩野真理には、玉木が「また夕飯の材料、うちから調達してきますから」と約束して懇願した。
 玉木が帰った後、長時間マシンに向き合って凝り固まった肩を、腕を廻してほぐしながら、羽生は「面白い子だな」と、思った。玉木珠美もそうだが、玉木が編集していた映像の中の、徳川篤朗という孫子の対戦相手も、かなり毛色が変わっていそうだ……。
 松島楓、狩野兄弟、才賀孫子……。
 なんだか、続々と面白い子たちが集まりはじめているような気がする。そしてその関係の中心にいるのが、一見、絵を描く以外にはこれといった取り柄がなさそうな、うちのこーちゃんであるあたりが……羽生譲は、とても面白いと思った。
 狩野香也がここに居なければ、楓と孫子もこの家にはいない。この二人がいなければ、加納兄弟も頻繁にこの家に来るべき理由がなくなる。飯島舞花と栗田精一、柏あんなと堺雅史も、玉木珠美と徳川篤朗も、同じだ……。
 そして、羽生自身も、その関係の一端に加わっているわけで……偶然が重なった結果、なのではあろうが……今のこの状態は……。
 そう。
 とても、面白い……そうとしか、いいようがない、と。

 荒野と茅は、一晩ぶりに二人きりの夜を過ごした。
 昼間は慣れないことをしたため少し疲れが残っていたが、それもいつものように食事をし、風呂を浴び、歯を磨いて寝る準備をする頃になると、かなり回復していた。
「……荒野」
 服を脱ぎ、いつもの時間に一緒にベッドに入ると、いつもとは違って茅が荒野のほうに身をすり寄せてくる。
「ん?」
 荒野は、茅の髪を指で梳いた。
「……この音……」
 茅は、荒野の裸の胸板に耳を密着させる。
「たった一晩聞いていなかっただけなのに……ひどく、懐かしいの……」
「……そうか……」
「今日みたいに、いろいろな、おおぜいの人と一緒にいたり、夕べみたいに、浅黄と一緒にいるのもいいけど……こうして荒野といる時間が、一番好き」
「……うん……多分、おれも……」
 荒野は欠伸をかみ殺しながら、適当に答える。
 昨夜、浅黄を預かったのと、昼間の撮影……と、立て続けにイベントを通過した気疲れが残っていているのか、荒野は、とても眠かった。
「……多分?」
 茅は顔を上げてまじまじと荒野の目を覗き込んだ。
「多分?」
 茅の咎めるような顔つきをみて、荒野は「茅も随分表情豊かになったよなあ」と思った。「どんどん扱いにくくなっていく……」とも、思ったが。
 荒野は茅の体をぎゅっと抱きしめた。
「昨日からずっと、こうして、茅を抱きしめたかった」
 荒野の腕の中で、茅は、柔らかくて、いい匂いがして……。
 茅の肩を抱きしめながら髪を梳いていると、茅が顔を近づけてきたので、そのまま、口唇を重ねる。

 そのまま、求め合った。

[つづき]
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