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彼女はくノ一! 第四話 (36)

第四話 夢と希望の、新学期(36)

 そんなわけで、徳川篤朗は放送部員たちや松島楓や堺雅史など、中継に協力したパソコン部の生徒たち、それに才賀孫子と狭間沙織などの団体様に引きずられるようにしてカラオケに向かった。篤朗の姪、浅黄は、加納茅と遊び足りないようで離れたがらなかったので、そのまま学校に残していった。そろそろ下校時刻だったが、学校にはまだ加納荒野もおり、茅は、浅黄と荒野と三人で自分たちのマンションに帰宅する、といっていた。
 最初のうちこそ、篤朗は加納兄弟に姪の浅黄を預けて離れることに抵抗を感じているようだったが、楓や孫子、それに狭間沙織が「あの二人なら問題ない」と言葉を重ねて保証し、その他大勢の生徒たちは今日の功労者である篤朗を取り囲んで無責任なノリでなにくれと話しかけたりしてきたので、気にはなっても浅黄がいるところに引き返していくのは事実上不可能だった。そのうち、諦めたのかやけになったのか、カラオケ屋に到着する頃には篤朗も取り囲んだ生徒たちに抵抗するのをやめた。

 夕方のまだ速い時間帯だったので、まだ一応大人数用の部屋は空いていたが、週末ということもあって「二時間だけ、延長はなし」と店員に釘を刺された。割引券持参だったことも関係があったかも知れないが。
 玉木をはじめとして放送部員たちはしょっちゅうこの店に来ているのか、最初から手慣れた様子でマイクを奪いはじめた。
 そのうち玉木珠美がうまく仕切って才賀孫子や徳川篤朗、それにシステム面で貢献のあった松島楓に、順番にマイクを廻す。
 もともと歌唱力に自信があった孫子は優雅に一礼して朗々と歌い出し、篤朗は特撮番組のテーマソングをお世辞にもうまいとはいえないが元気な大声でがなりたて、歌える歌が極端に少なかった楓は慌ててリストブックのページを繰り、ようやく楓でも歌えそうな「大きなのっぽの古時計」をみつけ、赤面しながら恥ずかしそうに歌い出した。

 人数が多いこともあって店側から区切られた二時間はすぐに過ぎ去り、店から追い出され外に出ると、入店するときは暮れかかっていた陽はとっぷりと暮れていた。
 二時間マイクを握ってもいまだ興奮がおさまらない生徒たちは多く、玉木が希望者を募って次の店に流れることになった。が、孫子と楓も誘われはしたが同行は遠慮し、徳川篤朗も玉木の誘いを断って、次の店へと向かう大多数の生徒たちと別れた。
 驚いたことには、他の生徒たちを誘導していた玉木自身はその中に混じらず、彼らと別れて孫子や楓たちと一緒についてきたことだった。
「浅黄のことが心配なのだ」
 篤朗がそういいだしたので、孫子が荒野の携帯に問い合わせてみる。と、
「……今、ぐっすり寝ているけど……」
 という返答が帰ってきたので、孫子から携帯を受け取った篤朗が荒野と話し合いをして、浅黄はこのまま荒野たちのマンションに泊めることになった。篤朗が受けた荒野や茅の心証が良かった、ということもあったが、まだ小さい、疲れ切った浅黄を夜になってからあちこちに移動させることもいい考えとはいえない……と、楓や孫子が横合いからそれとなく口を挟んだためでもあった。
 また、この時、荒野から「三島たちが狩野家に夕食を作りにいっている」と聞いた玉木は、「あ。じゃあ、ミニラ先生たちに、家から材料もってく、って伝えておいて……」と慌てていった。玉木は荒野から「先生の番号教えるから、直接話した方がいいよ」と言われ、その言葉通りに、三島百合香の携帯に折り返し電話を入れ、なにやら簡単に打ち合わせした後、「ええ。二、三十分もあればそれもってそっち行きますんで……」といって通話を切った。
 姉以外に頼りになる親族がおらず、姉の留守中に一晩以上浅黄を他人に預けた経験がない篤朗は、かなり心配そうな様子をみせていたが、楓や孫子が重ねて「大丈夫」と保証すると、タクシーを拾って自分の工場へと向かった。
「トクツー君もねー……」
 篤朗の乗ったタクシーが遠ざかると、玉木珠美は楓と孫子に言い聞かせるように、しみじみとした口調でいった。
「家族とか研究とか、自分の興味あること以外には、極端に冷淡だからー……」
 玉木のそんな言葉を聞きながら、楓は、「そういうところは、香也様に似ているな」と思った。
 香也は絵、篤朗は研究……二人とも、夢中になれるものがあって、いいではないかと。

 一旦家によってなにか食材調達してくる、という玉木と一旦は別れ、楓と孫子は並んで家路を急いだ。
「……凄かったですねぇ、今日……」
 楓は、孫子よりも年下なので二人きりの時も警護を使う。
「徳川さんも、才賀さんも、玉川さんも……みんな凄かった……」
「……まるで自分は無関係、っていういいかたではなくて、それ……」
 楓の言葉を聞くと、孫子は鼻をならした。
「堺も徳川も、あなたの腕に驚いたでしょ?
 わたくし、あなたのそういうところ……謙遜している風で、その実、嫌味なのか卑屈なのか分からないくらいに低姿勢な所、好きではないの……」
「……あれは……無理に仕込まれたもので……一所懸命覚えなけりゃ、捨てられちゃうって……」
 楓の声が震えはじめる。
 最近、こうしてみんなと一緒にいると、ついこの間までの自分の境遇を忘れがちになるが……楓は、与えられたことを、貪欲に覚えなければ、また捨てられる、居場所を失う……という、根本的な、アイデンティティ・クライシスへの不安を抱えている。
 幼い頃から楓の人格にすり込まれてきた、本能に近い恐怖心だった。
「……香也様とか、徳川さんとかは……自分が好きなことをやっているわけで……」
 彼らや孫子とは違い、楓自身には、「学ばない」という選択の余地はなかった。
 その結果、たとえ、現在の楓が、同年配の人間よりよほど上回った能力を獲得していたとしても……それは、所詮、単なる結果だ。
 楓自身が自分で求めた成果ではない以上……楓は、現在の自分を誇る気持ちに、はなれない……。
「……つまり……あなた……自分自身が好きではないわけ?」
 孫子は、楓の詳しい事情を知っているわけではない。
 しかし、楓は目に見えて悄然としたので、この話題を楓が避けたがっているのは感じとることができた。
「わたくし……やっぱり嫌いよ。
 あなたも、必要以上に卑屈なのも……」
 楓は、なにも言い返さない。
 思えば、常に誰かしら他の人間がいるのが普通だったので、楓と孫子が二人きりで話す機会は、今までにほとんどなかった。二人きりになることがまるでないわけでもなかったが、そのような時は慌ただしくてゆっくり話しをするような暇がなかったり、そんな雰囲気ではなかったり、で……。

 今回も、二人はそれ以降は無言のまま、歩き続けた。

[つづき]
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  • 2006/05/19(Fri) 02:04 
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