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髪長姫は最後に笑う。第五章(32)

第五章 「友と敵」(32)

 ざっと顔を洗い、寝癖を直しただけで慌てて制服に着替え、鞄をもって外に出る。いつもは二人ともかなり余裕を持って起きるので、これほど慌ただしい朝は初めてだった。
 二人してくすくす笑いながら、マンション前に待っていたいつもの連中と合流する。樋口兄弟と飯島舞花、栗田精一はいつもの通りだったが、お隣りの狩野家に住む三人は、何故か、揃いも揃って憔悴した様子だった。
「……なんか、あった?」
 荒野は、合流したみなに尋ねてみたが、誰もはっきりとした返答はしてくれず、僅かに飯島舞花が「わたしも聞いたんだけど、答えてくれなくってな……」と言っただけだった。
 才賀孫子はあかるさまに顔をあさってのほうをむけて誰とも視線を合わせようとせず、松島楓は耳まで真っ赤にして俯き、一番やつれているようにみえる香也は、目の下に色濃い隈をつくって肩を落としている。

 ……なにも、聞かないでおこう……。
 そのほうが、平和だ……。

 荒野は、思った。
 しみじみと、狩野香也に同情の念を感じながら。

 いつもより数分遅れでぞろぞろと学校に向かっていくと、確実にいつもより多くの人に声をかけられた。特に、才賀孫子が。
 同じ制服を着た見知らぬ生徒たちが「囲碁の中継見たよー」と気軽に声をかけてくるのは分かるが、通りかかった家の見知らぬお年寄りまでが、庭木にホースで水をやる手を止め、「そこのお嬢さん、こんど寄って一局打っていきなさい」などと呼びかけてくる。顔見知りになった放送部やパソコン部の生徒たちも挨拶をしていく。
 そうした人々は、まだしも節度を保っていたが、そうではない、通行の邪魔になるほどに道路を占有して荒野たちの集団を取り囲むような生徒たちも、段々と出始める。学校に近づいてくにつれ、そうした生徒たちは確実に増えていった。荒野たちから少し距離をとって団子になっているのはたいてい女生徒たちで、時折、飯島舞花なり荒野なりが、振り向いて「なんか用?」とか「その辺に固まっていると、邪魔だよ」などと声をかけると、「きゃー!」と声を上げていったんは引き下がるが、すぐにくすくす笑いを漏らしながら遠巻きに追尾を再開する。
「……なんだ、ありゃ?」
 荒野がぼやくようにいうと、
「あー……あれ、孫子ちゃんのファンなんじゃあ……中継の時、凛々しく映っていたから……」
 舞花が、推測を口にした。
 孫子は、深々とため息をついた。

 学校に到着し、教室に入ると……荒野の教室、というのは、当然、孫子の教室でもあるわけで、孫子が鞄を机の上に置くか置かないかのうちに、わっと生徒たちが孫子の周りに集まってきた。
 要するに、「囲碁中継見た」ということなのだが、それまで孫子から距離を取って敬遠しているようだった奴らが掌を返したように寄ってくるのをみて、荒野はその現金さに内心で苦笑いをすると同時に、「結果的には、これでよかった」とも思った。
 孫子は、ホームルームが始まる時間まで同級生たちに取り囲まれ、質問攻めにあっていた。

 この時の荒野は、その時の孫子の様子が明日の我が身になるとは予想だにしていなかった。

 放課後になると、荒野は、部活がなかったのにもかかわらず学校に居残り、美術室に向かった。朝の事が気になったし、美術室に行けば香也は確実に捕まるはずだった。荒野と同じクラスであり、美術部員でもある樋口明日樹は都合良く掃除当番に当たっており、部活に出るのが少し遅れる筈だった。
 荒野が美術室にはいると、やはり香也は一人きりで絵を描く準備をしているところだった。荒野が片手を挙げて合図をしながら美術室に入っていくと、香也は、疲労の色濃い顔に無理に笑顔を浮かべて見せた。
「……昨日……っていうか、昨晩、なんかあった?」
 荒野は聞いた。
 放っておいてもいいようなものだが、楓が関わっていることはまず確実であり、そうなると荒野にも監督責任があるような気がした……。それ以上に、かなりダメージを受け、憔悴した香也の様子が痛々しくて、やはり、真相を究明しないわけにはいかなかった。
 荒野が心配そうな表情を浮かべ、真剣に尋ねると、香也は目尻にじわりと涙さえ浮かべ、「実は……」と、とうとつと昨夜の出来事を語りはじめた。
 香也にしてみれば、誰にでも相談できる、という悩みではないわけだし……わざわざ人目のない時と場所を選んでこうして聞きにきてくれた荒野の存在は、どんなにか、心強かったに違いない。

「……あー……」
 一通り、「香也が昨夜どんな目にあったのか」を聞いた荒野は、半ば呆れ半ば感心し、しばし、口を開けて締まりのない声を上げることしかできなかった。
『……この場に、樋口がいなくて良かった……』
 という思いと、
『……モ、モロ、おれの苦手なジャンルじゃねーか……』
 という思いが荒野の中で交錯する。
「……楓のほうには、それとなく、おれからいっておこう……」
 とりあえず、荒野はそう告げることしかできなかった。
 問題なのは……楓を抑えることができたとしても……もう一方の当時者、才賀孫子を抑える方法を思いつかない、ということで……こうした場合、どちらか一方だけを抑えると、かえって事態が悪化する懸念があったことだった……。
 そのことを香也に話して意見を聞こうとした時、ちょうど掃除当番を終えた樋口明日樹が美術室に入ってきてた。
 流石に、樋口明日樹の前で香也のこの手の相談をすることも出来ず……荒野は、でかかった言葉を曖昧に濁して、明日樹にそそくさと別れの言葉をかけて、さっさと美術室から退出した。
 樋口明日樹は、荒野が美術室に居たことを、明らかに不審に思っているようだった。

『……まさか、そこまでエスカレートしているとはなぁ……』
 廊下を歩きながら、荒野は、内心で冷や汗をかいていた。
 ……同居している異性二人に同時に言い寄られ……そのどちらのアプローチにも、応じるつもりはない……にもかかわらず、その二人は、揃って実力行使を躊躇わない性格であり……同時に、お互いに対する敵愾心も、非常に強い……。
 香也が置かれた現状というのは、つまりは、そういうことだった。
『……難問だぞ、これは……』

[つづき]
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