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髪長姫は最後に笑う。第五章(33)

第五章 「友と敵」(33)

 美術室を出てから、荒野はよくよく考えてみた。今度の事態の収拾は、どうみても荒野一人の手に余る。そもそも、ろくな恋愛経験ももたない荒野には、荷が勝ちすぎた。何人かいる「相談相手候補者」の顔を思い浮かべては、片っ端からそれを打ち消していく。

 三島百合香。
 荒野と茅の問題、ではない以上、三島が積極的に解決に尽力するとは思えない。三島個人の興味……ということで動かれたら……どちらかというと、面白がって騒ぎを拡大する方向に持っていこうとするような気がする……。
 シルヴィ・姉崎。
 姉崎であるヴィは、この手の問題に対するエキスパートである、といっても過言ではない。しかし、ヴィが介入するとしたら、弟子で孫子のほうに過剰な思い入れをするのは必須であり、替えって事態をややこしいものにしるのではないか? それ以前に、今、ヴィによけいな貸しは作りたくないし……。
 ……その他、佐久間紗織とか玉木珠美、羽生譲の顔なども思い浮かべたが、前の二者については、知り合ってからの時間が短く今回のようなつっこんだ人間関係を相談するには不適切、羽生譲は一緒になって真剣に考えてはくれるだろうが、これといった妙案や打開策は期待できそうにもなかった。

 考え込んでいる間中、宛もなく校舎内の廊下をうろうろと歩き回り、しばらく考え込んだ結果、最後の最後になって、ようやく茅の顔が思い浮かんだ。
 人間関係の相談相手に茅、というのはかなり無理な思いつきかな、とも思わないでもなかったが、ついこの間まで「他人」の存在を知らずに育った茅は、かわりに鋭い観察力と豊かな想像力、臨機応変に目前の事態に対処する柔軟な応用力を持っている。少なくとも、荒野一人で考え込んでいるよりは

 一旦鞄を取りに教室にもどってから、図書室に向かう。部活がない日も含めて、放課後、茅は別に予定がない限り、下校時刻ぎりぎりまで図書室に籠もっていた。わざわざ重い本を借りて持ち帰る、という労働を嫌っているのだろう、と、荒野は思っている。
 荒野が声をかけて「お隣りの三人について相談がある」とだけ告げると、茅は頷いて、帰り支度をし始めた。荒野が拍子抜けするほどのフットワークの軽さだ。
「詳しい話しは、帰りながら」
 読みかけの本を棚に戻しながら、茅はいった。
 この場でできるような話しではないし、二人とも同じマンションに住んでいるのだから、帰り道は一緒だ。
「いいのか? 中断して?」
 念のため、荒野が確認すると、
「本は、いつでも読めるの」
 と、茅は答えた。
 一見、いつものようなポーカーフェイスだが、その実、かなり興味をもっている……ということが、荒野にはわかった。
「それに、昨夜、眠りが深すぎたから……今日はあまり集中力がないの」
 そう続けた茅の頬は、心持ち、ほんのりと赤みを帯びていた。

 帰り道、荒野は、往来で話しても良い程度に細部をぼやかしながら、ぽつぽつと狩野家の三人の事を、茅に相談する。茅は、荒野があえてぼかした部分でも想像がつくのか、よけいな質問を差し挟まず、黙って荒野の話しを聞き続けた。
 途中、マンドゴドラに立ち寄り、かなり多めにケーキを包んで貰う。
「今夜、三人を、うちに呼ぶの」
 と、茅はいった。
「うちに? おれたちのマンションに?」
「早い方が、いいの。こじれないうちに。それに、いつもご馳走になってばかりだから、たまにはうちがご馳走するの」
 そういうと茅は、その場で何通かのメールを出して、関係者の三人を夜のお茶会に招待した。

 夕食後の時間、昼間、約束をした通り、狩野香也、才賀孫子、松島楓の三人が、一緒に荒野たちのマンションにやってきた。香也と楓は若干緊張した面もちで、孫子だけは悠然と構えている。
「あんまり遅くなると明日に差し支えるからさっさと用件に入るけど……」
 茅が全員にケーキとお茶の入ったカップを配り終えると、荒野はいきなり本題を切り出した。
「……今夜、みんなに集まって貰ったのは、他でもない。
 今の君たち三人の関係は、とても不安定だから、できればそれを是正したい……と、そういう相談なんだけど……。
 才賀、それに楓。
 君たち、香也君にとてつもないプレッシャーを掛けつつあるって、自分でも分かっているんだろ?」
『二人とも、心の底では分かっているはずだ』と、荒野は思う。
 孫子も楓も、基本的には、頭がいい。
 ……時たま、どこか抜けていたり、ズレていたりすることはあっても……。
「その前に、一つ、質問があるのですけど……」
 孫子は優雅な仕草に一口紅茶をすすり、荒野に問いかけた。
「……なんであなたが、わたくしたちの問題にこうして口を挟もうとするのかしら?」
 言外に、「余計な口を挟むな!」と荒野を非難しはじめた。
「……なぜおれがこうして出しゃばるかというと……」
 しかし、孫子の反応は、荒野も予測していたところだったから、即座に返答することが出来た。
「一番大きな理由は、香也君が見るも無惨に憔悴していく様子を黙ってみていられなかった、ということだな……友人として。
 それ以外に、楓のこともある。
 こんな下世話な問題で、楓が、いざという時に実力を発揮できなかったりすると、こちらも困るんだ。少人数でやっている関係上、楓一人の戦力低下も馬鹿に出来ないし、そのためのメンテナンスもおれの仕事のうちだ。
 あとは、才賀、君のことも心配だ。君は、こんなことで自分を見失うほど浅慮な人物ではなかったはずだ……」
 荒野にそういわれても、孫子は眉をぴくりと動かしただけで、なにも言い返さなかった。
「香也君を友人だと思っているように、おれは、楓も才賀も友人だと思っている。できれば、みんなには健やかな人間関係を築いて欲しいと思っている。
 だから、お節介かも知れないけど、一度みんなの意見を聞きたくて、こうして集まって貰った。
 ……こういうことはあまりいいたくないんだけど……」
 荒野は目を閉じて、数秒、間を置いた。
「……おれや茅がこの土地に来なかったら、楓も孫子も、香也君の家に住み込む事はなかったんだ。もっともっと、穏やかな、以前通りの生活を続けていた筈……なんだ。
 今となってどうこういうのもなんなんだけど……香也君のような一般人の日常にいきなり乱入して居着いてしまったおれたちとしては、出来るだけ迷惑をかけないように心がけるのが、最低限の礼儀ってヤツなんじゃないかな?」

[つづき]
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