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髪長姫は最後に笑う。第五章(34)

第五章 「友と敵」(34)

「……まあ……おれだってこんなこといいたくはないけど……お互い、異性を意識する年頃なんだから、そういうのはあっていいよ。いいと、思うよ。
 でもさ。それでも……最低限、無理矢理ってのは、ヤバイいんじゃないか……」
 荒野が訥々とそんな内容を語りはじめると、初めのうちは平然と聞いていた孫子も、段々と決まり悪げな表情を見せるようになった。香也はそもそもの最初から、非常に居心地の悪そーな感じだったし、楓は楓で、俯いて終始もじもじとしていて、落ち着きがない。
「……香也君、かなり、怯えていたぞ……」
 話しながら荒野は、
『……普通、男女が逆なんじゃないだろうか……』
 とか、思った。
 まあ、孫子にしろ楓にしろ、香也のみに限定する必要もなく、その気になりさえすれば、そこいらの並の男なんか平気で押し倒せるだろうが……。

 香也は……女性が苦手、というよりは、他人と接触することを、未だにどこかで怖がっている節がある。楓にしろ、孫子にしろ、それぞれ単独で香也と付き合ったら、それなりにお似合いなカップルになるんじゃないか……と、荒野は思った。
 孫子なら、主導権を握って、絵を描くこと以外に極端に消極的な香也をぐいぐい引っ張っていくだろう。
 常に誰かに命令や指示をされることに慣れた楓と柔和な香也なら、のんびりとした、平和な付き合い方をするだろう。
 問題なのは……楓と孫子の二人が、同時に香也を求めていることで……お互いに抱いている敵愾心や競争意識が、突発的に増大し……昨夜のように、普段なら考えられないようなトラブルを誘発することだった。
 楓と香也、あるいは、孫子と香也、という組み合わせには、なんら問題はない……と、荒野はみる。しかし……。
 しかし、「楓と孫子」という組み合わせが、「香也」という存在を意識しはじめると……途端に、話しがこじれはじめる。
 単なる三角関係なら、まだしも……楓と孫子は、どちらも、素手でさえ、充分な殺傷能力を保持する存在、でもあった。
 万が一、将来、楓や孫子が暴発する可能性も見越して、事前に、慎重に手をうってその可能性の芽を摘んでおくに越したことはない……と、いうのが、今回の件での、荒野の言い分と思惑だった。

「いいたくないことついでに、もう一つ。
 おれや楓……一族の者とか才賀とか……根本的な所で、一般人とは違うから。もちろん、恋愛は自由だよ。でも……」
 ……おれらが、感情に任せて暴れたり、相手を力づくで押さえつけたりし始めたら……。
 抵抗できる一般人、いないから……。

 自嘲を込めて、荒野は淡々とつけ加えた。
 幼い頃から、何度も何度も思い知らされてきたことだ。
 どんなに親しくなっても、自分と一般人とは……違う。

 荒野がそういっても、楓はきょとんとした顔をしている。
 養成所で育ち、最近外界に出てきた楓は、荒野とは違って、自分と一般人の差異をどうしようもなく思い知らされてきた……という経験に乏しい。加えて、楓は、無意識的に、「自分自身で判断すること」を忌避し、誰かに命令されたい、という願望を抱いている。楓自身が、どこまでその願望に自覚的であるのかは判断つかないが……そうして、自分の頭で考えることを半ば放棄することで……楓の、潜在的に持っている優れた資質や能力が、充分に開花しきれていない……という一面は、ある……。
 楓は、「あの」荒神が認めたたった二人の弟子、の片割れ……なのだ。
「最強」が、潜在的な才能を認めた……ということが、どれほど凄いことなのか……楓自身は、あまり自覚していない節がある。
 そんな楓が……こんなことで、躓いてしまうのは……荒野にいわせれば、あまりにも、馬鹿馬鹿しい……。

 いまいちピンと来ていない様子の楓に比べ、孫子のほうは、荒野の話しにかなり感銘を受けた様子だった。孫子は……実家の豊かさ、に加え、「才賀衆の一員」である自分と、そうでない一般人との間に横たわる溝の深さを……今までの経験で、それなりに思い知らされてきたのだろう。今まで通っていたのが、良家の子女だけが通う、いわゆる「お嬢様学校」だというのなら、そこの生徒たちと孫子との乖離は心身両面に渡る根深いものだった筈で……孫子は孫子で、今まで孤独な生活を強いられてきたに違いないのだ……。

「おれたち、友達だろ?」
 孫子の表情を読んだ荒野は、ここぞとばかりに言葉を繋ぐ。交渉事は、加納のお家芸だ。
「おれと茅、おれと楓、おれと香也君、おれと孫子、茅と楓、茅と孫子、孫子と楓、茅と香也君……組み合わせは、どうでもいいんだけどさ……ともかく、おれたち、友達だろ?
 せっかくこうして集まって、出会ったんだから……出来る限り、仲良くしていこうじゃないか。そのためには、うん、ここいらできちんんとぶちまけるものぶちまけちゃって……なるべく、しこりとか今後の憂いとか残らないようにしたほうが……お互いの、ためなんじゃないかな?」

 荒野は、楓や孫子が香也に向ける拘りを、必ずしも男女間の愛情のみ……とは、考えていない。
 孫子のことは少し分からない部分もあるのだが……楓は、明らかに、自分と同じような孤児だった香也を、自分と同一視している節がある。ただ、愛情表現が極端に下手なので……初っぱなにいきなり体の関係を結んでしまった事もあって、単なるシンパシィを、「恋愛感情である」、と、自分自身に言い聞かせているのではないか……。
 香也のこと、だけでもないが、楓は、物事全般に対して、少し引いた場所から取り組もうとする傾向がある。「当事者になることを怖がる心理」とでもいうのか……主役であることよりも、脇役や裏方的な役割を選択肢がちな傾向がある。
 楓が香也のことを意識しがちなのも……楓のそんな性向も、関係しているのではないか? 自分の世界に籠もって絵を描いていれば満足、という香也の性向は、そうした楓の性向と……表面的には、似ている。
 ただし荒野は、香也が絵を描くのは逃避だとは思わないが、楓が自分自身の人生を自分で切り開こうとしていないのは、一種の逃避だと考えていた。

 第一……。
『……孤児、というのなら……おれたちみんな、孤児みたいなもんなんじゃないのか?』
 早くに両親を亡くし、伯父に育てられた孫子。
 出生が定かではない茅。
 それに、父は健在だそうだが、生まれたときから行方知れずで、一族の中をたらい回しにされて育った荒野……。
 そこまで考えて……楓や香也だけではなく……ここにいるのは、みんな……満足に、両親の顔を憶えていないようなやつらばかりなんだな……と、荒野は、気づかされた。

[つづき]
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