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髪長姫は最後に笑う。第五章(44)

第五章 「友と敵」(44)

 荒野が現金を引き出してマンドゴドラに戻ると、三人の子供たちは見事なまでに意気消沈して待っていた。
『……こいつら、今までどういう育ち方してきたんだ?』
 茅のように人里離れた場所で育てられて、最近世間に……人間界に出てきた、というところだろうか? それにしては、カードを持っていたり、と、知識と経験が、半端すぎる気がするが……。
『……茅に対するおれ……一般人の社会生活のことを教える役目の奴が、手抜きして、適当な所で放り出した……とか?』
 ふとそう思いついて、荒野は自分の思いつきをすぐに否定した。
 それは……あまりにも無責任すぎる。茅はたまたま身体能力に偏重しない調整をなされていたようだが……他の『姫』たちが、二宮クラスの身体能力を持ったまま、世間知らずなままで、そこいらに放置されたら……周囲の人間にとっては、いい迷惑だった。
 荒野がレジで三人が暴食したケーキの代金を精算している所に、呼び出した茅と楓が、店に入ってきた。
 二人は、三人と荒野を見比べて、不思議そうな顔をしている。

『……茅たちに事情を説明するのも、骨だよなぁ……』
 なにせ、荒野にしてからが、三人の目的と正体が、まだわかっていない。

 とりあえず、人目だけは避けたかったので、荒野は三人の子供と茅と楓を伴って、河原まで歩いていくことにした。
 河原で、荒野はとりあえず自分の名を三人に改めて明かし、茅と楓も紹介する。それから三人の正体と目的を尋ねると、途端に、三人の仲間内で漫才が始まった。ようは、大雑把な目的は与えられているが、その結末へ至るまでのプロセスを誰も真剣に考えておらず、「荒野たちに自分の名前を名乗るべきか否か」などという根本的な部分で、今更ながらにもめている。
 それら、三人の態度から、荒野はいくつかの結論を引き出した。

一、こいつらは……能力はともかく、「プロフェッショナル」としては、教育されていない。
「プロフェッショナル」どころではなく、性格的気質的な面で判断するなら、こいつら、単なるガキである。
二、三人の中で序列や命令系統は存在しない。
 いつまでも内輪もめがやまないところから考えても、自明。
三、こいつらの目的は、荒野たちを「倒す」ことではない。
 まず「目的ありき」であるのなら、闇討ちでもなんでも試みればいいのだ。ケーキ屋なんかで油売らないで……。

 総評。
「恐れるに足らず」。

 しかし、いつまでも三人に内輪もめさせておいても日が暮れるばかりなので、荒野は適当なところで三人を怒鳴りつけ、三人が緊張したところで、強引に三人の目的を聞き出した。
 三人は、
「荒野たちを倒すためにここに来た」
 と声を揃えて怒鳴った。

 その回答を確認してから、荒野は楓と茅に「戦闘準備」をさせた。茅はすぐに頷き、楓は子供が相手であることから、最初かなり渋っていたが、荒野が「相手が『姫』である可能性」を示唆すると、ようやく紐で繋がれた一連の六角を取り出し、その他、見えないところで武装を整えた。荒野自身も、指弾用のパチンコ玉をすぐに取り出せるようにしておく。
 相手が子供だからといって、荒野は油断したり手加減したりするつもりはなかった。

「そっちのおねーちゃんはいいの? どちらかといえば、ボクら、その子が目的なんだけど……」
 荒野たちの中でただ一人、鞄を抱えたままでなんの準備もしていない茅を指さして、子供たちの一人がいった。
 三人とも、パーカーに半ズボン、ハイソックス姿の……小学校高学年、程度にみえる子供で……お互いに「ガク」、「ノリ」、「テン」と呼び合っているのは確認しているが、荒野はまだ、その呼び名と顔が、一致していない。
 三人は、三十センチくらいの長さの、折り畳んだ棒を取り出して、それを伸ばして連結し始めた。
 六節棍。
 繋げば棒として使え、関節部を緩めれば殻竿(フレイル)様の武器としても使える。関節を全部はずせば、鞭になる。
『……マニアックな代物、持ち出しやがって……』
 使用法を習熟するのが難しい得物だが……それだけに、熟練者が使うとなると、対処が難しい武器だった。
 第一、「棒」だけでも、達人が使えば十分な殺傷能力を持つ武器となる。
 三人の、リーチの不足をカバーするための、武器なのだろう。

 六節棍を持った三人の構えには、隙がなかった。
「楓。本気でかかれ」
「……これでは、気が抜けません……」
 荒野が注意するまでもなく、楓は三人の構えを見ただけで、緊張している。
「連携して、くる。こっちは、茅がやられたら、それで終わりだ。
 だから……」
 荒野は、三人の構えを見ても、楓ほどには緊張しない。
 三人の力量は、確かに凄いものなのだろう。しかし、それは……。
『……所詮、武術家的な強さ、なんだよね……』
 ……おれたちは、武術家じゃない……。
 忍、だ……。
 と、荒野は思う。

 荒野は、ポケットから取り出したパチンコ玉を、次々と指で弾いて三人の手元を狙う。三人は、荒野の意図に気づき、荒野が連射するパチンコ玉を昆で弾く。荒野は指先だけでパチンコ玉を弾いているので、かなりの高速度で連射することが可能であり、三人は、それが直接手に当たらないように弾くだけで手一杯になる。
 その速度と、飛来するパチンコ玉を視認し、弾くできる視力と速度は、十分に称賛に値した。
「楓、やつらの武器を潰せ!」
 荒野の叱責によって、楓が動く。
 六角がうなりをあげて、三人の手元に飛ぶ。
 三人は、パチンコ玉と同じように、楓の六角を弾いた……が、重く、スピンしながら飛来する六角は、パチンコ玉と同じようにはいかない。
 棍で弾いた際、手に痺れを残す。
 若干、三人の手の動きが、鈍った。
 楓は次々に六角を連投する。三人はことごとく、それを弾く。
 ……徐々に、手が痺れ、握力が効かなくなってくるはずだった。
「次は、足止め!」
 楓にそういいながら、荒野は残りのパチンコ玉を一斉に三人のほうに放る。
 それまでの狙いをつけた弾き方ではなく、パチンコ玉は広範囲に広がった。
 ほぼ同時に、三人の足下を狙って、楓の八方手裏剣が飛ぶ。
 三人の間に、軽い動揺が走る。動揺しながらも、三人は素早く手足を動かし、楓の手裏剣を避けながら、荒野のパチンコ玉を棍で弾いた。
 まずは、懸命に荒野たちの攻撃に、堅実に対処していた、といえる。
 しかし……。

 自分が投げたパチンコ玉を追うようにして、荒野が三人に肉薄していた。

[つづき]
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