第五章 「友と敵」(45)
三人は、荒野が動き出す前から、予備動作を見切って、迎撃態勢を整えようとしていた。三人のうち、両脇の二人が楓の弾幕を棍ではじき、中央の一人が、まず、荒野に向かって棍の切っ先を突き入れる。
『……誰に仕込まれたか知らないけど……』
三人の連携は、確かなものだった。
だから、なおさら……。
『……動きが、読みやすいんだよなー……』
飛来する楓の六角をあらかたはじき飛ばした二人も、中央のにならって棍を荒野に突き入れる。
その頃には、荒野は三人の目前に迫っていた。
荒野は、突き出された三人の棍を掴んで、手前に勢いよく引っ張る。
ちょうど、楓が六角から手裏剣に得物を持ち替えたばかりで、三人の足元には、極めて不安定な状態になっていた。
手裏剣を弾くべき棍は、荒野に握られて、強い力で引っ張られている。
足元に飛来する手裏剣を避けようとすれば、踏鞴を踏んでいるような形になり、当然、足元に力なんか入りはしない。
三人の上体が、大きく泳ぐ。
荒野は、姿勢を低くして、三人の足元に潜り込む。
そのまま、三人の体を、上方にはじき飛ばした。
三人の体重が軽かったこともあって、三人の体は、高々と宙に躍った。
前後してどさどさと地面に落ちてくる。
三人とも、流石に受け身くらいはとっていたから、物理的なダメージはあまりないようだったが……こうもいいようにあしらわれたのは、精神的には、かなりきつかったらしい。
三人とも、揃って蒼白な顔をして、下唇を噛みしめていた。
『井の中の蛙、だな……』
「……その年にしては、訓練されているとは思うけど……」
『……なんのためにここに来て、おれたちにちょっかいを出してきたのかはわからないけど……』
「お前らのやりかたってのは、根本的なところで実践的じゃないのな」
『こんなんじゃあ……性能試験、にも、なりはしないじゃないか……』
身体能力だけでいえば……あれだけの弾幕を全てはじき飛ばした三人は、たしかに、同年配の二宮以上……なのかも知れない……が……。
「忍相手に正々堂々と果たし合い申し込んでどうするって……。そんなんじゃ、勝てるもんも勝てないだろう。そんなことしたら、みすみす相手につけいる隙をつくってやるようなもんだよ……」
『……忍、として根本的な所が仕込まれていないから、こいつら……どんなに高性能でも、実戦の場では、使い物にならないよなぁ……』
荒野は、三人の中に、「殺気」とか「気迫」というものを認めることが出来なかった。
そのため……どうにもこの三人を相手に、本気を出すことができない……。
「ふん。不服そうな顔をしているな、お前ら……」
その顔じゃあ、お前ら……。
「実力を発揮する暇もなかった……とでも、いいたいのか? こっちがその気なら、全員死んでいるところだぞ? 」
……友達を、自分の手で殺して食ったことなんか……ないんだろ?
「まあいい。今後もつきまとわれるのもうざいしなぁ……。
……楓。
ちょっと、こいつらの相手をしてやれ。
素手のお前一人と、武器を持ったこいつら三人で、ちょうど釣り合いが取れるぐらいだろう……」
荒野がそういうと、楓は目を丸くした。
楓も、たしかに甘い部分があるのだが……この三人ほどでは、ない。
それに、楓の動きは、日に日に鋭くなっている。楓自身は、あまり自覚していないようだが……。
荒野の見立てでは……現在の楓は、「並の二宮以上」のこの三人を同時に相手にしても、十分に凌げるほどになっていた……。
『……ここいらで、楓にも……もうちょい、自信を持って貰わないとな……』
そう思って、荒野は楓にウインクする。
「……それともお前ら……三人がかりで、素手の楓一人を相手にするほどの自信もないか?」
今度は、多少芝居がかった調子で、三人のほうに振る。
「……ば、ばっかゃねーの!」
「そいつ、ソッチの中では、一番下っ端なんだろう!」
「やるよ! やってやるよ! その代わり、怪我しても知らねーからな!」
三人は、頬を紅潮させ、荒野の挑発に易々と乗った。
「なんなら、そっちは飛び道具使ってもいいぞー。
そんくらいのハンデやらないと、不公平だからなー」
わざとのんびりした口調でそういいながら、荒野は、ゆっくりと茅がいる位置まで後ずさる。途中で楓に、
「手加減しながら、たたきのめせ。奴らが起きあがれなくなるまで」
と、厳しい声で耳打ちするのも忘れない。
楓に、荒野が本気で命じている、ということを分からせる必要があった。
納得したのかしないのか、ともかくも、楓は頷いて、三人の方に近づいていく。
ようやく立ち上がった三人に向かって、楓は、一度大きく息を吸ってから、
「来なさい!」
と、大声を出した。
楓は、荒野の命令を、忠実に実行した。
さっき見た時はかなり素早く思えた三人の挙動は、近寄って対峙してみると、かなり余裕を持って対処できる速度でしかない……ということに、楓は気づいた。
『……荒神さんの動きに比べれば……』
止まっているようなものだ……と、思えてしまう。
楓は、三人の棍を難なくかいくぐり、近寄り……殴りつける、というのもアレなので、足元を掬って転ばせたりした。
三人のほうからは、楓の動きが速すぎて視認できないようだった。
最初のうちは、何故自分が転んだのか理解できない……といった、不思議そうな顔をしていたが、何度か転んでいるうちに、段々、自分らが楓の動きを追い切れていない、ということを悟り始め……三人は、徐々に、ムキになり始めた……。
結果、棍を振る動作が、大振りなものになって、かえって隙が大きくなったりする……。
『……ああ……』
楓も、ようやく三人のことを理解しはじめた。
『パワーとスピードはあるけど……戦いの場で、感情を統御することすら、学んでない……』
見た目の通りの、子供たち、なのだ……と。
[
つづき]
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