第五章 「友と敵」(46)
「……なんでだよぉ!」
随分悪あがきをして、三人がかりでも楓一人に対抗できない、ことがいよいよ明確になって……三人の想いを代弁するように、一人が叫んだ。
「なんで、こんなに!」
『……こいつら……今まで、自分以上の能力の持ち主に、会ったことないんだな……』
と、荒野は思った。
「……それが、今のお前らの実力……ということだな……」
口に出しては、荒野はそういった。
外界に出てきて、初っぱなに「最強」の一番弟子と二番弟子に当たるのは、不運といえば不運なのかも知れないが……荒野たちが本気で子供を殺すような人種でないことは、三人にとっては、十分に幸運だった筈だ。
あれだけ公然と「倒す、倒す」と公言していれば、当の相手に返り討ちにあっても文句は言えない……荒野が属し、三人が一歩足を踏み入れようとしたのは、そういう世界だった。
そういう世界では、自分の能力への過信は、確実に身を滅ぼす。
これにこりて、三人の妙な慢心が今後いくらかでも抑制されれば……それに越したことはなかった。
「まだやるか? やれるか? お前ら全員、汗だくでじゃあないか?」
荒野がそう念を押すと、三人の子供たちはお互いに顔を見合わせ、息一つ乱すことなく立っている楓のほうを、薄気味悪そうにみた。
『……楓も、友達を殺して食ったこと、あるんだろうな……』
荒野は、そう予測する。
三人と楓との根本的な違いは……つまるところ、そういうところだ、と、思った。
本当の殺意や暴力を、身を持って知っているか否か……。
能力的なことは鍛えればある程度まではフォローできるが……そうした、根本的なメンタリティの違いは、咄嗟の時の思い切りの良さに関係する。
その意味で、楓や荒野と、三人の属する世界は、根本的な部分で違っている……ともいえた。
無邪気な暴力と、自分の意志で、自分のために友と認めた存在を殺すこともできる暴力、とでは……質が、根本的に、違う。
三人が地面に平伏して、荒野たちに負けを認めると、荒野はきびすを返して帰ろうとした。
まだ、夕食用の食材を、買っていない。
そんな荒野に、三人は、
「待ってください!」
と、縋りついてきた。
三人の話しを総合すると、どうやら、三人はしばらくこの町に逗留する手筈がついているらしく、「これ、いくようにいわれている、宿泊先です」と、ひじょーに見覚えがある住所の書かれたメモ用紙を、荒野たちにみせてくれた。
その住所がどこのものであるのか確認した途端、荒野は、くらくらっと目眩を感じた。
「……これ、うちの住所ですぅ」
楓が、いった。
いわれるまでもなく、それは、荒野たちが住んでいるマンションの隣り、すなわち、楓や香也や孫子が住んでいる、狩野家の住所だった。
『……じじい……なにを考えていやがる……』
こう来られては……この三人の黒幕は、十中八九、加納涼治だろう……。
「……お前ら、誰の命令でここに来た!」
荒野は、射すくめるような眼光を放って三人に問いただすと、途端に三人はガクガクと震えはじめた。
「……そ、そんな、命令、なんて……」
「……お、おれたち、じっちゃんが死んだんで……いわれていた通り、信号弾あげて……」
「……そしたら、迎えの船が来て、本土に来て、しばらくいろいろな事ならって……」
狩野家まで送っていく道すがら、三人に話しを聞く。
それを総合し、要約すると、
「三人は、無人島で育てられた。
育てたのは、三人が『じっちゃん』と呼ぶ、初老の男。棍の使い方、その他の技も、その『じっちゃん』に仕込まれた。『じっちゃん』の姓名は不明。
『じっちゃん』の死亡後、かねて教えられた通り、信号弾を空に打ち上げる。すると、二時間もせずに、迎えの船が来て、三人を本土に連れてきた。
それからは、どっかの倉庫みたいなところで、一月にわたって、一般人の社会生活について一通りレクチャーを受ける。寝起きをともにし、そのレクチャーをしてくれた男は、今日、車でこの土地まで送ってくれて、そこで別れた。
その後は、
『荒野、茅、楓の三人を倒せ』ということと、『それが終わったら狩野家にしばらくご厄介になれ』としか、聞かされていない……」
ということになった。
三人は、茨木岳、羅生門法、酒展天、と名乗った。
『……それで……ガク、ノリ、テン……か……』
いかにも偽名臭いが……物心ついたときからそのように教え込まれていれば、それが本名だ。書類上も、それで手配がついているのだろう。
「荒野……それ、鬼の名前……」
茅が、珍しく横合いから口を出す。
なるほど……
茨木童子、酒呑童子、それに、羅生門の鬼……。
『……童子、という……いや、こいつらは鬼子のようなものだ、という符号……なのか?』
もとは、コードネームのようなもの、だったのだろう。
それがそのまま、実際にこの子たちの名前になった……。
『……そんな冗談みたいな名前を名乗らなければならないこいつらにとっては……いい迷惑だよなぁ……』
などと、思う。
口には、ださなかったが。
荒野は玄関口に出迎えに来た真理に三人を紹介し、三人に深々と頭を下げさせた。
来る途中で、「くれぐれも、狩野家の人々に迷惑をかけないように」ということを言い含め、「お前らがもっているクレジットカードは、真理さんに預ける」といって取り上げた。
三人は、表面上は荒野のいうことをよく聞き、クレジットカードもおとなしく渡した。
もっとも……三人が「なにをすれば迷惑になるのか、判断できない」ということは容易に想像できたし、クレジットカードをおとなしく渡したのも、まだ三人が貨幣経済の実態について、よく理解していないことが大きいのだろう。
荒野は、楓にも、
「……お前、居候の先輩だからな。
こおいつらの手綱、しっかりとひきしめるように……。
いざとなれば、頭の一つ二つ殴り飛ばしても構わないから……」
と、申し渡しておいた。
楓も真剣な顔をして頷いてはいたが……実に、心許なかった。
[
つづき]
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