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彼女はくノ一! 第五話 (4)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(4)

 荒野は三人に対して、「なんなら、飛び道具つかってもいいぞ」と付け加えさえしたが、軽視されているのが不服なのか、それとも単に投擲武器を用意していないのか、三人のほうは棍を構えなおしただけだった。

 楓は、大きく息を吸い込むと、
「来なさい!」
 と叫ぶ。
 三人の能力を軽視しているわけではない。動きの鋭さは、先ほどまでのやりとりで、十分に理解している。
 しかし、……。

 三人は、楓の前後に回り込み、六節棍を別々の形態にして、一斉に躍りかかって来た。特に誰かが合図したようにも思えなかったのに、ほぼ同時に動いていた。
 ……息が、合っている。
 一人は、全ての関節をはずした鞭状にして、一人は、一つ目の関節だけを自由にして、スレイル様の武器として、最後の一人は、全ての関節を連結したまま、棒として振う。それぞれ、リーチも軌跡も違い、打点を予測しにくくなる……筈だった。
 が……。

 楓は、それぞれの軌道が……「読めた」。

 最小限の動きで三人の棍をかいくぐり、一人一人、軸足の足首を、払っていく。
 三人の子供たちは、面白いように地面に転がった。なぜ転んだのかわからない、という不思議そうな顔をしている。
 そして、地面に横たわりながら、学校指定のコートを身に纏ったまま、息ひとつ乱さず立っている楓を、不気味そうに見上げる。
 楓は、地面に転がった子供たちに追い打ちをかけることなく、指で招く動作をして、子供たちに再度挑戦してくるように即した。
 子供たちは、釈然としない顔のまま立ち上がり、再び、楓のほうに突進していく。
 スピードはたいしたものだが……フェイントもなにもない、愚直な突進だった。
 楓は、ゆらりと動いただけのようにみえて、やはり見事に三人の足下を掬っている。
 何度も何度も、倒されては起きあがり、突進していく子供たち。
 最初のうちは、三人で呼吸を図って、一斉に飛びかかるようにしていたのが、回数をこなすうちに、動きが徐々にばらついていき、すぐに、一人一人順番に楓におどりかかっては倒される、ということになった。
 楓一人を相手にするようになってから、まだ五分とたっていないのに、三人とも汗だくになって肩で息をしている。

「……なんでだよぉ!」
 耐えきれなくなったのか、三人のうちの一人(たぶん、仲間内からガクと呼ばれていた子供)が、叫んだ。
「なんで、こんなに!」
「……それが、今のお前らの実力、ということだな……」
 荒野は、しれっとして答えた。
 三人が何者かは知らないが……「最強」の二番弟子にいきなり挑もうというのが、どだい無理なのだ……と、荒野は思っている。
「まだ、やるか? やれるか? お前ら全員、汗だくじゃないか?」
 三人は、楓のほうみる。
 コート姿を乱すこともなく、平然と立っている……だけ、だった。

 もはや、六節棍でようやく自分の体重を支えている態の三人は、お互いに目配せを交わしあって、突如、地面に平伏した。
「「「……参りましたぁ!」」」
 荒野たちの中で「一番の下っ端」として認識していた楓とさえ、ここまで実力差があるのなら……三人が勝てる可能性は、万に一つもない……と、納得したようだった。

「……じゃあ、お前らの用事はもうこれで済んだな?
 おれたち、もう帰るから……」
 荒野は、楓に鞄を渡しながら三人に申し渡した。
 正直、「これ以上、つき合っていられない」という気分だった。
「ま、待ってください!」
 荒野たちがその場から去ろうとすると、三人は口々に荒野たちを呼び止めた。
「い、行く前に、この住所への行き方、教えていってください!」

 三人は、メモ用紙を荒野たち三人に示した。
 そのメモに書かれた住所をみて、荒野たちの目が、点になる。

「……実は、おれにも事情がよく把握できていないんですけど……」
 狩野家の玄関口で、荒野は三人の子供たちに深々と頭を下げさせる。
「……こいつら、こちらのお宅にお世話になるって話しで……」
「はいはい。涼治さんからちゃんと聞いてますよ」
 対応に出た真理は、実ににこやかなに三人を出迎えた。
『じじい……また、真理さんに過分な下宿代、預けたな……』
 と、荒野は思った。
「……こちらのカードは、真理さんが管理してください。こいつら、大食らいですし、なにか壊した時とかの弁償代なんかも、こちらから遠慮なくさっ引いてください……」
 荒野は、三人が持っていたクレジットカードも、真理の手に預ける。先ほど、三人から強制的に没収したものだった。
「……お前ら、後で真理さんに暗証番号も教えておけよ!」
 と、これは、三人の子供たちに、念を押す。
 三人の子供たちは、コクコクと頷いた。
「……いいのよー。そんな気を使わなくともー」
 真理はそういいながらも、三枚のカードを受け取った。
「……それより、みんな、汚れているじゃない。荷物も届いているから、着替えをもってお風呂場に……そうね、楓ちゃん、ちょっとプレハブのほうにいって、こーちゃん呼んできてくれない?
 荒野君と茅ちゃんも、せっかくだから、今日は一緒にこっちで御夕飯していきなさい。今日は三人の歓迎会ということで、かなり多めに作っているから……」

 荒野と茅は、制服を着替えたり鞄を置いたりするために一旦マンションに帰った。
 楓は、真理のいうとおりに庭に出て香也を呼び出してくる。三人にあてがわれた部屋まで香也を案内し、三人と香也を合わせて、自分の部屋に着替えに戻る。
 香也は、三人と名乗り合ってから、三人を風呂場まで案内した。途中、
「……ついでだから、こーちゃんも三人と一緒にお風呂に入っちゃいなさい……」
 といわれ、何の気なしに、
「……んー……」
 と、頷く。
 風呂場に入って、三人と一緒に服を脱いだ……ところで、激しく後悔した。

 三人は、女の子だった。

[つづき]
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