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彼女はくノ一! 第五話 (8)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(8)

 十時半を過ぎると、誰からともなく「今日はここまでに……」といいだし、香也をさりげなく止める。一度集中しはじめると、時間経過の感覚が鈍くなる香也は、二人が来るまではこういう時もついつい体力の続く限り、明け方までキャンバスに向かっていることがあり、そのような傾向も以前の不登校の原因にもなっていたのだが、最近では、良くも悪くかなり規則正しい生活を強いられている。大体決まった時間に寝るし、決まった時間に起きる。
『……いや、多分……良いこと……ではあるんだろうけど……』
 漠然と香也はそんなことを、思う。
 例えば、樋口明日樹がこの家に来るようになってからも、「ともかくも、真面目に学校に通うようになった」というそれなりの変化はあったわけだが……明日樹は、楓と孫子とは違って同居しているわけではないし、それ以上に「絵を描く」という香也の行為に甘い部分もあり、で、二人ほど有無をいわせず香也に干渉してくることはなかった。

 母屋に帰ると玉木珠美はすでに帰宅した後で、居間に残っていた真理の話しによると、今日到着した三人は疲れているのか早めに就寝した、ということだった。玉木の方の作業は、すでに峠を越えているらしく、この家に通い始めた頃ほど遅くまでは残っていなかった。羽生譲のほうの作業は、今回は動画の量が多いとかで、なかなか苦戦している様子だった。今夜もまだまだ佳境、のようで、羽生の部屋には灯りがともり、部屋の前を通りかかると、マシンのハードディスクの作動音とか冷却ファンの物音、マウスのクリック音が、かすかに聞こえてきた。
 三人は大きめの部屋をあてがわれ、そこで一緒に寝起きすることになったらしい。三人とは別便で送られてきた荷物は当座の着替えと人数分の布団くらいの、だったらしい……。
 楓と孫子と顔を見合わせ、誰からともなく「様子を見に行こう」ということになり、三人の部屋にそっと忍び込む。
 三人は、掛け布団を跳ね上げたかなり寝相の悪い恰好で、思い思いの姿勢で熟睡していた。苦労して手足を布団の中に押し込み、布団をかけ直してその部屋を出る。

 一夜明けると、いつも通りの朝が、一日が始まる。
 平日には学校があり、香也も早めに起き出して支度をしなければ、またあの二人にたたき起こされる。いつぞやのように、二人に朝の生理現象を観測されるのも決まり悪いので、最近では香也は、目覚ましを頼りに自発的に起きるようになっている。
 パジャマのまま洗面所で顔を洗い、制服に着替えて居間にでると、すでに他の住人たちは勢揃いして、全員で声をあわせて「いただきます」と唱和し、朝の食事を摂る。
 世間話をしながらしばらく食事をしたところで、何故か玄関のほうから昨日の三人組がどやどやと帰ってきて、真理が慌てて三人の分の茶碗と箸を用意する。
 ほかの住人と合流して元気よくご飯をかき込みながら、三人は、外で軽い運動をしてきた、といった後、
「昨日の、おとなりのかのうこうやとかやちゃんも走ってたー!」
 と報告してくれた。
 二人が朝、スポーツウェアに身を包んで走っている姿は、バイト帰りの羽生譲が何度か目撃しているところで、特に感銘を受ける、という情報でもなかった。

 朝食を済ませた後、楓と孫子と一緒に玄関をでると、飯島舞花と栗田精一の二人がすでに立っていて、鉢合わせになった。少し離れた所に、樋口明日樹と大樹兄弟の姿も見える。
 玄関先まで香也たちを見送りに来た三人組が、舞花たちに「おはよー!」と声を揃えて元気よく挨拶をした。香也たちと同じ制服に身を包んでいるところから、香也たちの知り合いか友人だと見当をつけたのだろう。
「……なに、この子たち……ひょっとして、また新しい……」
 舞花が三人に「おはよー!」と挨拶を返してから、香也に尋ねる。
「……んー……その、まさか……また、住人が、増えた……」
「……次から次へと……よくも、まあ……」
 舞花も、困ったような顔をして、笑う。
「……ええと、三人かぁ……
 三人が三人とも女の子だったら……また一歩、家庭内ハーレムの布陣が完璧なものになったなぁ……」
 舞花はもちろん、軽い冗談のつもりでそういった。
 しかし、舞花がそういった途端、楓と孫子の顔が軽くひきつり、香也は顔を伏せてくらい表情を作る。
「……え? え? え? そうなの? 本当にみんな、女の子なの? いや、でも、みんな小さな子だし……」
 香也、楓、孫子の表情の変化に気づいた舞花は、慌てて取り繕うように、言葉を重ねた。
「ちいさいっていうなー!」
「四月からは同じ学校に通うんだぞー!」
「昨日はおにいちゃんと一緒にお風呂入ったもんねー!」
 舞花の言葉に反応して、三人が玄関口からわらわら出てきて、香也に抱きつきながらそういった。
 ちょうどその頃、香也たちのすぐそばに到着した樋口明日樹の手から、どさり、と、鞄が落ちる。
 明日樹の顔は、蒼白だった。
「……ええと……今度の四月からうちの学校に通う、っていうことは……楓ちゃんや茅ちゃんと、一歳違い?」
 舞花は、相変わらず困ったような愛想笑いを浮かべながら、そんなことをいった。
「……いや、たしかに、外見的には格差がある年頃だけど……こいつは失礼しました!」
 舞花は素直に、深々と三人に向かって頭を下げた。
 三人の反応は、舞花に向かって「えっへん!」と得意そおうに胸を張ったり、下をだしてあかんべをしたりと、様々だった。
「……なにぃ! 今度の入居者は、妹系ろりっこ! しかも三人も!」
 ようやく事態を理解した大樹が、叫ぶ。
「それどこのエロゲですか!」
 明日樹は、ほぼ反射的に大樹の頭を後ろからはたいている。
『……実態は、そんなにいいもんじゃないんだけど……』
 昨夜の風呂場での騒動を思い浮かべながら、香也はそんなことを思う。

 仮に。
 仮に、香也が、同居者の少女たちのうち、誰か一人を特別扱いし始めたら……。
『……まかり間違うと、血を見るようなことになるんじゃあ……』
 香也自身が傷つくよりも、自分のために誰かが、彼女たちがいがみ合うような事があり得る……という想像は、香也の気分をひどく暗いものにした……。
『……こういうの、苦手なんだけどなぁ……』
 などと香也が思っていると、マンションの方から加納兄弟がこちらのほうに来て、
「……そろそろ学校に向かわないと、遅くなるぞー」
 と言ってくれた。
 それを機に、学生たちはぞろぞろと学校に向かう。
 学校では、いつもの日常が待っている筈だった。

[つづき]
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