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第五章 「友と敵」(50)
三人の少女たちと荒野が会話を続けている間、茅は黙っていた。好きで会話に参加していなかったわけではない。走っている最中に気楽におしゃべりできるほどのスタミナを、茅はまだ持っていなかった。
「……そういや、お前ら、夕べは向こうの家の人に迷惑かけるような事、しでかさなかったろうな?」
「や、やだなぁ……」
「そ、そんなこと、するわけないじゃないか……」
「そうそう。お、お世話になっているんだから……」
「……お前ら……声がうわずってるぞ……」
そんな茅の横に併走しながら、荒野と三人は気軽に会話を続けている。
『……むぅ……』
茅は、不機嫌になった。
長距離走のペースとしては、現在の速度が、茅にとっての最速に近い。
当然、会話はおろか、呼吸を乱す余裕さえない有様で……その速度に併走しながら、荒野と三人の少女たちは苦もなく通常通りの会話を続けている……。
フィジカルな能力において、格差があるのは承知していたが……こうもさりげなくその差を見せつけられると、やはり、面白くないのだった……。
そうこうするうちに、荒野と茅、それに三人は町中を抜け、河川敷へと到着した。
後は、川沿いにまっすぐ走るコースになる。
「……お前らなぁ……まあ、過ぎた事だし、ほじくり返しはしないけど……あの家の人たちはいい人ばかりなんだから、本当に、あまり手をかけさせるようなことするなよ……。
真理さんや羽生さんのいうこと、ちゃんと聞くんだぞ……」
「「「うん!」」」
「うん、じゃない。はい、だ。
お前ら、四月からは学校に入るって話しだろ? そういうところも見られるからな。失態を見せたら、苦労してお前らを育ててくれたじっちゃんの名折れになるぞ……」
荒野がそういうと、三人は、「おう!」とか「まかせて!」などとバラバラに返答する。
「返事は、『はい』」
荒野が念を押すと、ようやく、
「「「はいっ!」」」
と、声を揃えた。
『……素直で元気なのは、いいけど……』
荒野は、内心ではかなり心配している。
『……いろいろと、先行き不安な連中だ……』
「……あと、三島先生って人に今度時間作ってもらうから、簡単な健康診断くらいしてもらえ……」
元気すぎる三人が健康を害している、とも、見えなかったが……念のため、ということもある。この三人の自出や、三人を育てたという「じっちゃん」の正体は不明だが……連中が狩野家にいる、ということは、確実に、なんらかの形でじじいも関与しているわけなので……と、すれば、結局は荒野のほうに管理責任が結果として押しつけられるのだろう……。
仮にそうでなくとも……三人が暴れたり尻尾をだしたりした場合、荒野たちも少なからずダメージを受けることは確実であるわけで……だから、荒野は、三人が取り返しのつかないへまをしないことを、切実に願った。
「……三島先生?」
「のらさんあたりから聞いてないか?
お前らより小さいくらいの人だが、歴としたお医者さんだ。おれたちの助言役でも、ある」
「……えー……」
「医者なら、こっちにもちゃんといるもんねー」
「ノリも、ちゃんとしたお医者だよ?
傷口を消毒して縫う程度のことは、ガクでもテンできるけど……」
「それぐらい、おれにもできる。
そういう応急処置とかでなくてだな、正規の教育を受けたお医者さんだ、っていうことだ。ナリと言動は……だが、いざというときには……んー……た、た、た……頼りになったこと、あったかな……あの人……」
説明しているうちに、だんだんと自信がなくなってくる荒野だった。
咳払い一つ。
「とにかく! お前らの身体データ、こっちも欲しいし、できれば週末あたり、時間空けておいて欲しい……」
「……えー……今度の週末って……」
「夕べの晩御飯の時、眼鏡のおねーさんが歓迎会してくれるって……」
「ばーべきゅー……食べたことないのに……」
「だから、それは土曜日のことだろ!」
荒野は、効率の悪い三人との会話に苛立ち始めている。
「その次の、日曜日でいい!」
「うん。じゃあ、今度の日曜日、予約ね」
「けんこーしんだん、けんこーしんだん……」
ここまで会話が進んだ所で、いつもなら折り返し地点にしている橋のたどり着いた。いつもなら、ここで五分ほど小休止をとる。
茅は、いつものように足を止めた。肩で、息をしている。
「……ねえ……」
茅は、呼吸を整えながら、三人の新参者に向かって尋ねた。
「……この中に、見たことや聞いたこと、全部覚えている子、いる?」
荒野は、息を呑んだ。
いきなり、核心をついてくるとは……。
もし、そういう奴がいるとすれば……それは、茅と同じく、六主家のうち、佐久間の因子を色濃く受け継いでいる、ということになるわけだが……。
「……それ……テン……」
「テン、テン!」
ガクとノリが、囃し立てるようにして、答えた。
当のテンは、恥ずかしそうにもじもじしながら仲間の背中に隠れようとしている。
……どうやら、自分たちの特性を、隠そうという気はないらしい。
それに、三人の態度をみるかぎり……まんざら、嘘でもなさそうだった……。
「……じゃあ、三人のなかで飛び抜けて力が強いのとか、速いのとかはいるのか?」
念のため、荒野は尋ねてみる。
強大な筋力を持っていれば二宮、反射神経や足が速いのは野呂……の、因子を強く受け継いでいる公算が高い。だからどうだ……ということはないのだが……今後のこともあるし、三人の特性に対する知識は、多く持っているのにこしたことはない。
「はいはーい! 一番の力持ちは、ボクー!」
ガクが、元気よく手を挙げた。
「……動きが速いのは、ボク……」
ノリの返事はガクよりよほど静かだったが、その平静さがかえってノリの自信のほどを裏付けているようにも、思えるのだった。
『……昨日の戦い方だと、それぞれの特性を生かし切っているようにも、見えなかったけどな……』
それをいったら、マンドゴドラでの邂逅の仕方自体、かなり間が抜けている……。
この少女たちを育てた「じっちゃん」とやらは、一族の基本的な技は伝授しても、彼女たちを「実戦要員」としては、教育しなかった……の、だろう……。
そういえば……茅も、そうなのだ。
「一族の一員」としては、教育されていない……。
荒野は、そこになにかひっかかるものを感じたが、その時点では、それが具体的な思いつきにまで育つことはなかった。
『……後で、茅にでも話して、意見をきいてみよう……』
荒野は、そのひっかかりを、とりあえず「保留」することにした。
[
つづき]
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