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髪長姫は最後に笑う。第五章(51)

第五章 「友と敵」(51)

 三人のことについて茅とゆっくり話し合いたかったが、ランニング中におしゃべりをした分、帰宅したのもいつもより遅くなり、あわててシャワーと朝食、身支度を整えて外に飛び出す。
 結局、いつも一緒に登校する面子の中では一番遅くなり、狩野家の前にたむろしていつもより賑やか過ぎるほどに騒いでいた。騒ぎの中心は珍しく香也のようだったが、詳しい話しの内容までは聞き取れなかった。
「……そろそろ学校に向かわないと、遅くなるぞー」
 と荒野が注意をすると、ぞろぞろと全員が動き出す。
 その場にいた全員は、例の三人娘に見送られて登校した。

 途中で、もはやお馴染みとなった玉木珠美がにこやかに合流し、岩崎先生が自動車教習所に通い始めた、とか、学校関係者の他愛もない噂話を披露しはじめる。すっかり顔なじみなった通り道のご近所の人たちや、同じ学校に通う生徒たちと挨拶を交わし合いながら、歩いていく。
『……いつもの、登校風景……だよな……』
 この町に来てから三月ほど、学校に通うようになってからは、まだ半月もたってない。にもかかわらず、荒野は、こうした「いつもの光景」の中にいる自分、というものを、ごく自然なものだと思いはじめている。
 つい一年前……いや、半年前までの自分に……日本の田舎町で、こんな平和な生活を営んでいる自分自身が、想像できただろうか?
『……そういや、そのころ……おれ、なにやっていたっけ?』
 一歩間違えれば途端に転落する……危ない綱渡りをやっていたことは確かだが……詳細となると、もはや記憶はおぼろげである。ミッション一つ一つの記憶自体は鮮明するぎるほどだが……頻繁にあちこちに移動していたため、日付の感覚が、ひどくあやふやだった。
『……あの頃は、刹那刹那の時間に生きていたんだな……』
 と、改めて、思う。
 長く一つ所にいること自体、荒野にとっては数年ぶりなのだが、加えて、ここ日本には、はっきりとした四季がある。着いたばかりの頃は少し肌寒いくらいだったが、今では、一歩外に出れば肌を刺すような寒気にさらされる。これから二月にかけてが、この辺で一番寒さが厳しくなる時期だと、聞いていた。
『……こんなことを気にすることができるのも……』
 一カ所で、継続して生活しているからだった。
 こういう「普通の生活」を、荒野はできるだけ長びかせたかった。
『……そのためにも……』
 あの三人のこと、はっきりしなくてはな、と、荒野は思う。

 その日の昼休み、荒野は屋上への出入り口前の踊り場に上がり、携帯電話を取り出す。どんずまりで袋小路になっていこの場所には、滅多に人が上がってこない。仮に上がってくる者がいたとしても、荒野なら、かなり早い時期に気配を察知することができた。
 荒野はまず、涼治の番号にかける。昨日、こちらから通話を切ってそのままにしていたので、涼治からも改めて情報を収集する必要があった。
 荒野はしつこく食い下がり、あの手この手で揺さぶりをかけて涼治から三人の情報を引き出そうとしてみたが、その手の交渉に関しては年季の入った涼治のほうが荒野よりも一枚も二枚も上手であり、三人を育てたとかう「じっちゃん」の正体とか、何故涼治があの三人の住居などを手配しているのか、など、荒野が当然疑問に思うことについては、のらりくらりと回答を回避し続けた。
 肝心の情報をなかなか開示しようとしない涼治に半ばキレかかった荒野が、
「……じゃあ、あの三人はおれたちとは無関係だから、なにやっても放っておいて良いんだな!」
 と凄むと、隣りの家に住み、今度の春から同じ学校に通うと決まっているらしい三人が何かしらしでかせば、荒野や茅にとばっちりが波及する、ということを見越した上で、
『……そのほうがお前に都合が良ければ、放っておくのもよかろう……』
 などと空とぼけた返答をする。
 荒野が、三人を放置できるわけだがない……と、踏んだ上で、そうシラを切るのである。
『……じじいはあくまでおれ自身に判断させるつもりか……』
 そう見て取った荒野は、別れの挨拶もそこそこに涼治との通話を切った。
『……多分、おれがどう動くのか、見極めたいのだろう……』
 と、荒野は思った。
 以前から荒野は、この茅との同居生活をはじめてからこっち、一連のことは、荒野のことを試すための仕掛けではないのか、と、疑っている。

『……となると、あとは……』
 三人についての情報を収集できそうな先は、一時期三人を預かっていたという、野呂良太の所しかない。野呂良太の連絡先は、年末に名刺を貰った時に携帯に記憶させておいた。
 さっそくその番号にかけてみたが、野呂の電話は「圏外」にでていて繋がらなかった。
『……今度は……いったい、どこで仕事をしているんだ、あの人……』
 昨日、三人をここまで送ってきたばかり、という話しなのに……。
 忙しない人だ、と、荒野は思った。

 気づけば、涼治との通話が思ったよりも長引いたため、すでに予鈴が鳴る時間となっていた。荒野は携帯の電源を切り、午後の授業を受けるために教室へと向かう。

 放課後、荒野は保健室に向かった。保健室には、三島百合香がいる筈で、今度の日曜日に、三人の分の健康診断を頼んでおく必要があった。この日はたまたま茅の定期検診の日でもあったので、どうせついで、ではあるのだが、機材の手配などの都合もあるため、早めに連絡しておく必要があった。
 ノックをして保健室に入ると、三島百合香とシルヴィ・姉崎がなにらやけばけばしい色彩が印字されたチラシのような紙切れを手にして熱心に読み込んでいた。
 荒野が中に入っていくと、三島は、
「おう。荒野。ちょうどいいところに来たな!」
 と、持っていた紙を荒野に見せた。
「ここに書いてあること、どこまで本当だ? お前ならわかるだろ? ン?」

 三島とシルヴィの持っていた紙には、けばけばしい色彩で目元に細い黒線の入った香也と楓の写真がプリントされており、その周囲に、どでかいゴシック体で、
「一年のKK君とMKさんに三人の隠し子!」
 とあり、その最後の「!」の文字の十分の一くらいの小さな字で、
「か?」
 とかいう小さな文字が、申し訳程度に添えられていた。
 下の方に、ピースサインをして笑っている例の三人娘の顔写真も、黒目線入りで掲載されていた。

「……いや、玉木のヤツがな、この間の壁新聞、教師に撤収させられたもんで、今度は取り上げられない号外だって、これ、学校中に景気よくばらまいているんだが……」

 みなまで聞かず、荒野は保健室を飛び出していった。
 楓と才賀の暴走が懸念されたし……二人が暴走しはじめれば、抑えきれるのは荒野くらいしかいないのであった。
『……玉木のヤツ……』
 あいつ、命が惜しくないんだろうか……と、荒野は思った。
 いっそのこと……このまま、かなり危ないところまで、楓と才賀を止めないで置こうかなぁー、とも……。
『……玉木は、一度あの二人の怖さを、身を持って知った方がいいかも知れない……』
 そう思ってしまう、荒野だった。

[つづき]
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