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髪長姫は最後に笑う。第五章(53)

第五章 「友と敵」(53)

「……お仕置きの邪魔するですか!」
 突然現れた楓は、荒野の予測以上に興奮していた。
「場所柄を考えろっての! 注目されてるじゃないか!」
 いきなり地面にはいつくばったり、楓が放り投げた子供を空中でキャッチしたりした荒野は、たまたま周辺にいた買い物客たちからの注視を浴びていた。
 ようやくそのことに気づいたのか、楓は、顔を赤くして荒野のいうことを聞く態度を示した。
「で、でも! 今回の玉木さんは……やりすぎです!」
 楓がそう叫んだのは、周囲のことを見る余裕を無くしていたことを自覚した楓の照れ隠し、でもあったのだろう。
「それはな、おれも認める。
 だけどな。
 それ、今、ここで、無理に始末つけなけりゃならないことなのか?」
 荒野は楓を説得しながら、胸元に抱えたままだったテンを、猫の子かぬいぐるみであるかのように軽々と楓の目線の高さまで持ち上げて見せた。
「人目、ということ以外にも……こいつらにも、事情を説明して、なぜお前らが怒っているのか納得して貰わないと……。
 こいつら、お前らを、理由もなく玉木を襲う悪人だと思ってるぞ……」
 荒野に持ち上げられたテンが、空中でじたばたと手足を振りだしたので、荒野はテンの体を地面に降ろす。
 地に足が着いたテンは、だっ、と玉木とノリのほうに駆け出しながら、
「どんな事情があろうが、こうなったら、もう同じだよ!
 ガク、一旦飛び出していったら、ボクたちでもなかなか止められないんだから!」
 捨てぜりふのように荒野と楓に向かって声をかけた。
『……よりによって……最初に才賀を追って飛び出していったやつが、そういう性格なのか……』
 荒野は、内心で密かに嘆息する。
 一度頭に来たら、理性を、失い疲れ果てて動かなくなるまで暴れ回る……という気質の持ち主が、二宮の中に、時たま、いる。
『……まあ、そっちは後で考えることにして……』
「……楓、玉木のことは、とりあえず、棚上げにしておけ……。
 こいつらの話しだと、ガクはバーサーカー・タイプの二宮に近いそうだ……。
 大げさな話しになる前に、止めなけりゃならない……」
 楓には、それで通じる。
 不承不承……という表情をありありと見せながらも、楓はなんとか頷いた。
「……さて、玉木……。
 さっきもいったが、実をいうと、今回の件は、おれもお前のやりすぎだと思っている……。だから、お前のことは、かばうつもりはない。逆に、お前らを守ろうとする三人のことも、邪魔だてするつもりはない……」
 荒野は、玉木に向かってそう声をかける。実際には、そばにいる楓、ノリ、テンに、自分の思惑を言い聞かせている。
「……こいつらが暴れるのは、こいつらの勝手だ。
 ただ、おれのほうにも都合というものがある……目立って貰っては、困る。
 だから、『これ以上は、人目につくような真似はしない』と約束するのなら、好きにやらせておくつもりだ。
 才賀や楓にも、三人にも、だ。
 玉木は……そうだな……お前、一旦家に帰っておとなしくしていた方がいいぞ。情勢が落ち着くまで。実家のうお玉、すぐそこだろ?」
 孫子に、狙撃される可能性は、まだ残っていた。
「……一旦家に帰るのはいいけど……」
 雰囲気で、意外にシリアスな話しである、ということを理解したのか、玉木も真剣な顔で頷いた。
「……落ち着いたら、一体なにが起きているのか、ちゃんと説明してよね……」
 そう、付け加えるのを忘れなかったが。
「それから……お前ら……これ、玉木が作ったもんだ……」
 荒野はポケットから取り出した例のけばけばしい「号外」を、玉木の目の前で、ノリとガクに手渡した。
 玉木は露骨に、視線を宙に泳がせる。
「えー! ……なに……これ?」
「え? えええ?」
「ボクたち、楓おねーちゃんとあのおにーちゃんの子供ってことにされてるしっ!」
 荒野が提示した実物をみて、ノリとテンは、ようやく「何故玉木が狙われているのか」ということを理解した。玉木の方にふりかえり、ジト目で顔を睨む。玉木は、二人の視線から目を反らし、わざとらしく口笛を吹き始めた。
「……玉木さん……」
 ゆらり、と、楓が玉木に近づく。
「……わたし……三人の子持ちですか……」
 目が、据わっていた。
 楓の形相をひと目見た玉木は、「ひっ!」と小さな悲鳴を上げて、三歩ほど後ずさる。
「……だから、それは後にしろって……」
 荒野は、楓の肩に手を置いて、楓の動きを抑制した。
「……楓ねーちゃんが怒るのはわかったけど……」
 テンが、本当に不思議そうな顔をして、みんなを見渡して、尋ねた。
「才賀ねーちゃんは……なんで、これで、怒るの?」
「……テンは鈍いなぁ……」
 荒野や楓が答える前に、ノリがテンの耳元に囁く。
「……昨日一晩泊まって解らなかったか? 楓ねーちゃんも才賀ねーちゃんも、あの絵描きさんにらぶらぶなのっ!」
「え? 嘘! 本当に!」
「はい。漫才は、そこまで!」
 荒野は、パンパンと手を打ち合わせた。
「とりあえず、玉木をうお玉に送っていったら……ガクと才賀を一端止めて……その後は、まあ、人知れず仲良く喧嘩でもなんでもしてくれ……おれとか茅とか周りの堅気の衆に迷惑かけない限り、止めやしねーから……」
 この時点で荒野は、これで大方の問題は片づいた……と、思っていた。
 しかしそれは、甘い見通しだった。

「……おじさん、これ、箱ごと貰う。おつり、いらない!」
 一人で飛び出していったガクは、孫子の狙撃のいい的になるばかりだった。何発かのゴム弾を棍ではたき落とし、狙撃地点を確定すると一端商店街のアーケードの中に戻る。
 そこで、たまたま目に入ったスポーツ用品店に入り、素早く目当ての物を探し出し、店員の対応を待たずに何枚かの紙幣を商品のあった場所に置いて外に飛び出した。
『……こっちも、飛び道具使うもんねー……』
 走りながら、今買ったばかりの、ゴルフボールの一ダース入り箱を開け、一つだけ手元に残し、それ以外の中身を、パーカーの中に詰め込む。ベルトを抜き、それを二つ折りにしたものをさらに半分におり、その中央部にゴルフボールを置く。
 そして、素早く跳躍して、アーケードの上に出た。
 途端に、孫子の狙撃が再開される。反撃を予測してか、先ほどの狙撃地点からは、移動していた。
『……そこ!』
 ガクは、ノリほど目も耳もよくない。しかし、飛来するライフル弾の音を聞き、どこから発射されたのかを瞬時に判断するくらいは、できた。ましてや、今回の場合、だいたいの方向くらいは前もって予測がついている。
 だから……。
 孫子のライフルが打ち出した弾丸が届く前に、ガクは、即席のスリングでゴルフボールを孫子に向けて、打ち出した。
 今までの経験から考えても、標的が一キロにいれば命中させる自信もあったし、命中すれば標的にシャレにならないダメージを与える筈の速度で、ガクが放ったゴルフボールは、真っ直ぐに孫子のほうに飛んでいく。

[つづき]
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