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彼女はくノ一! 第五話 (12)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(12)

 才賀孫子は駅から少し離れた場所にあるマンションの非常階段にいた。
 玉木への狙撃を阻止した三人うち、一人が、すでに六百メートルくらいの距離にまで近づいている。
 その子への何度目か狙撃を行い、すぐに場所を移そうとした時だ。
 孫子はすぐに移動しようとした。狙撃する場所がすでに知られている場合、反撃を裂けるために一発撃つ毎に移動を繰り返すのが、狙撃戦のセオリーだった。

 今までの、その子への狙撃は、弾道からいえば命中しているはずだった。が、その子には、目に見える形でダメージを受けた様子はみられない。命中しても平気なのか、それとも全ての弾丸をたたき落としているのか……。
 その子は、一旦は商店街のアーケードの下に潜り込む、視界から消えたが、またすぐにアーケードの天蓋の上に姿を現し、まっすぐにこっちのほうに走ってくる。
 ライフルを構えた恰好を解こうとすると、スコープの中に、ふと、異変を感じた。なにか丸い塊が、もの凄い勢いでこっちに飛んでくる。
『……まさか……』
 孫子は、反射的に身を起こし、ライフルの銃身を置いていたコンクリートの手すりの中に身を隠す。その動作とほぼ同時に、外から飛び込んで来た「何か」がライフルのスコープに、凄い勢いで激突した。その「何か」は、スコープをひしゃげさせ、ライフルの銃身からもぎ取る。
 それだけでは飽きたらず、壁や階段、それに孫子が遮蔽物にしているコンクリート製の手すりなど間を忙しく跳ね回る。
『……なにか、弾性のあるものが……投げ込まれた?』
 五百メートル以上の距離を置いて、なおかつこれだけの跳ね回るだけの運動量を残している、となると……十分に脅威だった。
 孫子は、急いでライフルと使い物にならなくなったスコープをゴルフバックに収容する。そのさなかに、敵の反撃の第二弾が来た。
「それ」は、第一弾と同じように、いや、第一弾よりも勢いを増して、非常階段の中を跳ね回る。
 壁を背にしてゴルフバッグで自分の身をかばいながら階段に座り込み、「跳弾」から身を守りながら、孫子は、敵がなにで反撃してきたのか、その武器の正体を、視認する。
 孫子の視力は、なんの変哲もないゴルフボールを捕らえていた。
 たかがゴルフボール、といっても、これだけ狭い、空間で、これだけの勢いで跳ね回っているとなると……十分な脅威といえた……。少なくとも孫子は、しばらく身動きが取れなくなった。
 そのボールの動きが鈍くなった頃、もう一つのボールが投げ込まれる。

『……あと、十発……』
 ガクは、民家の屋根を伝い走りながら、孫子が潜伏している位置まで、あと三百メートルほどにまで迫っていた。三百メートル、とはいっても、ガクの足を考慮すれば、すぐそこといってもいい。
 ゴルフボール二発を投げ込む事で、孫子の動きはある程度封じることができたはずだった。なにより、初弾で運良くスコープを潰せたのが、大きい。
 遠距離からの精密射撃を行えない相手と、この距離で「撃ち合い」になるのなら……負ける気はしなかった。
『……これで、詰み……かな?』
 ガクは、そう思った。
 ガクは……楓や荒野ならともかく、孫子相手なら、接近戦で負ける気はしなかった。

『……相手は精密射撃を必要とせず、こちらはスコープを壊された……』
 孫子は考えた。
 ただし、あまり悲観的にはなっていない。
『……なら……あれを試してみる、いい機会ね……』
 幸い、相手は猪突猛進しか能のない、獣並の体力と知性の持ち主であり……なにより、こちらは風上に位置していた。
 孫子は、 シルヴィ・姉崎から渡された香水の瓶を取り出した。もちろん、中身は香水ではない。無味無臭、揮発性の液体だった。

『……いた!』
 ガクの視界にライフルを抱えた孫子が飛び込んできた時、基本的に他人を疑うことを知らないガクは、特にそれに不審を覚えなかった。
 孫子は、わずか百メートル程度の近距離で、ライフルを越しだめに乱射にしながら、棒立ちになっている。
 ガクは、孫子のライフルから発射された弾丸を片っ端から棍でたたき落としながら、孫子のほうに突進していった。この程度の距離なら、スリングを使うよりは、接近して仕留める方が、早い。
 もう、標的の孫子は、すぐ、そこ……。
『……あれ?』
 と、思ったところで、がくん、と膝が落ちた。
 ガクは運動と狩りの高揚で興奮していたため、弾丸をたたき落とした時の感触が、今までとは違っていたことに気づかなかった。
 足が思うように動かなくても、ガクの体は、慣性の法則に従って前方に飛んでいく。ちょいとした屋根の段差に足を取られ、ガクの体がゴロゴロと転がる。
『……あれ? あれ?』
 意識は、明瞭だ。
 しかし、体が……足も、その他の部分も……明瞭な意識とは裏腹に、とても重くて……動いて、くれない……。
 四肢が鉛に変わったように感じながら……ガクは、民家のトタン屋根の上をごろごろと転がり……そのまま縁から、落下した。

「まずは、一人目……」
 孫子は、道ばたに転がってすぴょすぴょ寝息を立て始めたガクを見下ろしていた。
 正面から向かっても適わない相手には、絡め手で……というシルヴィの教えと指摘は、まことに正しい。ことに……こういう、単純な相手なら、単なる即効性の薬物も、効果は絶大だった。
 孫子は、その薬を入手した後、「炸薬で打ち出す時の衝撃には絶えられるが、着弾時には破砕する」弾頭用のカプセルを実家に送るように申しつけておいた。シルヴィの薬ほど即効性のある代物は、表向き現代にはないことになっているが、才賀衆も似たような薬品を使用することもあった。
 揮発性の薬物を入れたアンプル弾を打ち込む……などという手は……集団相手に無差別に使用するか……こういう単純な……「勇猛果敢な愚者」相手にしか、使いようがない手ではあるが。大抵の人間は、銃口を向ければ、逃げるか遮蔽物に隠れる。
 むざむざ銃口に突進してくるような特殊な相手にだけ、有効な手段だった。
 孫子は携帯電話を取り出した。
「……あ。加納? 一応報告しておきますわ。
 今、一人目、仕留めたわよ……場所は……」

 数分後、荒野、楓、テン、ノリの四人が孫子が示した場所に向かってみると……額に油性マジックで「バカ!」と大書きされ、それ以外にも顔中に落書きをされたガクが、道ばたで平和に寝息を立てていた。

[つづき]
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