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髪長姫は最後に笑う。第五章(58)

第五章 「友と敵」(58)

「あ、テン? どうした。もう落ち着いたか? ノリは、回収できた?」
 荒野は携帯電話を取り出し、登録してある楓の携帯の番号にかける。楓の携帯は、今、テンが持っている筈だった。
「なに? そこに玉木が来ているって? なんで……って、まあ、いいけど……ちょっと、玉木とかわって。
 あ。玉木? うん、加納だけど……うん。うん。
 そうか……音、か……才賀の銃は消音だけど、着弾音までは消せないもんなぁ……あ。いや。どのみち玉木には説明するつもりだったから。うん。うん。ま、概ねそちらの推測通りなんだけど、詳しいことは、またの機会にな……今は……」
 荒野は、足元でぐったり座り込んでいる楓と孫子を見下ろした。
「……見境なく暴れ回ってくださった大きなお子様約二名、お持ち帰りしなけりゃならないから……。うん。とりあえず、またテンとかわってくれるか?
 おお。テン、どうだ、そっちは。ノリはなんとか動けそうか?
 そうか。お前が肩かせば、家まではなんとかなるか……じゃあ、玉木んところにいるガクは? え? 有働君もいるの? まだ寝てたら、有働君が背負っていってくれるって? うん。うん。まあ、悪いから、ちょっと帰りに玉木の家に寄って、出来るだけガク、たたき起こしてみてくれ。それでも起きないようだったら、ちゃんと有働君にお礼いうんだぞ……うん。うん。
 じゃあ、一端切るから。なんかあったら、連絡くれ。うん……」

「……さて、お前ら……」
 通話を切った後、荒野は足元に蹲る二人の「大きなお子様」たちを軽く睨んだ。
「……なにか、いうことはあるか?」

「大きなお子様」たち約二名……楓と孫子は、肩で息をしているばかりで、まだしばらくはおしゃべりをする余裕もないようだった。
 荒野は大きくため息をつくと、
「……羽生さんにしがみつくくらいはできるな?」
 と確認しながら孫子を羽生譲のスーパーカブの後部座席に座らせ、自分は楓を背負い、半ば壊れかけている孫子のライフルを片手に持つ。
「それじゃあ、羽生さん。才賀のやつ、お願いします」
「ういうい。それよりもカッコいいほうのこーや君、そっちのほうこそ大丈夫か?」
「これくらい、余裕っす。羽生さんが制限速度守ってたら、おれのほうが早く着きますよ」
 荒野がそう請け合うと、羽生は「ほー! たいしたもんだ……」と素直に感嘆した。
 そしで、スーパーカブのスターターをキックし、中州の土手の上を橋のほうへ向かって走り出す。
 その背中を見送ってから、荒野は、楓を背負ったまま、姿を消した。

 狩野香也と樋口明日樹が部活を終え、いつもの時間に帰宅しようとすると、玄関でやはり下校時刻ギリギリまで図書室で粘っていた加納茅とばったり出くわした。
 ごく自然に一緒に帰ろう、ということになる。
「……最近は、トレーニング法とかスポーツ医学の本を読んでいるの……」
 とかいう茅の話しを聞きながら歩いていると、商店街の近くで目立つ一団と合流した。
 玉木珠美と有働勇作……という組み合わせは見慣れたものだったが、それに、三人の子供たちが加わっている。しかも、そのうち一人は有働に背負われて寝息をたてていた。
「……どうしたの、玉木たち……」
 樋口明日樹が三人を代表して尋ねると、
「詳しい事情は、こっちにもよくわからないんだけどね……」
 玉木は明日樹に、困った顔をしてみせる。
 なにかにつけて歯切れのいい物言いをする玉木がこういう表情をすること自体、かなり珍しい。
「……どっちかというと、この子たちのほうが詳しい事情、知っていると思うな……」
 と、玉木はノリとテンを指さした。
 玉木に話しを振られたノリとテンは、
「えーっ……と、ねえ……最初のきっかけは、玉木のおねーちゃんで……」
「孫子おねーちゃんと楓おねーちゃんが怒っちゃって、玉木おねーちゃん襲撃して……」
「二人が玉木おねーちゃん、襲うのを、ボクら勘違いして、いろいろあって……」
「そしたら、みーんな、ぼろぼろに疲れて……やっぱ、喧嘩って、やってもいいこと、一つもないよね!」
 ノリとテンはそういって顔を見合わせ、「わははははは」と無邪気に笑い声を上げた。

 樋口明日樹は、大まかな部分はわかったような気がしたが、細かい部分はどうにも理解が及ばなかった。
 狩野香也は、かなり細かい部分まで想像できるような気がしたが、あまり克明に想像力を駆使するといろいろと怖い想像になってしまいそうなので、深く考えないことにした。
 加納茅は、前後の状況からかなり細密に今日の出来事を想像できたが、なにもいわなかった。

「……そうそう。うちのウドー一号君がな、今日、ある場所で、こんなもんをいっぱい拾ったんだが……」
 と、玉木は、バッグの中から大きめの透明なビニール袋をいくつか取りだして、中身を見せてくれた。
 見覚えのある、楓の六角と手裏剣が、数十個。
 見覚えのない、十字型に平たくひしゃげたゴムも多数。
 破裂した……としか思えない、元はゴルフボールだったらしい物体幾つか。
「……んー……」
 香也は、唸りながら、表情が変わらないように気をつけた。
「……詳しいことは、加納君に、聞いて……」
 香也には、そういうのが、精一杯だった。
「大丈夫大丈夫」
 玉木はけらけらと笑った。
「そのへんの説明は、後でカッコいいほうのこーや君にじっくりとしてもらう予定だから。もうアポ、取っているもんね……」

 全員で香也の家につくと、ちょうど羽生譲がスーパーカブを庭に入れているところだった。
 なぜか汚れてぐったりと生気のない楓と孫子、それにいつも通りの荒野も、玄関の前に集合している。羽生譲が玄関前に戻ってきたところで、戸を開き、全員で「ただいまー!」と唱和した。

 出迎えた真理は、一瞬にして顔を引きつらせた後、女性陣全員に即刻風呂に直行するよう、命じた。

[つづき]
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