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髪長姫は最後に笑う。第五章(59)

第五章 「友と敵」(59)

「……あれ……まだあった筈……だけど……」
 少なくとも、捨てた憶えは、なかった。
 自室に入った羽生譲は、パソコンのLANケーブルなどをかき分けて押し入れの荷物を片っ端から出し始めた。
 古着などを入れっぱなしにしている段ボールを開け、ごそごそとなにかを探している。
『……楓ちゃん……あの制服で明日、学校にいくのはきつかろう……』
 そんなことを、羽生譲は思っていた。
『……喧嘩も、たまにはいいだろうけど……』
 ……なにも、制服のままで暴れることはないよなぁ……。

 結局、部屋中を古着だらけにしながらも、楓たちが風呂から上がるまでには、目的のものを取り出すことができた。
 昔、羽生譲が、楓たちと同じ学校に通っていた時に着用していた、制服。それに、鞄。
 楓の制服はどうしようもないほどに汚れていたし、鞄は、いったいどうやったら短時間でここまでボロボロにすることができるのか、疑問に思うほどの惨状だった。制服のほうに関しては、クリーニングにでも出せばきれいになるだろうが、鞄のほうは……。
『……まだ、新品だったのに……』

 羽生が押し入れの奥から発掘してきたブツを風呂上がりの楓に手渡すと、楓はしきりに恐縮して、何度も何度も羽生に頭を下げた。
 ひとしきり楓に頭を下げられてから、羽生は、ちょいちょいと楓の目の届かない所まで、孫子を手招きする。
「……鞄、あの状態だろ?
 教科書やノートはともかく、ほかの……例えば、シャーペンの芯とかは、まず全滅だと思う……」
 と、孫子に耳打ちする。
 孫子は、それら文具関係に関しては、すぐに新しいものを楓に渡す、と断言した。

「……他のものは、実はよく分からないんですけど……」
 それから居間に入ると、玉木のツレだという有働という大柄な少年が、炬燵の上に重そうなビニール袋を置いて、荒野に顔を向けて静かな口調でなにかいっていた。
 手に、なにやら細長い金属片を持っている。
「……例えばこれなんかは……先のほうに、刃がついています。
 あちこちに散在してたし、最初は工作機械の部品かなんかがぶちまけられただけなのかな、って思いましたが……幾つかは、コンクリートの壁とか塀、それに、道路のアスファルトに、突き刺さっていたんですよね……。
 で、自分でも一つとって、実際に、投げてみたら……実に、投げやすいバランスなんです……。
 はじめて手にするぼくが、こう、ダーツ投げの要領で投げても……だいたい、狙った所に飛ぶんです。
 おまけに、ダーツの矢とは、比較にならないくらいに、重い……」
 ……これ、手で投げることを前提にした、武器、でしょ?
 と、かなり真面目な顔をして、有働は荒野に詰め寄っていた。
「……難しい話しは、後々……」
 その時、タイミング良く玉木が居間に入ってくる。
「晩ご飯できたから、炬燵の上、片づけて……。
 ウドー君、その辺のことに関しては、後でカッコいいほうのこーや君が、ちゃんと説明してくれるっていうから……まずは、お食事にしよう……」
 そんなことをいっている間に、香也も帰宅し、先に風呂に入った連中も髪を乾かして居間に集まってくる。

 その後の食事は、いつもと同じような感じだった。
 人数が増えた分、騒がしさもいつもより増したことを除いては。

 食事の後、
「……うちじゃあちょっと狭いけど……」
 といいながらも、荒野は、楓、孫子、ガク、テン、ノリの三人娘、それに玉木と有働を、自分たちのマンションに誘った。勿論、茅もついていく。
 狩野家からマンションに移動する途中で、
「……先生、いるかな……」
 といいながら、電話を取り出して三島を呼ぶ。

 こうして、関係者と事情を説明する必要ができた玉木と有働が荒野と茅のマンションに集合した。茅がお茶をいれる準備をしている間に、三島百合香も自室から降りてきた。
「……玉木と有働君は、いろいろと聞きたいことが山積みになっているだろうけど、まずは、聞いてもらいたい……」
 この人数が入るには少し狭すぎるリビングに全員が揃い、ティーカップが人数分回ると、荒野は、そう口火を切った。
「まず……今日の騒動の元凶は、玉木と放送部の号外にあると思う。
 それで、まずは玉木に、迷惑をかけた楓と孫子、それにこの三人に対して、謝罪して欲しい。それについて……玉木にとって相応のペナルティになり、無駄に疲れることをした連中に利益になる方法、というのを……いろいろ、考えたんだけど……。
 玉木。
 明日あたり、お前がこの五人にケーキを奢る、というのはどうだ? マンドゴドラで、食い放題。それくらいしていいくらい、この五人、ボロボロになってたぞ……」
 てっきり、荒野たちが抱える秘密……とやらについて話して貰えるもの……と決め込んでいた玉木は、思わぬ荒野の発言に愕然とし、反射的に反論しかけた。が、……あたりを見回して、即座に思いとどまる。
 三人娘は目を輝かせ、期待の籠もったまなざしを玉木に向けているし、楓と孫子は、未だ敵意の衰えぬ視線で、玉木の顔をみつめている。
『……いかん……』
 なんとなく、ここで「のー!」とでもいったら……無事では済まないような、そんな予感がひしひしとしてきた……。
 しかたなく、玉木はこくこくと頷く。
 三人娘が「わーい!」と無邪気に喜びの声を上げる。
 この時点で玉木は、三人のケーキの食べっぷりについて、予備知識を持たなかった。
「……マンドゴドラ、今度からカードでの支払いも大丈夫になるんだって……分割払いも、多分、大丈夫だと思う……」
 玉木が頷くのを確認した後、荒野は、そういって意味ありげににやりと笑った。
「……で、後は、玉木たちが知りたがってた、おれたちの正体についてだけど……」
 その後に続いた荒野の説明は、長くて奇妙で、とても信じられないような話しだった。しかし、途中の質問にもよどみなく返答され、また、その場に居合わせた荒野以外の人々も時折補足説明を挟み、三島百合香は、今までに荒野と茅の行状を記録したテキストのハードコピーまで持参してきていた。
 そんなこともあったので、玉木と有働は、荒野たちの話しを信じないわけにはいかなかった。

 その夜、玉木が帰宅する頃には、深夜といっていい時間になっていた。
 有働が、家まで送ってくれた。
「……あんなの、みんなにばらせないよね……」
「……ばらしても、信じてくれる人、いませんよ……」
 帰り道に、そんなことを言い合った。
 二人とも、今夜聞いた説明を他言するつもりはなかった。

[つづき]
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