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髪長姫は最後に笑う。第五章(61)

第五章 「友と敵」(61)

 幸か不幸か、荒野はいざという時のためにいつでも早退できるような仕掛けを用意していた。現在の環境がどのように変化するのか予断を許さない状況があるので、学校に通うようになる前にあらかじめ準備していた仕掛けの一つだ。
 荒野がある番号に電話をかけ、三回コール音を鳴らしてから切る、という行為を三回繰り返す。
 と、三分もしないうちに校内放送で茅と荒野が職員室に呼び出される。
 職員室に向かうと、職員たちがそれなりに神妙な顔で、
「……今、君たちのおじいさんが事故に遭われて、病院にかつぎ込まれたそうだ……」
 と、あらかじめ決められていた設定通りの説明をされる。
 荒野と茅は一旦自分たちの教室に戻り、帰り支度をしてから悠々と校門を出た。
『……こんな変な展開に対応するために準備していた仕掛けじゃないんだがなぁ……』
 そもそもこの仕掛けは、もっと逼迫した状況下を想定して用意していたもので……涼治に架空の急病になったり架空の事故に遭遇したり架空の危篤になって貰うことには、なんの疚しさも感じなかったが……このような仕掛けはあまり頻繁に使える性質のものでもないので……こういうことでこの仕掛けを発動しなければならないこと対するある種の馬鹿馬鹿しさというものは、荒野も感じては、いる。
『……ようするに、子供一人を説得するだけのことだもんなぁ……』
 説得するだけのこと……ではあるけれども、今日の放課後までになんとか言いくるめなければならない、という緊急性だけは、あった。
 マンションへの帰り道で、荒野は茅に事情を説明し、協力を求めた。

 まだ授業が終わってない時間帯に制服姿でうろつくのも賢い選択とはいえないので、荒野と茅は一旦マンションに帰って着替えることにする。
「……とりあえず、お隣りにってみるか?」
「昨日の昼間は、真理と買い物にいっていた、といっていたの……」
 茅も、今日の三人の行き先は聞いていないらしい。そもそも、いつもと同じように、今日も三人一緒に行動している、という保証もない。
 ただ、他に宛もないので、とりあえず同居している真理と羽生の携帯にかけてみることにする。羽生はバイト中なのか留守録に切り替わり、買い物中の真理はすぐに電話に出たが、今日は三人とは別行動だという。
 ほかに手がかりもなかったので、まずはお隣りの狩野家を訪ねてみる。まず玄関で声をかけてみて、返答がなかったので、念のため、庭にいって母屋の気配を伺ってみる。
 たしかに、完全に、誰もいないようだった。
「……さて、どうするか……」
 荒野が、呟く。
 他に、やつらがいきそうなところ、というと……。

 茅を一緒に連れ回すとかえって移動速度が落ちるので、連絡要員としてマンションに残って貰うことにし、荒野は三人が興味を示しそうな場所に片っ端から捜して廻ることにする。
 なにぶん、午後の授業が終わるまで、もういくらもない。時間的にも余裕がないので、荒野は、気配を絶って全速力で付近をかけずり廻った。
 ……公園、商店街、ファーストフードなどの飲食店、ゲームセンター、ショッピングセンター……どこを捜しても三人の姿は見つからず、時間だけが過ぎ去っていく……。
『……やつら、どこにほっつき歩いているんだ?』
 時間が経過するにつれ、荒野は焦りはじめた。
『こうなると……やつらにも携帯、持たせておくべきかなぁ……』

「……ねぇ……勝手に入っちゃっていいのかなぁ……」
「大丈夫だよ。学校って子供が来るための場所だっていってたもん」
「それに、気配を絶っていれば、かのうこうや以外には、見つかる心配ないし……」
 荒野が三人の姿を捜して町中を走り回っている頃、三人は学校に来ていた。
 昨日、一日で家の付近のめぼしい遊び場所は大体探索し終わっていた。
 もともと、小さな町でもあったし、昼間、他のみんなが学校に行っている時間に、真理に連れられて当座必要なものを買い揃えながら、大体の場所へは案内して貰っている。
 それでも午前中は真理を手伝って家の掃除などの家事の手伝いをしていたが、昼食が済んで真理が買い物にいくと、途端に手持ち不沙汰になった。
 車で出かけていった真理を見送ってから、「さて、今日は何をしようか」、という話しになった時、誰からともなく、「春から行くという、学校って場所に下見にいってみないか?」ということになった。

 そもそも、これほど多くの人間がひしめいている環境でさえ、島育ちの三人には十分に驚異なのに……「学校」という場所には、自分たちと同じ年頃の人間だけが数十人とか数百人(!)、同じ制服を着て押し込められているらしい……。
 その「学校」という場所について、概要は知らされていたものの、具体的な知識をなんら持っていなかった三人は、「それでは、そっと見にいってみよう」という事で意見が一致した。今から行けば、その「生徒たち」が一カ所に集まっていったいなにをしているのか、その秘密も実地に見聞できる筈……だった。

 学校内に忍び込むと、念のため、三人は気配を絶ってあたりをうろつきはじめる。
 昼食を終えてからすぐに学校に直行したため、三人が学校内に侵入したのは、昼休みもそろそろ終わろうかという頃合いだった。
 生徒たちはグラウンドにでて球技に興じていたり、教室内で雑談を交わしていたりする。全体に、雑然とした雰囲気だった。
 しばらく学校内をうろつき廻った三人は、
「学校とは……同じ年頃の人間を集めて、みんなで仲良く遊ぶための場所である」
 と認識した。
 春になれば、自分たちも、この場にいる生徒たちと同じ制服を着て、この遊びの輪の中に入れるんだ……と、思うと、悪い気はしなかった。
 そのうち、校内放送が「かのうこうや」と「かのうかや」を「しょくいんしつ」に呼び出した。
「しょくいんしつ」というのは、多分、「職員室」であり、察するところ、大人の職員が集まるところだろう……と察した三人は、それらしい「室」を捜して校内をうろつき廻った。
 はじめに目星をつけた、作業着姿の初老の男性が湯呑みを傾けて待機していた部屋は、部屋の入り口に「用務員室」というプレートがかかっていたので、「どうやら『しょくいんしつ』とは違うらしい」ということになった。しかし、三人には「職員室」の「職員」と「用務員室」の「用務員」との明確な差異が、よく理解できない。
 しかし、こんな場所に「かのうこうや」や「かのうかや」を呼び出すような用事は思いつかなかったので、「しょくいんしつ」とは、どこか別に場所だろう……ということで、三人の意見は一致した。

 さらにしばらく校内をうろついていると、ほどなくして「職員室」が見つかった。「用務員室」と同じ様なプレートが入り口にかかっていたので、まず間違いはない。
 放送があってから職員室を探し当てるまで、少し時間経過していたので、「かのうこうや」と「かのうかや」とは、顔を合わせずに済んだ。
「職員室」の中には、スーツ姿だったりジャージ姿だったりするものの、大勢の大人がいて、たしかにたった一人しかいなかった「用務員室」とは全然雰囲気が違う。
 学校に勤める大人は、単数だと「用務員」、複数だと「職員」と呼称する奇妙な習慣があるらしい……と、三人は見当をつけた。
 やがて、午後の授業開始を告げる予鈴がなり、「職員室」内にいた「職員」たちは、銘々教科書や出席簿、プリントの束などを抱えて、受け持っている授業のある教室へと散っていった。

 三人は小声で相談した結果、若い女性の職員の後を着いていくことにする。その若い女性の職員の体に、かすかに狩野荒野と松島楓、それに、加納茅の体臭が移っていたのを関知したからだ。
『……珍しい、お客さんですねぇ……』
 そうした三人の様子を、目を細めて見守っていた人間が、職員室内に一人だけ、いた。
 二宮浩司、こと、二宮荒神である。
 もちろん、荒神は三人の存在を少し前から関知していた。しかし、学校にいる間は、荒神はあくまで浩司であり、荒神ならともかく二宮浩司という若い教師が三人の存在に気づく可能性はまずない……ので、二宮浩司になりきっている荒神は、三人の存在に気づいたようなそぶりをまるでみせなかった。
 そして、その日の五時限目、二宮浩司はたまたま受け持っている授業がなかった。
『……空き時間だけ、一時的に荒神に戻るのもアリですかねぇ……』
 浩司でもある荒神はそう考える。
 そして、三人にも気づかれないように気配を絶って、気配を絶っている三人の後をつけはじめた。
 二宮浩司ではない二宮荒神は、この手の突発的なイベントが、大好きだった。

[つづき]
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