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彼女はくノ一! 第五話 (20)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(20)

 基本的に、狩野家の食卓は賑やだ。香也はぼーっとしているし、真理もおっとりしているところがあるから静まりかえってもよさそうなものだが、普段から口数の多い羽生譲がいるのでバランスが取れている。これで、楓と孫子が加わると、羽生が降った話題にそれぞれ相反する反応を示し、二人でえんえんと議論をし始める、なんてこともしょっちゅうあって、少なくともこの二人が来てからこっち、食事の席で静まりかえった、ということは、絶えてなかった。
 それが、この日の朝食は、しーんとと静まりかえってしまった。
 いや。
 厳密にいうと、香也、楓、孫子の三人に羽生譲がきまずーい様子で静まりかえっていて、真理は至って普段通り、三人娘は仲間内でわいのわいのとおかずの取り合いをしていて実に賑やかだったりするのだが……。
 香也の左右に座っている楓や孫子が、そことはない緊張感を漂わせて黙々と箸を使っている関係で……香也の心情風景的には、否応なく、ひじょーに気詰まりな静寂に包まれているような気分になった。

『……胃、痛くなりそう……』
 香也は、登校前からげっそりとした気分になった。
 起き抜けに身に覚えのない女性に抱きつかれていることに気づき、その後、鉄砲を突きつけられたり、自分はなにも疚しいことはしていないと口泡飛ばしながらしどろもどろに説明したり……といった慌ただしい時間を過ごした後の登校だから、多少、気分がすぐれないことがあっても、無理はない……。
「また、なんかあった?」
 と、加納荒野が尋ねたが、香也は力無くゆっくりと首を横にふった。
 こんな事は……一緒に登校するみんなの前で、おおやけに相談はできない。
 楓や孫子の前である、ということもあったが……それ以外に、樋口明日樹などの耳には、絶対に、入れられなかった。
 これ以上、香也を複雑なものにしたくなかった。
 結局、香也は、今にも泣きそうな顔をして首を横に振った。
「……昼休み、美術室……」
 その態度だけで、荒野はなにやら察するところがあったのか、香也にだけ聞こえるような小声で、
「……昼休み、美術室……」
 と呟いた。
 今までのことがあるから、荒野なりに香也の身を案じ、相談に乗ってくれようとしているらしい……。
 他に相談相手のあてがあるわけでもない香也は、荒野の心遣いが心底ありがたかった。

 午前の授業中、香也はいつもにも増してぼーっとしていた。
 香也はもともと授業を熱心に受けるタイプではない。が、そのいつもと比較しても教師たちの言っていることが頭に入らず、耳を素通りしていって、あっという間に四時限分の時間が経過していく。
 朝食の時と同じように味がしない給食を機械的に口に運んで平らげ、足早にならないように気をつけながら、トイレにでもいくような振りをして、教室を出て行く。
 目指すは、美術室。
 出て行く時にちらりと確認したが、同じクラスの楓は香也の挙動に特に不信感を持った様子はなく、牧野と矢島となにやらおしゃべりに興じていた。

 美術室に到着すると、先に来ていた荒野に腕を引っ張られるようにして、美術準備室に連れ込まれる。昼休みの美術室に人気はなかったが、確かに狭い準備室のほうが密談には向いていたし、荒野は外見的に目立つ生徒であり、香也も周囲の交友関係から最近の校内では注目度がかなり上昇している。
「二人きりで、昼休みに、美術室にいた」
 ということを目撃され、噂されたら、それはそれで面倒なことになりそうな気もした。
 楓と仲が良い、香也と同じクラスの牧野や矢島が好むような同性同士の関係、ということではなくて、玉木とかに嗅ぎつけられ、玉木経由で孫子や楓に伝わることを、荒野は警戒したのだろう……と、香也は思った。
 荒野に即されるまま、香也は、今朝の出来事を、ぽつりぽつりと語り出した。

 一通りの話しを聞き終わった荒野は、深々とため息をついた後、
「事情は、よく理解できた。放置すればこっちにとっても良くないことになりそうなので、しかるべき対処をさせてもらう」
 と明言し、香也を先に帰らせた。

 香也が自分の教室に帰らないうちに、校内放送で「加納荒野君」と「加納茅」さんが呼び出された。
 香也が教室に入った時、すでに茅の姿は教室内になく、しばらくして帰ってきた茅は、「早退するの」とだけ告げて、テキパキと帰り支度をし始めた。
 茅が教室から出て行ってすぐに、昼休みの終了五分前を告げるチャイムが鳴った。
 廊下や校庭に遊びに出ていた生徒たちがばたばたと教室に入りはじめ、あたりがにわかに騒がしくなった。

 五時限目は、担任の岩崎硝子先生が担当する英語の授業だった。
 しかし、その授業が始まる少し前から、松島楓は奇妙な胸騒ぎと異様な気配を感じていて、そんなものを感じてしまう自分の感性に対して疑問を持った。
 楓の「気配を読む力」に関しては、加納荒野でさえ舌を巻く。つまり、楓のその手の鋭敏さ、ということについては、荒野の折り紙付きであるわけで……その楓が、「不穏で危険な空気」が近づいてくることを、感じ取っていた……。
 ここは、一般人が通うごく普通の学校であり……楓に警戒心を起こされるような人間は、数えるほどしかいない。
「脅威度」を基準にして名前を挙げていけば、まずダントツで荒神、次ぎに荒野、孫子、と続き……かなり下がって、シルヴィ・姉が入る……。
 と、いったところだろうか?
 それ以外の人間は、楓にとっては「脅威」とは、感じられなかった。
 しかし……教室のすぐ外に近づいてくる気配は、楓のよく知っている「校内最大の脅威」が放つ気配に、よく似ている……というのは、一体どうしたことだろうか?
 教師としての二宮浩司は、一年の授業は受け持っていない。
 また、学校内では二宮浩司になりきっている二宮荒神は、用もないのに一年生の教室付近に出没する、などという素人臭い真似をする筈もない……。
 にも関わらず……今現在、教室に近づいてくるのは、間違えようもない「荒神」の気配だった……。
 楓が、人知れず緊張して自分の席に座っていると……。
 いつものように、出席簿と教科書を抱えた岩崎先生が教室内に入ってきた。
 ほぼ同時に、岩崎先生以外の、この場にいてはならない筈の人物が立て続けに四人も教室に入ってきたので、楓はその場で反射的に立ち上がり、思わず驚愕の声を発しそうになり……周囲の生徒たちを意識して、あやうく自制した。
 楓の近隣の席に座る生徒たちだけが、号令の前に立ち上がった楓を不思議そうに見上げたが、すぐに日直が「きりーつ……」と声を出したので、一足先に立ち上がった楓は、すぐに他の生徒たちに紛れた。
『……な、なんで……あの子たちが教室に……』
 岩崎先生が入ってくるのと前後して教室に乱入してきたのは、荒神と、テン、ガク、ノリの四人だった。四人はほぼ完全に気配を絶っていたし、入ってくるなり教室の最後部に素早く移動したので、彼らの乱入に気づいたのは、楓だけだった。

[つづき]
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