第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(21)
今のところ、四人の乱入者に気づいているのは楓だけで、最初のうちは大人しくしていた四人も、そのことを知っているせいか、授業が進むにつれ、段々と図に乗ってきた。
一族の関係者の間で「気配を絶つ」といわれる技は、本来、教室のような「区切られ、密閉され、多人数の視覚を誤魔化す」のには不向きな技、だった筈だが……「最強」の荒神はともかく、他の三人までもが、楓以外の生徒たちに存在を気づかれないまま、縦横に教室中を飛び跳ねている様子を目の当たりにし……楓は、かなり釈然としないものを感じた。
『……普通にうるさくしていれば、授業妨害で叱って排除できるものを……』
現時点で、彼ら四人の存在に気づいているのは楓だけ……で、あり……そのような状況で楓一人が怒り狂えば、楓のほうが「授業妨害」の烙印を押させるのであった。
つまり、楓一人が我慢すれば、いい。
それで、「なにもなかったこと」としてそのまま平和な日常の時間が経過するだけ……であり、逆に、下手に騒ぎたてれば、楓の方が白眼視される……。
そんな理不尽な状況の中で、楓は、クラス中を駆け回って走り回れるノリ、テン、ガクの三人を、極力意識の外に置くように、勤めた。
三人だけではなく、荒神までもが三人の尻馬に乗って、気配を絶ち、無言のまま、三人と競うようにして、無邪気にはしゃぎだした。
三人はどうやら、無言のまま「バレずにどこまで暴れられるか?」という競技を開始し始めたらしい。
最初のうちは、後ろからそっと生徒の机の上を覗き込み、ノートを読む程度で済んでいたが、そのうち、ずらりと並んだ机の上を飛び跳ねて移動し始め、「床に足をつけない」というルールで、鬼ごっこが始まる。三人ならだけまだしも、スーツ姿の荒神までもが、いつの間にかあ三人に混ざって遊びはじめる。
大の大人が、子供に交ざって遊びのもどよ? とか思うのだが、荒神という人格は、もともとそのような稚気を持つ人だと知っているので、楓もなんとか納得して我慢し続ける。
普段通り、どことなく自信に欠けた様子で授業を進行させている岩崎先生も、授業を受けている生徒たちも、普段通りに授業を受けている。
そんな、いつも通りの教室で、三人組と荒神が、パントマイムのように無言、無音のまま机の上を飛び回り、しかも、その四人の存在に、楓以外のものは全く気づいていない……。
シュールな、光景だった。
楓は、自分の忍耐力を、局限まで試されているような気分に陥った。精神衛生上、非常に、悪い時間だった。
三人と荒神とは、授業が進行するにつれ、楓の顔色が(怒りで)蒼白になっていったことに気づいていたので、授業終了と同時に、競うようにして教室から飛び出ていって、姿を消した。
楓は、授業終了の号令がおわるのと同時に彼らを追いかけようとしたが、ちょうどその時、マナーモードにしてポケットの中に入れっぱなしにしている携帯が震え、メールの着信を告げた。
ディプレイを確認すると、荒野からのメールで、慌てて表示させると、案の定、荒野はあの三人を探しているようだった。
楓は廊下に出て、荒野に電話をかけた。
一応、校則では校内への携帯電話の持ち込みは禁止されている筈だったが、宇今時そんな時代遅れの規則に従う生徒などいる筈もなく、教師たちも「授業中に公然と使用しなければいい」という具合に黙認していた。
廊下には、楓と同じように携帯で通話をしたりメールを打ったりしている生徒の姿が、何人か見えたので、楓は特に目立たなかった。
「……あの三人、ついさっきまで、この教室にいましたぁ!」
荒野が電話に出るのと同時に、開口一番、楓は意気込んで話し始めた。
先ほどの授業中、あの三人にいいように暴れられ、自分自身は手出し出来なかったことが、よほど悔しいらしい。
「加納様! なんであの三人が学校に来ているんですか!」
普段はどちらかというと大人しい印象のある楓が、珍しく大きな声をあげていたので、周囲にいた顔見知りの生徒たちが珍しそうに楓の方を振り返る。
『……学校に……その教室に、いた……だと……』
楓の剣幕に気圧されたのか、しばらくの間を置いて、荒野が低い声で答えはじめた。
『……あの三人がなぜ学校にいたのか……出来れば、本人たちに聞いてみたいね……じっくり……』
「……あ……ああああ、あの……加納、様?」
周囲の注目を集めつつある……ということに気づいた楓は、声を潜める。
電話越しに聞こえる荒野の声も、気のせいか、かなり不機嫌に響いた。
「き、教室に来ていた、と、いっても……大人しく、他の人にみつからないように見学していただけで……。
そ、そりゃあ……岩崎先生や他の人たちのの視線をかいくぐって、ことさらに飛んだり跳ねたりしたから、わたしの心臓的には、すっごぉく、悪かったですけぉ……」
荒神のことは、あえて伏せておいた。
荒野が荒神のこととなると、何故だかムキになる傾向があることに、楓は気づいている。
『楓、命令だ』
荒野は冷酷な声になって楓に命じた。
『あの三人を、一刻も早く引っ捕らえろ。授業を放棄しても構わない。さっきまでそこにいた、ということは、まだ学校付近にたむろしている可能性が高い。
三人全員が無理なら、ガクにだけでもいい。放課後になる前に、会って話しておきたいことがあるんだ。
おれも、すぐにそちらに向かう』
普段の時と楓に「指令」を発する時、荒野の声にみなぎる緊迫感は、まるで違う。
何故荒野が、今の時点で三人を捕獲することにそこまで拘るのか、楓には見当がつかなかったが……楓は、荒野の指令に応じるべく、気配を絶ち、学校内を探索しはじめた。
荒野が指定した場所に急行した楓が人通りの絶えた路地裏に着くと、荒野は先に到着していてた。急いで三人の行方に関して情報交換をする。交換、とはいっても、楓の方がほとんど一方的にしゃべるような感じになったが。
そうこうするうちに、シルヴィ・姉までもがその場に現れたので、楓は驚愕した。シルヴィと荒野が話し始めた内容から察するに、荒野の方からシルヴィに助けを求めたらしい。
荒神とは別の意味合いで、荒野はシルヴィのことを敬遠しているようだったが……それを押して、助けを求めた……ということは、よほど、荒野はせっぱ詰まっているらしい……。
と、考えたところで、楓は、ふとあることに気づいた。
「……あのぉ……加納様……」
楓は片手をあげて、おずおずと荒野のその疑問をぶつけてみる。
「あの三人……放っておいても、あと一時間もすれば、マンドゴドラに現れる筈……だと、思うんですけど……」
昨日の騒動の精算として、大本の原因を作った玉木が、関係者全員にケーキを奢る約束になっていた。
「だから……」
荒野は、弱々しく首を振って楓に思い出させた。
「……その前に、奴らを言い含めて、確実に口止めしておきたいんだ……。
あの玉木が、だな……今朝のことを知ったら、やばいと思わないか?」
楓は、「あっ!」と声をあげた。
荒野に指摘されるまで、そのことに思い至らなかった自分が、いかにも迂闊に思えた。
「なに? どういうこと?」
狩野家での今朝の出来事を知らないシルヴィが、眉をひそめて荒野に説明を求める。
「oh!
It's Japanese Love and Comedy!」
荒野が簡単に今朝のことを説明すると、シルヴィは遠慮なく笑い声をたてた。
「センセイのいうところのニッポンのデントー! ラブコメね!」
今朝の騒動の当事者の一人でもあった楓はいたたまれなくなり、その場から逃げだしたい気持ちでいっぱいになった。
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つづき]
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