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髪長姫は最後に笑う。第五章(63)

第五章 「友と敵」(63)

「何故、あと数十分以内にあの三人を捕まえなければならないのか」という理由を荒野に説明され、シルヴィ・姉崎は声をあげて笑った。
 あの三人のうち一人が、今朝、狩野香也の寝床に潜り込み、それを発見した楓と孫子が、一悶着起こした。
 いってみれば、それだけの話しだ……。
 他愛のない、子供たち同士の戯れ合いではないか……と、シルヴィは思う。
 が、荒野は、「……玉木のヤツがいなければ、たしかにその場で終わる話しなんだけど……」と苦い表情で言葉を濁した。
 玉木と放送部の活躍ぶりは、シルヴィも見ている。あの年齢にしてはなかなかの行動力……とは思うものの、それ程の脅威になるとは、シルヴィは思っていない。
 ところが、その後に続いた荒野の言葉を聞いて、シルヴィは絶句した。
「……玉木には、昨日、おれたちのこと、だいたい説明しているからな……。
 これ以上変に好奇心刺激して騒がれると、なんかの拍子に、全てばれる……」
 荒野のいう「おれたちのこと、だいたい」とは、要するに「一族関係のこと」ということで……。
「……コウ? 正気?」
 シルヴィは眉をひそめた。
「あ。でも、荒神とかヴィのことは話してないから、安心して……」
 荒野は、何でもないことのように、続ける。
「……最低最悪でも、おれたちが姿をくらませればいいだけだから……」
「それがわかっているのなら、何故、一般人にそういうこといっちゃうの!」
 思わず、シルヴィは詰問する口調になってしまう。
「分かっているさ。
 だからこうして、これ以上玉木たちの興味を刺激しないように、三人を捜して口止めしようとしているわけだろ?
 玉木のように好奇心が強すぎるタイプには、あらかじめこっちの情報をある程度開示して、協力してくれるように求めた方が、後々、なにかと融通が利くんだよ……」
 荒野は、昨夜、玉木と有働に自分たちのことを説明した時のように、淡々とした口調でシルヴィに自分の思惑を説明する。
「おれは……玉木や、この町の人たちや、学校の奴らを騙したいわけではなくて……だから、必要を感じ、相手を信用できれば、自分たちの正体くらいは明かす……」
 意外に真剣なその口調から、シルヴィは荒野が本気であることを悟ったが……同時に、到底、自分には出来ない選択だ……とも、思った。
『……コウ……若いわぁ……』
 荒野にとって玉木は、たまたま「同じ学校に通う生徒」というだけの、ごくごく浅い関係でしかない。その玉木を、条件付きであっても信用して、自分の正体を打ち明ける程度には信用してしまう……。
 一族の従来の基準に照らし合わせれば、甘いといえば甘い判断なのだが……。
『……その方が、相手も信用してくれる……』
 この土地で、荒野は、単なる打算や欲得ずくではない人間関係を築きつつある……と、シルヴィは感じる。
「……じゃあ、なおさら、そのタマキを刺激して、暴走させないようにしないとね……」
 シルヴィは優しい声で荒野にいった。
 シルヴィが知っているのは、幼い頃のコウでしかない。しかし、そこまで他人を……それも、一族の者でもなんでもない、一般人を無条件で信用してしまえる心情は……用心深く疑り深い、一族の思考法からは出てこない。
 この土地に来て、荒野は、確実に変化しはじめていた。
『コウがどこまで自覚しているのか……それに、その甘さを、どこまで貫き通せるのか……』
 最後まで、見てみたい……と、シルヴイは思った。
「……そうと決まれば、あの三人を早く捕まえましょう。
 ここにいる三人がいれば、大抵のことはできるわ……」
「……あ。それなんだけど……」
 勢い込んでそういったシルヴィに、荒野は申し訳なさそうな顔をして、水を差した。
「……おれ、今、学校に行けないから……じじいが事故にあって、早退して見舞いにいっていることになっているんで……」
 そういわれてはじめて……荒野が私服であることに、シルヴィは改めて気づかされた……。
「コウ……もしやとは思うけど……。
 あの野生児三匹……実質、ヴィとカエデの二人で、なんとかしろっていうの?」
 シルヴィのこめかみに、青筋が浮かぶ。
「あ……ああ。そう、なるなぁ……」
 荒野はあらぬ方向に視線をそらし、こめかみのあたりを人差し指でぽりぽりと掻く。
「カモン! カエデ!
 三匹のデーモン、ハントしにいくわよ!」
 シルヴィは足音も荒く、学校に向かっていく。その後ろに、楓がついていく。
『……大丈夫かな……あの二人……』
 その後ろ姿をみながら、荒野はひどく心配になった。
 能力的な面では、不安はない。楓もシルヴィも、タイプは異なるが、術者としてはそれぞれ第一線の技量を持っている。
 あの二人で出来なければ、その他に何人投入しても無駄だろう、とさえ、思う。
 しかし……。
『あの二人……今まであんまり、付き合ったこと、ないんだよなぁ……』
 性格面では、かなり不安があった。
 術者としてのシルヴィは、力押しよりも搦め手が得意なタイプで、性格的には、どちらかというと自分の能力を過信するタイプ。
 楓は、力押しなら大抵の相手に負けやしないが、細かい駆け引きや小細工は苦手だ……。
 適性的にも性格的にも、ほぼ逆であって……それがうまくマッチすればいいが……反発しあうとなると……。
『……目も当てられない結果にも、なりえる……か』
 そう思った荒野は、携帯を取り出して、三島に電話をかけはじめた。
『……あと、二十分かそこいらが、勝負か……』
 六時限が終わるまで、もう三十分も残されてはいなかった。
「……あ。先生? うん。おれ、荒野。
 うん。早退したんだけど、それ、偽装で、実はいろいろと細かい事情があって、実は今朝……」
 荒野は、電話に出た三島百合香に向かって、先ほどシルヴィ・姉崎にしたのとほぼ同じ説明を繰り返す。
『……お前んところも、まあ……。
 いつまでも、落ち着かないというか……』
 時折、茶々を入れながらも、おおむね大人しく荒野の説明を聞き終えた三島は、意味ありげなため息をついた。
「……おれもそう思うけどね……いずれにせよ、放っておくわけにもいかないから、そんなわけで、今、楓とヴィ……シルヴィが、あの三人を捕まえに、学校にいってる。
 万が一、なんかとんでもない騒ぎになったら、先生の方でもそれとなくフォローしておいて。
 おれ、今日は、学校にいくわけにはいかないから……」

[つづき]
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