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彼女はくノ一! 第五話 (22)

第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(22)

「……へぇ……」
 五時限目が終わり、教室を飛び出した四人は、屋上に来ていた。学校の屋上への出入り口は普段、締め切ったままだったが、この四人にしてみれば、正規のルート以外で屋上にでることなど、なんの造作もない。
「……君たちは、昨日からあの家にお世話になている。
 それで、今日は、暇だから、見学に来た……と、そういうのかい?」
 荒神はどこからか取り出した缶入りのお汁粉を三人の子供たちに配る。
 二足の草鞋を履く荒神が、当座のねぐらである狩野家に帰らない日は珍しくない。昨夜、荒神は帰宅せず、学校から直接別口の職場に向かい、仕事を済ませてから明け方にこの町に戻ってきて、直接学校に出勤した。
 だから、荒神がこの三人に対面するのはこれが初めてだった。
「うん!」
 三人は元気よく返事をした。
 荒神に振る舞われた缶入り汁粉の味が思いの外美味に感じられたこと、それに先ほどの教室での動きで、荒神も一族の関係者だとわかっていたので、三人は荒神に問われるままに、今までの経緯を順番に語る。
『……どんどん面白い状況になってくるなぁ、この町……』
 荒神は内心でそんなことを考えている。
『……雑種ちゃん、才賀の小娘、それにこの子たち……荒野君……。
 君は、この子たちを、どこに連れていくつもりだい?』
「……さて、と……。
 残念だけど、もうすぐ次の授業が始まる。これでも表向きはここの教師でね。ぼくは、もう戻らなければならない……」
 そういって、荒神は三人を残して屋上から姿を消した。
「面白いおじさんだったねー!」
「お汁粉、甘くておいしー!」
「いいひとだー! ご馳走さまー!」
 三人は口々にそんなことをいいながら、荒神を見送った。

 それから少しして、六時限目の始まりを告げるチャイムが鳴る。
「……これから、どうする?
 マンドゴドラに行くまでは、まだ少し時間があるけど……」
 ノリがパーカーのポケットから古風な懐中時計を取り出して、時刻を確認した。
 この少女たちのいう「じっちゃん」の、唯一の形見だ。この中では一番しっかりしているノリが預かって、肌身離さずに持ち歩いている。
「ノリは、ケーキ屋に行く前に、タマねーちゃんと一緒に眼鏡取りに行くんだよねー……」
「どっちにしろ、学校終わるまで、タマおねーちゃんも他のみんなも、遊んでくれないみたいだし……」
 ついさっきの雑談で、三人が「学校」についてなんの知識を持たないということに気づいた荒神は、ざっと学校の目的とシステムを三人に伝えている。
 学校とは、社会を構成するまでに至らない年齢の人々が、集団生活や学問を教授される場であり、そのため、生徒たちは決まった時間、授業という形で拘束される……と、今では三人とも知っている。
 荒野、茅、香也、楓、孫子、玉木……など、彼女ら三人が知っている人々は、揃って「学校の生徒」であり、従って、放課後になるまでは拘束される。
 つまり……三人とは、遊んでくれない。
「……ん?」
 屋上で車座になってそんなことを確認し合っていると、ガクが鼻をひくつかせた。
「やばい! この感覚……。
 みんな! 息を止めて、下に逃げて!」
 そういったガクが、率先して屋上から逃げ出す。
 息を止めたまま、脱兎のような素早い動きで、手すりを乗り越え、階下に向かった。
 他の二人も、わけも聞かずにすぐにガクに続く。

「……やっぱり、同じクスリに引っかかるほど、甘くはないかぁ……」
 三人が消えた後の屋上に、シルヴィ・姉崎が姿を現した。
 孫子が昨日、あの三人のうちの誰かに、同じクスリを用いた、ということは知っていた。シルヴィの現在の任務は、香也と茅に近づいてくる者、全ての監視と報告、だ。昨夜、孫子と楓があの三人と激突した騒ぎも、当然、詳細に監視している。
 無味無臭、で、常人はもとより、一族の大半の者にも気づかれる心配はなかった筈のクスリだったが……。
「……少なくとも一人、とんでもなく鼻が効くのがいるようね……」
 いずれにせよ、正面から対決したら、シルヴィはあの三人の足下にも及ばない。
 自分の役割は、三人を追い込むこと……と、シルヴィは割り切っていた。
「……最強の、二番弟子……あなた一人で、あの三人に対抗できる?」
 シルヴィは、そう呟く。
 両方の実戦データが採取できれば……シルヴィとしては、かなり都合が良かった。

『……生け捕り……だもんなぁ……』
 その頃楓は、ぼやいていた。
 相手は本気で逃げて行くが、楓のほうは、手を抜くわけにもいかず……。
「倒せ!」といわれるよりは、「捕らえろ!」という指示のほうが、実行する側にしてみれば、数段難易度が高い。
 しかも、今は授業中の学校……自分はもとより、あの三人の姿が、教員や生徒たちに目撃されることも、できれば避けたい……。
『……シルヴィさん……追い込んでくれたのはいいけど、分散は……』
 多対一、では、いくらなんでも分が悪すぎる……。
 一対一で、時間差をおいての個別撃破、ということであれば、なんとかなるかも知れない……と、いうのが、楓の目算だった。
 シルヴィとの事前のうち合わせで、「三人の発見」し、「楓に見える範囲内に、三人をおびき出す」、それにできれば、「三人を、バラバラにする」よう、お願いした。
 姉崎は、そうした補助的な細工の巧者だ……と、荒野が断言したので、それを信じた形だ。

 屋上からプラスチックの雨樋にとりついて下に降りようとしていた三人に向け、楓はとりあえず、窓から身を乗り出して霞網を投げる。先ほど、
「生け捕りなら、この程度のもんは必要だろ?」
 という言葉とともに、荒野に手渡されたものだった。
 足場になる場所に乏しい状況下であるにもかかわらず、三人は雨樋から跳躍して散会した……かに、見えた。
「……え?」
 散会したかに見えた……が、一人だけ、その場から動かず、むざむざ楓が投じた網に入った者がいた。
「テン!」
「なにやっているだよ!」
「いいの、いいの。
 楓おねーちゃん、怒らせると怖いし……追っかけてきた、ってことは、なんか用事があるんだよ……」
 反射的に跳躍し、近くのサッシ窓などの僅かな突起に指をかけたまま、テンが仲間たちに声をかける。
 意外に、暢気な声だった。
「ノリとガクも、早めに降参したほうがいいよ……」
 怒った時の楓の怖さは……テンは、昨日、骨の髄まで染みこむほどに学習していた。

[つづき]
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