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髪長姫は最後に笑う。第五章(65)

第五章 「友と敵」(65)

「……ラスト・ワン……最後の一人だよーん……」
 テンを抱いたシルヴィが三度目に保健室に入ってきた。出て行った、と思ったら帰ってきた……という感じで、テンにいわせれば、「ノリの時と同じくらい」という短時間での終決だった。
 ガクなら、もっと時間をかせげる……と、当然のように思いこんでいたノリとテンは、顔を見合わせる。
「……あの……ガク、二人がかりで……」
 代表して、ノリが尋ねてみた。
「……それがねー……」
 シルヴィ・姉は、ベッドの上にガクを寝かせると、後ろについてきた楓の体を、自分の前に押し出した。
「……戻った時には、ほとんど終わってた。カエデとガクがとっくみ合いのケンカしてて、ヴィ、手出しする隙、なかったよ……。
 センセ、カエデの傷、お願い……」
 ノリとテンは、毒気の抜かれた表情で、ベッドに横たえられたガクの顔を見る。
 昨日と同じように、幸福そうな顔をして、寝ているようにしか見えなかった……。
「……ガクを、一人で……あんな短い時間で……ノックアウト?」
 ノリが、呆然とした顔をして、ガクを指さしながら、テンに聞き返す。
「……だからいったろ……楓おねーちゃんを怒らさない方がいいって……」
 テンは、コクコクと首を縦に振った。
「……こんなに短時間に、というのは……ボクも、予想外だったけど……」
 移動の時間も考えれば……シルヴィが戻った時、ほとんど終わりかけていた、というのも、決して誇張ではないだろう……。
 ノリとテンは、こわごわ、こちらに背を向けて三島に治療を受けている楓の背中をみる。傷、といっても、何カ所かに浅い切り傷程度しか負っていないようで、三島は、消毒して絆創膏を貼っているだけだ。
 再度、ベッドに横たわるガクをみやる。ガクは、完全に気を失っている。
「……楓……お前は、急に気分が悪くなって、保健室で寝ていることにしといたから……後で口裏あわせとけ。
 っと。
 こっちは、これで、終わり……そっちのチビのほうはいいのか? ん?」
「気を失っているだけ……。
 頭を打っているわけではないし、水でもぶっかければ眼を醒ますわん……」
 シルヴィは、おどけた仕草で肩をすくめた。
「……そうかそうか」
 三島は、足で地面を蹴って、椅子のキャスターをゴロゴロ転がし、ベッドの方に近づいてくる。
「……ん、じゃ、放課後になるまで暇だな。
 その時間で、お前さんにコイツがどうやって気を失ったのか教えてもらうことにするか……」
 三島は、そういってシルヴィを即した。
 それから、ノリとテンのほうに顔を向け、
「……お前らも、興味あるだろ? ん?」
 といった。
 質問の形をした、断定だった。

 シルヴィの詳しい説明を聞いて、ノリとテンは、重ねて愕然とした。
 シルヴィの説明が正確なものなら……ガクは……正面からやり合って……完敗した、ということになる……。
 ノリとテンは、ガクが野生動物並みにタフで強靱な肉体を持っていることを、知っている……。
 丈夫で体力が有り余っているおかげで、島で生活していた時から、物事をあまり深く考えずにとりあえず興味のあるものには手を出してみる、近寄ってみる……という性向が顕著になったくらいで……。
 罠や小細工以外で……正面から、人間が、一対一でガクとやりあって無事でいられるなんて……それどころか、ガクのほうを完膚無きまでに叩きのめしてしまうなんて……。
 シルヴィが説明している間、楓は決まり悪そうな様子でもじもじしていた。その態度から考えても……嘘や誇張では、なさそうだ……と、二人は判断した。
 ノリとテンは、どちらともなく眼を覗きこみ、うんうんと何度か頷きあう。
『……今後、楓おねーちゃんには、出来る限り逆らわないことにしよう……』
 という意志は、たったそれだけの挙動で伝わった。
 いわゆる、以心伝心。

 六時限目が終わる直前にガクをたたき起こし、ノリとテンがガクを支えるようにして、三人は学校を去った。
 玉木への口止めの件は、ノリとテンが血相を変えて「ガクにも徹底させます! いいきませます!」と力説して保証してくれたので、楓はそれを信用することにした。
 ガクを除いた二人が、必要以上に緊張しているように見えたのが気にはなったが……今は、荒野に命じられた口止め工作が無事完了したことのほうが、大事だった。
 楓は三人が保健室を出て行くのと同時に荒野に電話をかけ、思いの外うまくいった、と伝えた。楓がそう伝えると、荒野の声も、電話越しにもありありと分かるほどに、安堵した響きに変化する。
 楓は、荒野のねぎらいの言葉を、素直な気持ちで耳にした。
 そうこうするうちに、放課後になったことを告げるチャイムがなり、しん、と静まりかえっていた校内が、一気に騒がしくなる。
 聞き慣れた、号令、床を椅子の脚がする音、廊下を上履きで歩く時の足音、人の声……。
 念のため、三島の設定した通りに、楓は、しばらく保健室のベッドに横たわり、安静にしていることにした。ついさっき、時間的にはほんの数分……ではあるものの、あの三人を相手に、かなりの運動もしている。実際のところ、体中の細胞が、疲弊しているような感覚も、あった……。
 ベッドの上で、布団にくるまって気持ちよくうとうとしていると、周囲に人の気配を感じた。薄目を開けて様子を伺ってみると、よく知っている顔が眼に入ったので、楓は掛け布団を吹き飛ばすような勢いで上体を跳ね起こした。
「……あ……あっ……あっ……」
 楓の鞄を持った、香也が、枕元に立っていた。
『……み、見られた……寝顔、見られちゃった……』
 そんなことを楓が考えているのをよそに、香也は、「……んー……」といつものように唸っている。香也は、しばらく唸ってから、ようやく、
「……楓ちゃん……大丈夫?」
 と、いった。
 楓は、大きくかぶりを振った。
「楓、せっかくお迎えが来たんだ。一端、一緒に帰ったらどうだ? ん?」
 香也の後ろで、三島百合香が、からかうような口調でそういった。
「今日は、みんなで玉木にケーキ奢らせるんだろ? ん?
 玉木の方は、まだ絞られているから、もう少し遅れると思うぞ……」

[つづき]
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