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髪長姫は最後に笑う。第五章(66)

第五章 「友と敵」(66)

「……片づいたか……」
 楓から「事態収拾」の電話連絡を受け取った荒野は、安堵のため息をついた。
 折り返し、マンションで待機している茅に電話を入れ、「これからそっちに向かう」と伝え、電話を切ると同時に、気配を絶ったまま、電線の上をダッシュし始める。口実を用意して学校をさぼっている関係上、誰かに自分の姿を見られるのは避けたかったし、荒野は、元々目立つ風貌であることに加え、地元ではもはや有名人であるといってもいい。
 用心に越したことはないのであった。

 マンションに着くと、茅は外出の支度を調えて待っていたので、そのまま外にでてマンドゴドラに向かう。
 偽の連絡で学校を早退してからそれなりに時間がたち、なんだかんだでもう放課後の時間になっていた。今なら私服で公然と外出してもあまり怪しまれないだろう、と、荒野は判断した。
 先ほどの楓の連絡によれば、玉木はまだしばらく教師たちに拘束されているようだが、一足先についてマンドゴドラでゆっくりするのも悪いことではない……と、荒野は思う。
 今日は、気苦労が多すぎた……と。
『……自分自身で動けない状態、というのも……』
 これはこれで、疲れる……と、思う。
 荒野は、「他人に命令を下して、後は成果が出るのを待つだけ」という立場にはまだ慣れておらず、「いっそのこと、自分自身で動いて片づけてしまったほうが……」よっぽど、楽だ……と、そう、考える。
 マンドゴドラに向かう道すがら、荒野は楓とのやりとりで知り得た情報をぽつぽつと口頭で伝える。とはいっても、楓も手短に事実関係のみを伝えただけなので、荒野とて詳しい経緯を知っている訳ではない。
 三人が、何故か荒野たちと入れ違いに学校内に侵入したこと。
 楓とシルヴィがそれを探知し、思いの外短時間で三人の身柄を順番に拘束したこと。
 一端、保健室に集められた三人には、荒野が電話越しに口止めをしておいたこと。
 今の時点で荒野が話せるのは、その程度の事でしかなかった。後の詳細なことについては、あの三人や楓と合流した後にでも、直接聞くしかない。
『……実際にやらせてみると……』
 荒野は、そう思った。
『楓も……体を動かすことにかけては、予想外に優秀だよなぁ……』
 と。
 登場の仕方が仕方だったので、当初の荒野の楓への評価は、辛くなりがちであった。しかし、時間がたつにつれて、その辛くなりがちな評価へも、かなり上向きに修正がかかりつつある。
『……あの三人も……』
 楓や茅のように……一刻も早くこの町に……というよりは、一般人の社会に……馴染んで貰いたいものだ、と、これはかなり本気で思う。
『……でも、まあ……』
 同時に、あまり心配する必要もないか、とも思う。
 茅や楓についても、当初、かなり心配していたが……二人とも、予想したよりも短時間で、実社会に馴染みはじめている。
 あの三人も……すぐに今の環境に、慣れてしまうだろう。
 いつも三人で固まってわいわいやっている分、単独で動き回られるよりは心配がない。誰かがろくでもないことをしでかしそうになっても、誰かがストッパーになる。物怖じしない分、慣れるのも早そうだ……と、無理にでもそう考えることにした。

 やはり集合場所のマンドゴドラについたのは、荒野たちが最初だった。
 カウンターで顔見知りのバイト店員に、とりあえず紅茶とコーヒー、それにショートケーキと苺のミルフィーユを一つづつ、注文する。ショーウィンドウに面したカウンターに茅と並んで座って、ショートケーキとミルフィーユを交互に食べる。ショーウィンドウ越しに見える、道行く人々に指さされるのも、いつの間にか慣れてしまった。なにしろ、頭上の液晶ディスプレイには、未だに荒野と茅が着物姿でケーキをパクついている。
『……もう、一月も終わりかぁ……』
 荒野は、ケーキをコーヒーで流し込みながら、そんなことを考える。
 いつもバタバタしているので長く感じるが、学校が始まってから、まだ一月も立っていない……。
 でも、そんないつもの馬鹿騒ぎとその後始末を、徐々に楽しみはじめている自分にも、気づいていた。
『……誰も害することがない分……』
 こういう馬鹿騒ぎで疲れるのも、まあ、いいか……と、そう思ってしまう自分がいる。
 荒野たちがカウンターに座ってから、入り口の自動ドアが開閉する頻度が、格段に多くなってきた。なんだかんだいって、自分たちの存在に集客効果があることは、確かなようだ。
 以前、眼があってサインをねだられた事があったので、この店のカウンターに座っている時は、なるべくケーキを買いに来たお客さんのほうは見ないようにしている。

 荒野とか茅が静かにマンドゴドラのケーキを堪能して十五分ほどして、賑やかに笑いざわめきながら例の三人組が入ってくる。
「お……それかぁ、昨日、玉木と選んだのって……」
 三人のうち、ノリは、縁なしの丸眼鏡をかけていた。
「……玉木のおねーちゃんは、もっと凝ったデザインのを薦めてくれたけど……」
 そういってノリは、はにかみを含んだ笑顔を見せた。
『……この子が、一番冷静……』
 出会ったばかりの頃は、同じ年格好ということもあって、三人の性格がなかなか掴めなかった。いろいろあった今では、
『ガクが、やや短絡的な性格。テンは、一見ぼんやりしているようだけど、思慮深い……』
 そんな風に、性格の違いを把握しつつある。
「……玉木はまだ来てないけど、先になんか注文してこいよ。
 一昨日の食べ方は酷かったぞ。これから、見苦しくないケーキの食べ方を教えてやる……」
 ようは、「手掴みではなく、フォークを使え」というだけの単純なことなのだが、三人はケーキさえ口にできれば不満はないのか、素直に荒野が教えた通りの食べ方をした。

「お。来た来た……」
 三人がケーキをパクつき始めた頃に、マスターが店の奥から出てきた。
「……今日来るって聞いていたから、たっぷり用意してあるからな……」
 マスターは、例によっていかつい顔中に笑顔を貼り付けている。
『こいつら……一昨日も、売り上げに貢献しているからなぁ……』
 そう思いながら荒野は、マスターに、
「カードは使えるようになりました?」
 と確認した。
 マスターは、レジに貼ってあった信販会社のマークが入ったシールを指さし、
「ばっちり。昨日、手続きが完了した」
 と、親指と人差し指で丸を形作った。
『……なら、玉木でもなんとか払えそうだな……』
 荒野は、そう思う。
 ……何十回払いになるのかは、知らないが。

 三人が、仲良く三度目のおかわりをする頃、制服姿のまま、鞄を抱えた楓と香也が、肩を並べて店の中に入ってくる。
 少し遅れて、やはり制服姿の孫子が、来店した。

[つづき]
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