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髪長姫は最後に笑う。第五章(67)

第五章 「友と敵」(67)

 荒野と茅、三人、香也、楓……と、来た順番に一列に座っていたので、孫子は楓の隣りの席に鞄を置き、コートとかける。そして、カウンターでコーヒーとモンブランを注文した。
 楓と孫子の分の料金は、荒野と茅に準じて「店の奢りで食べ放題」ということになっている。マンドゴドラのCM映像に出演したギャラ代わり、だった。

 香也の左右で、香也以外の人々は黙々と食べ続けていた。
 荒野と茅が甘いものを好むのは、以前から知っている。三人は、その荒野と茅以上に好きなようで、お代わりをしに席を立つ都度に目をキラキラさせて新しいケーキを物色して、一回一回慎重に選んでいる。
 香也の反対側の隣りに座る楓も、「今日は疲れているので」といいながら、盛大にケーキを平らげはじめた。楓の隣りに座った孫子も、淡々とした態度で、しかしその実すごいペースでフォークを振るう。
 香也が小さなレモン味のチーズケーキを一つ、なんとかコーヒーで流し込む間に、左右に座った楓と孫子は、三個ずつ完食してさらにおかわりを求めていた。
 端の方に座った荒野と茅は、満足したのかケーキをお代わりするのはやめて、悠然と飲み物をすすっている。
 香也と、荒野と茅の間に座っている三人組は、楓と孫子以上のハイペースでお代わりを続けていた。
 甘いものがあまり好きではない香也にしてみれば、見ているだけで胃酸が胸をこみ上げてくるような光景だった。
 それに、店の外にも、人垣が出来始めている。
『……早めに、退散しよう……』
 そう思った香也は、残っていたコーヒーを一気に飲み、荒野にだけ「先に帰る」とだけ耳打ちして、店を後にした。
 まだ姿が見えない玉木が迷惑をかけた謝罪の印として奢ってくれる、という話しだったが、自分の分の飲み物とケーキ代はちゃんと精算した。
『……玉木さん……大変だな……』
 三人の食べっぷりを見ながら、香也はそんなことを思う。
 三人がケーキを食べるペースは、いまだ衰えなかった。

「……え? あ。玉木か? ようやく解放されたって? それは良かったな……。
 でも、なるべく早くこっちに来た方がいいぞ。え? ああ。なんか人が集まって来ちゃってな。少し騒がしいか。
 ああ。みんな揃っている。いや、一人、香也君だけ先に帰っていったな。ちゃんと自分の分の料金は精算していった。感謝とけよ……。
 え? ああ。早くこっち来た方がいいってのはな、何故かこの場のノリで大食い大会がはじまっちゃってな。いや、おれと茅は入ってないけど、それ以外の五人は、まーよく食べるわ……。あんなちっこい体のどこに入っていくんだか……。
 玉木、ちゃんとカードもってこいよ。分割じゃないと払いきれないぞ、これ……」

 玉木がマンドゴドラに到着した時、店の周辺は大変なにぎわいになっていた。
 店の前ではマスターとバイトの店員が拡声器を持ち出して呼び込みをしながらワゴンセールをしている。
 ウィンドウの前に陣取った奴らは、ひっきりなしにフラッシュを焚いてカメラとかビデオとかを構えている。
 三人組は、それに応えて無邪気に笑ったりポーズを取ったりしながら、ケーキを平らげている。
 楓と孫子は、並んで座りながら、お互いに時折横目で進行状況を確認しながら、自分のペースを調整し……淡々と食べ続けている。
 楓は制服姿、孫子は何故かゴスロリ姿だった。
 何故か……ではない。
 よく見ると、ショーウィンドウ上部に据え付けられた液晶ディスプレイの映像が、お正月モードからバレンタインモードに切り替わっていた。玉木自身や放送部員が撮影を手伝い、少しは編集も手伝ったアレだ。孫子の恰好は、その映像に合わせた……という口実で、孫子が着ているのだろう。
 それら、ケーキを食べ続ける人々の後ろで、茅がホワイトボードに向かっている。何故ホワイトボードなんてものがここにある? ホワイトボードには、楓、孫、が、て、の、という五人の頭文字が上部に書かれており、その下に「正」の字がずらずらずらずらずらと幾つも並んでいる。
「……これって……」
 玉木の顔が、蒼白になった。
 分割払いにしてもらうにせよ……とても、学生の小遣い銭程度では、払いきれない金額になっているような気がする……。
「こいつらが平らげた、ケーキの数だ。
 安心しろ、楓と才賀の分は店の奢りだから、お前が払うのは、この三人の分だけだ……」
 荒野はそういって、ホワイトボードの「そのあたり」を指さす。
 その部分の「正」の字が、一番多い。他の部分にある「正」の字の、軽く二倍以上はある……
 その数をざっと数えた玉木は、さらに震えあがった。
「……才賀さん!」
 玉木は孫子の肩に縋り付いた。
「お願いだから、お金貸して!」
「……いいですけど……」
 孫子は、にっこりと微笑んだ。
「……十日で一割の利子でもよろしければ……」
「なんやてー! トイチって、あんたはナニワのヤミキンでっかぁ!」
「これでも、商売人の家系に生まれましたもので……」
「……カッコいいほうのこーや君!」
「今回は諦めろ。お前の自業自得だ……」
 荒野にしてみれば、玉木には、是非「懲りて」貰いたいところなわけで……。
「あああ。神も仏もないものか……あ。パツキンのべっぴんさんめっけ……。
 おねーさん、無利子でお金……」
「いいけど……返済は体でしてくださる?
 ヴィ、実はバイセクシャルなんだけどぉ……うふふふ」
「わはぁあ! そうくるかぁ!
 あ。羽生さんだー! 師匠ー! 弟子の窮状を……」
「……いいけど……」
 羽生譲はため息をついた。
「これ着て、今日一日売り子さんね……」
 そういって、荒野から預かったメイド服を差し出す。
『……結局、カッコいいほうのこーや君がいってた通りになってやんの……』

 こうして、メイド服に着替えた玉木珠美は、その日、マンドゴドラの在庫が売り切れるまで、ワゴンセールの売り子さんをやるハメになった。
 ご近所とお客さんには、なかなか好評で、「一緒に写真撮らせてください」という依頼が殺到した。
「……たまには自分が注目されるのもいいだろ……」
 とは、荒野の談である。

[つづき]
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