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第五章 「友と敵」(69)
昼休みが終わりかけた頃、茅からメールが来た。
今日、帰ってから水着を買いにいくの
というたった一行の内容だった。
すぐに予鈴が鳴ったし、茅に聞き返すよりは……と、荒野は楓に手早くメールを送信した。楓は茅と同じクラスであり、なにかしら事情を知っている可能性が高かった。
茅の水着について知っていることがあれば。
オクレ。
「オクレ」とは「送信完了、受信準備よし」程度の意味合いを持つ用語である。自衛隊などで無線使用時に用いられる。
送信しおえると同時に、二宮浩司先生こと二宮荒神が教室に入ってきたので、通信は一時中断となった。
教師としての二宮浩司先生は、遅刻早退欠勤などはないのはもちろんのこと、早めで教室に入って授業終了時間よりかなり前に「今日はこれまで」と授業を終えてしまう。それでいて、内容のほうも重要な要点のみを簡潔に説明するので、生徒間での人気は高かった。
そんなわけで、荒野が楓の返信メールを開いたのは、二宮浩司先生の授業がいつも通り、規定の時間より五分ほど早く終り、「他のクラスはまだ授業中だから、チャイムが鳴るまで騒がないように」と言い残して二宮先生が教室を出てからだった。
そこには数行にわたって、「茅が柏あんなに泳ぎ方を教えてくれと依頼し、それなら……という感じで、茅と柏あんな、それに楓の三人で、放課後、ショッピングセンターに水着を買いにいく約束をした」、といった内容が書かれていた。
『楓のやつ……こういうの要約して書くの、下手だな……』
楓のメールの文面は重複が多く、お世辞にも「うまい文章」とは言い難かった。
『プログラムとかは、プロ並のものを仕上げるのに……』
よりによって日本語の文章が下手、というアンバランスが、なんとなく楓らしかった。
そう思って、荒野が携帯の画面をみてうっすらと笑っていると、
「……どうしましたの?」
と誰かが尋ねてきた。荒野はそちらのほうを振り返りもせず、
「ああ。妹のヤツが友達と水着を買いに行くことになったみたいで……」
と説明しかけ、はっとして振り返る。
腕組みをした才賀孫子が、思案顔で立っていた。
「……そう。妹さんが水着を……」
そういって孫子は、自分の携帯を取り出してすばやく文字入力をしはじめ、すぐに送信ボタンを押した。
「ご安心下さいな、お兄様。
妹さんたちは、このわたくしが責任を持って引率してさしあげますから……」
才賀孫子はそういって、荒野にあでやかな笑みを浮かべた……ので、荒野は、すっげぇ不安になった。
「お手柔らかに、お願いします……」
すっげぇ不安には駆られたものの、今日は部活がある日だったので、荒野としてはそう返答するのが精一杯だった。
荒野が部活を休むと、野球部を初めとする数十名に及ぶ欠食児童めいた運動部員たちの相手を料理研の女生徒たちだけですることになる。それに、たかだか女の子同士で買い物に行くのに、荒野が同行するというのも、なんだか過保護すぎるように思えた。
加えて、買う物がよりによって「水着」である。
女性数名の集団の中に荒野一人が混ざった状態で女物の水着売り場に行く……という想像は、荒野をげんなりとさせた。
『……そうそう……たかだか、買い物にいくだけだし……』
荒野は自分自身にそういい聞かせながら、楓に向けて「買い物はいいが、くれぐれも注意するように」と念を押す文面のメールを打った。
六時限目はあっという間に過ぎ去り、荒野は自前の調理道具をエプロンで包んだものを手に、調理実習室に向かった。
運動部員たちが差し入れてくれる食材に、正月に食べ残した餅が多くなってきたので、今日はそれを片付けることにする。
硬くなったり黴が生えかかったりしたものも多かったから、まず部員たちで手分けして、包丁で丁寧に黴をこそげ落とす。
「……え?」
そうした下拵えが終わった頃、楓から電話が来た。
「……あの三人も、一緒に行く、だって!」
調理実習室の隅にいって電話を取り、思わず大声を出した荒野を、料理研の部員たちがこわごわと注目しはじめた。
「あ……いや、なんでもない。こっちの話しだから……」
荒野は部員たちにそういって愛想笑いし、携帯を掌で包むようにして口を密着し、小声でいった。
「それで……って。
ああ。まあ、行きたいってのを無理に止める権利はないけどよ……。
いいか。楓。こうなったら頼みの綱は、お前だ。
お前が、あの三人を、しっかり監督するんだぞ……」
荒野はそういって電話を切った。
不安材料は山ほどあったが……なるようにしか、ならないだろう。
「……小豆もあったから、善哉なんかもいいかもしれないな……」
荒野は部員たちにそう提案してみた。
餅、という食材の調理法は、極めてバラエティーに富んでいる……。
『まあ……楓と才賀が揃っていれば、あの三人は押さえ込めるだろう……』
荒野が硬くなった餅の調理法について頭を悩ませている頃、楓はショッピングセンターに向かうバスの中で、居心地の悪い思いをしていた。
ショッピング・センターまでは少々距離があり、三人や楓、孫子は自転車を持たなかったので、結局はバス停の前で柏あんなと待ち合わせることになる。狩野家の庭先にも、一応二台ほど、自転車が放置されていた。が、真理や羽生は普段の移動手段として車やスーパーカブを使用しており、香也も自前の足で動ける範囲でしか移動しないので、ここ数年ほとんど使用された形跡がみられず、錆の浮いたそれらは、かなり徹底した整備なしに乗るのは、危険であるように思えた。
また、仮にそれを使用したとしても、まだ三人分の足が、足りなかった。
それで、ショッピング・センターまでバスを使うことになったのだが……。
『……な、なんで……』
楓は、孫子、あんな、それに三人組のジト目攻勢にあっていた。
『なんで……ブラのサイズを正直に答えただけで……』
こんな居心地の悪い目に遭わなくてはならないのか……。
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