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髪長姫は最後に笑う。第五章(72)

第五章 「友と敵」(72)

「……へぇ、じゃあ、昨日はみんなで水着買ってきたんだ……」
「そう。茅、あんなに泳ぎを習うの」
 登校時、飯島舞花は相変わらず司会役みたいな役回りを率先して行っていた。
「……そういや、今朝、ランニングの時にガクは来なかったな。
 ……楓、なにか知っているか?」
「……さ、さぁ? わたしは、なにも……」
 荒野が尋ねると、楓がもろに動揺した様子で答えた。
 荒野は「また、なんかあったな」とは思ったが、深く追求しない。それでなくても、今週は忙しすぎた。楓が秘匿したいことをほじくり返して、これ以上、面倒な案件を自分から抱え込むのも、馬鹿らしかった。
「……ようやく、週末かぁ……」
 荒野はそういって伸びをした。
 今日は金曜日、一月最後の週末だった。
 明日、明後日とバーベキュー、健康診断……と予定が詰まっているので、荒野としては、今日くらいは平穏に過ごしたかった。

 そうした希望的観測、というものは、往々にして裏切られる運命にあるのだが。

 珍しく恙なく一日の授業を終え、荒野は週末分の食材を確保するために商店街に向かった。その途中で電話が鳴る。茅の携帯から、だったので、そのまま取った。
『……今日、徳川篤朗が、狩野家に、自分のノートパソコンを取りにくるの』
 茅は、荒野の返事も待たずに、まくし立てるようにいった。
『篤朗の姪の浅黄が、茅にあいたがっているというの。
 浅黄、またうちに泊めてもいい?』
 文法的には質問の形をしていたが、語調はどことなく命令調だった。
 ……そういや、茅の数少ない、仲のよいお友達、だもんなぁ……と、荒野は思った。
 なにしろ、茅が、お気に入りの猫耳カチューシャを無条件で浅黄に手渡したほどである。
「……いいけど……」
 荒野は慎重に答えた。
「……今日、泊めるのはいいけど……明日は、午前中はプールにいって、午後はバーベキューだろ?
 ろくに相手、できないと思うぞ。一泊させただけですぐに帰すのか?」
 前の事例から考えても、浅黄がくれば茅も一緒になってはしゃぐのは、容易に想像できた。
『大丈夫なの。
 篤朗に、ちゃんと浅黄の分の水着を用意するようにいったの。
 みんなでプールとかバーベキュー、するの』
 茅の声は、心なしか弾んでいるように思えた。
「……いや、そこまで決まっているんなら、別に構わないけど……」
 茅に押し切られる形で、荒野は承諾した。
 通話を切って、しばらく考えてから、荒野は登録していた玉木の番号に電話をかける。
「あ。おれ、加納。
 たった今茅から電話あったけど、お前、浅黄ちゃんのほうに、さりげなく手を回したろ?」
 荒野は開口一番に断定口調でそういった。
 茅と徳川篤朗、徳川浅黄を繋ぐ線は、玉木と孫子くらいしか思い浮かばない。そして、孫子は、浅黄のような子供のために便宜を図る性格ではなかった。
「お前……今度は、なにを考えている?」
『いきなりなにを考えている、はないんじゃないかなぁ、カッコいいこーや君』
「今までが今までだからな。警戒もするさ」
『……最初は、孫子ちゃんの鉄砲が壊れかけている、って話しだったんだけどねー。実家に送り返して代わりの送って貰う、っていっていたから、なんならいっそ近場で修理して貰えば、って耳打ちしたのよ。
 トクツー君、そういうの得意だし、お仕事として出せば、秘密厳守の人だし。
 近場に専任のメンテナンス要員、確保しておいたほうが、孫子ちゃんもなにかと安心でしょう、と……』
「たしかに徳川は、必要以上に好奇心を持ってこっちの事情に首突っ込んでくるタイプじゃなさそうだけどな……」
 お前と違って……という言葉は、辛うじて飲み込む。
 それに……孫子のライフルがしょっちゅうオーバーホールを要求されるほどに酷使される、という状況も……できれば、勘弁して欲しかった。
 そもそも、あんなもん、間違っても日本の町中でぶっ放すものではないのである……。
「で……そっから浅黄ちゃんには、一体どう結びつくんだ?」
『……いや、囲碁将棋部の部室でそういう話しを三人でやっているところにな、ちょうどトクツー君の姉君が浅黄ちゃん連れてきて、例によって、しばらくトクツー君に預けたい、っと……。
 で、浅黄ちゃんは、孫子ちゃんの顔、覚えていてな、「今日は猫のおねーちゃんいないのー!」と、こうだ。
 どうも浅黄ちゃんは、茅ちゃんのことを、猫のおねーちゃんと認識しているらしいねー……。
 茅ちゃんがあげた猫耳、今では自分がつけているのになー……』
 玉木は電話の向こうでからからと笑った。
「……だいたいの経緯は、理解した」
 荒野は、憮然としていった。
「ようするに、いろいろな偶然が重なっただけで、お前はなにも画策しているわけではないのだな……」
『……なにをいう!』
 玉木はわざとらしく声を大きくした。
『この玉木珠美、友人をネタにすることはあっても、友人の弱みにつけ込むほど卑劣ではないぞ!』
「……あのなぁ……」
 実際に、荒野たち一族関連のことを黙ってくれているのだから、それなりに信用はしている……の、だが……。
「……そのネタと弱みの境界線は、お前の中で一体どのように区分されているんだ?
 後学のために、是非聞いておきたい」
『はっはっは。愚問だ!
 笑ってつけ込めるのがネタ、つけ込むと笑い事ではなくなるのが弱み、だよ……』
 そんなことをうそぶいて「わはははは」と笑い続ける玉木の基準は、イマイチ、信用しきれないところがあった。
「……いいけど……。
 今後、万が一、とんでもないことになったら……その時は遠慮なく、お前に楓とかあの三人とかをけしかけるからな……」
 荒野がそういうと、玉木の笑い声のトーンが、若干乾いたものになった。
 構わず、荒野は通話を切る。
『……浅黄ちゃんが、来るのか……』
 荒野は冷蔵庫の中に買い置いている食材を思い浮かべる。
 子供の喜びそうな料理……カレーか、ハンバーグか……この間シーフードカレーやったばかりだけど、茅はカレー好きだから、別に問題はないだろう……。
 カレーハンバーグ、とかいうやつ、試してみるかなぁ……。
 たしか、子供用の甘そうなカレールー、売っていたよなぁ……。

 平日の夕食は茅が、朝食と週末の食事は荒野が用意することが多い。
 荒野は現在の冷蔵庫の中身と必要な食材を頭の中でチェックしながら、商店街へと急いだ。

[つづき]
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