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髪長姫は最後に笑う。第五章(73)

第五章 「友と敵」(73)

「……って、なんでお前らまで来ているんだよ……」
 買い物袋を抱えた荒野が帰宅すると、マンション内には太った黒猫を頭に乗せた徳川篤朗、徳川浅黄、才賀孫子、それにガク、テン、ノリの三人組までもが、メイド服姿の茅に紅茶を振る舞われていた。徳川浅黄は茅から譲り受けた猫耳カチューシャを装備している。なかなか、似合う。
「なんでって……まさか、あの家の中で、ライフル整備の打ち合わせをするわけにもいかないでしょう?」
 才賀孫子が、澄まして答える。
「お邪魔しているのだ」
 徳川篤朗は、薄い胸を張ってそういう。
「きみらとこの子たちについては、いろいろ興味深い話しを聞かせて貰ったのだ」
 椅子に座っているのはこの二人だけで、三人と浅黄は、床に直に座り込んでトランプゲームをやっていた。
「……なにを、どこまで聞いた?」
 荒野が、神経質に片側の眉をピクンと動かす。
「だいたい、全部。大丈夫。篤朗、信用できるの」
 ティーポットを抱えた茅が荒野に顔をむけて、いった。
「信用できる、というより……篤朗、自分の研究と商売のこと以外に、あまり興味はないの」
「その通りなのだ」
 篤朗が、さらに胸を張った。
 頭の上の黒猫が、篤朗の動きに合わせてもぞもぞ体を動かし、安定した重心を捜す。
「生物関係はぼくの守備範囲外だから、この子らやきみの妹さんのこともあまり詮索するつもりはないのだ……」
『……守備範囲内だったら、生体解剖くらい平気でしそうだな、こいつは……』
 と、荒野は思った。
「それよりも、ぼくは才賀君のライフルとかこういった小道具のほうに興味があるのだ。
 それに、こういったものも、ぼくなら低コストで製造できるのだ……」
 そういって徳川篤朗は、白衣のポケットの中から、何種類かの金属片を取り出してテーブルの上に置いた。
 楓が普段使っている、六角とか手裏剣が数種類、だった。
「……ねーねー。おじさん……」
 いつの間にか、篤朗の背後にテンが立っていた。
「おじさん、こーゆーのも作れる? 今もっているの、もうガタガタで……」
 そういって、テンは取り出した、折りたたんだままの六節棍を篤朗に見せる。
「……これ、こうやって、関節繋げて棒状にして使うもんなんだけど、この間、かなり無茶な使い方したんで、このはめ込みの部分がガタガタに緩くなっちゃってさ……」
「おじさんではないのだ。これでも、そこの才賀君とか加納君と同年なのだ。
 ……構造は、簡単なものだし……素材は、強化グラスファイバー製、か……これもすぐに調達できる材料だから、複製は可能なのだ……」
『……なんだか、どんどんややこしいことになっていくなぁ……』
 とか思いながら、荒野は、とりあえず、買ってきた食材を片付けることにした。
 ここから先は、なんだか長い話しになりそうだし……。
 それからふと気づいて、その場にいた全員に尋ねた。
「……で、こんなかで、ここで晩飯を食っていくのは、結局、何人なんだ?」
 才賀孫子と徳川篤朗以外の全員が、挙手した。
「ライフルの打ち合わせは済みましたので、わたくしは、もうおいとまします」
 孫子はそういって実際に席を立ち、
「……ぼくは、この子らの仕事を引き受けるかどうかで変わってくるのだ……」
 篤朗はそういって首を振り、三人組は、
「ボクたち、浅黄ちゃんと一緒にお泊まりするんだもんねー!」
 と声を揃えた。
 荒野は、やれやれと思いながら、
「手が空いているヤツ、メシ作るの手伝え……これから、ハンバーグカレー、作る……」
 と宣言すると、「わー!」と声をあげながら、ノリとガク、それに浅黄がトランプを放り出して荒野のほうに寄ってきた。
 買い置きの分の合わせれば、材料は余分にあるし、なんとかなるだろう、と思いながら、荒野は篤朗に声をかける。
「とりあえず、徳川も一緒にくってけ。
 浅黄ちゃんが心配だろうし、用意する人数がわかんないと、作る方も困る……」
 どんなに特殊な人間も、生きている限り生活があり、メシを食う。なにをするにしても、そうした基本的なことをないがしろにすると、どこかで足元を掬われる……というのが、荒野の持論だった。

 孫子が玄関から出て行って、テンの詳細なオーダーを篤朗が自分のパソコンに入力していくのを横目にみながら、荒野は、仕事の割り振りをした。
 茅には、米をといで炊飯器をセットした後、フードプロセッサでタマネギのみじん切りを作って貰う。
 ノリとガクには、ジャガイモとニンジン、それにタマネギの皮を剥き、細かく切って貰う。保存のきく野菜類は、普段から余分に買い置きしている。
 荒野は、フライパンで煮込み料理用の角切り肉を軽くソテーしてから、ボールを出してそこに買ってきたばかりの挽肉とパン粉をいれて、茅が作ったタマネギのみじん切りもそこにいれて塩、胡椒を振り、なにかやりたそうな顔をしている浅黄に捏ねさせた。茅には、それを監督させる。
 軽くソテーした角切り肉を油を引いた寸胴鍋に移し、ノリとガクが作った細切れの野菜も鍋に放り込み、炒め合わせてから水を入れて弱火で煮込む。
 煮込んでいる間、ノリとガクに交代で丁寧にアクをすくって貰う。
 ハンバーグの生地もできたようなので、それを浅黄と茅にハンバーグに形にしてもらう。
 煮込む時間を多めに欲しかったので、ここで荒野は手を洗い、篤朗とテンが向き合っているテーブルのほうに戻った。
 詳細にわたるテンのオーダーは、一通り終わったようだった。
 篤朗が腕を組んで自分のノートパソコンの画面を睨んでいる。
「どうした? なんか難しい注文でもあったのか?」
 エプロン姿の荒野が、椅子に腰掛けながら篤朗に尋ねた。
「難しくは、ない」
 篤朗はそういったが、眉間には皺が寄っている。
「難しくは、ないのだが……一体、この子は……どういう頭の構造をしているのだ?」
 篤朗はパソコンの画面を指さしながら、荒野に説明した。
「この子……たった今、ほんの五分ほど説明しただけで、CADソフトの使用法を呑み込んで……この図面、書いてみせだのだ……」
 篤朗の説明によると、テンは微妙に寸法や重量バランスの異なる三種類の六節棍の仕様書を、荒野が料理をしている最中に、仕上げてしまったという。
「え? でも……自分で使う道具のことくらい、普通、頭の中に入ってしまうもんじゃないの?」
 テンは、なんで篤朗が驚いているのか、よく分かっていないようだった。

[つづき]
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