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髪長姫は最後に笑う。第五章(74)

第五章 「友と敵」(74)

「……だからな、普通の人は、目でみただけで物体の正確な大きさをミリ単位で計測できやしないし、手にしただけで正確な重さを量ることもできねーの……。ついでにいうと、ほんの五分ざっと説明されただけで、CADソフト使いこなして正確な三面図も、描けない。
 テン。
 お前、三面図の描き方、前に誰かに習ってたのか?」
 テンはブンブンと首を横に振った。
「……でも、そのCADとかいうソフトの仕様みれば、だいたい推測できるよ。
 立体を表示する合理的な表記の仕方だと思うし……」
「……と、いうわけだ、徳川……こいつら、こういうやつらだから……」
 荒野はぽんぽんとテンの頭を叩きながら、徳川篤朗に顔を向けた。
「ま、あんま気にしないでくれ……こいつら、特別製だから……」
「荒野……」
 茅が、荒野の肩を叩いて荒野の気を引いた。
「普通の人、見ただけでは正確な寸法わからないし、持っただけでは重量わからないって話……本当?」
 荒野は、頷いた。
「大体の見当はつくけど……正確に、というのは、あまりできる人いないなぁ……。
 昔の熟練工とかで、見た目だけで正確な採寸できた人は居たようだけど……そういうのは、あくまで例外だ」
「……茅……それ、できるの……」
 茅はそいうと、篤朗のノートパソコンを自分の元に引き寄せて、素早くトラックボールを操作して、新しい三面図を描き起こす。
 見る間に、テンが描いた六節棍の図面よりよっぽど複雑な、多数の細かいパーツを組み合わせた形状の「機械」の図面を完成させた。
「これ……このマンションの、屋上の、鍵の構造図……」
 荒野と篤朗は、顔を見合わせた。
「いくつか、確認させて貰う……」
 荒野は深々と深呼吸をしてから、茅に問いただした。
「茅……お前も、CADソフトを扱うの初めてか?」
「初めて。
 説明は、さっき徳川がテンに説明していたので、十分だったの」
「この鍵の構造……いつ、調べた」
「このマンションに来たばかりの頃……近くを探検していた時……ヘアピンで鍵穴を探ってみたら、ほぼ正確な構造が理解できたの……。
 屋上にいたとき、荒野、迎えに来た……」
『あの時、か……』
 そういわれて初めて、荒野は思い当たった。
『……ヘアピン突っ込んだ感触だけで……正確な構造が理解できるんなら……機械式の鍵は、大抵外せるよなぁ……』
「テン……お前にも同じ様なこと、できそうか?」
「試したことないけど……」
 荒野が問いかけると、テンはあっけなく頷いた。
「ボクも……感触だけでも、モノの形とか大きさ、把握できるから……たぶん、できると思う……」
 荒野は、徳川篤朗に向き直った。
「聞いただろ?
 こういうやつら、なんだ……。
 いろいろと常識外れではあるが、そういうもんだと納得してくれ……」
 そう話しを振られた篤朗のほうは、呆然とした表情をしながらも、なんとか頷いてみせた。
「常識外れではあるが……こうして実際に目の当たりにしたら……認めないわけには、いかないのだ……」
 それから篤朗は腕を組んで少し考え込み、
「……ほかの二人は、そういうと特技とか隠し芸はないのか?」
 と尋ねた。
 今度は、ガクとノリが顔を見合わせる。
「……そう、いわれても……」
「……どういうのが、特技とか隠し芸になるのが……」
 いわゆる「一般人」が普通にできることと、できないことの区別がつかない……と、いうことらしい。
「テンや茅みたいに、モノの形や重さを正確に把握することは?」
 二人は首を振った。
「……できないよ、そんなの」
「ボク、テンみたいに全てを憶えようとすると、頭痛くなる……」
「……全てを憶える?」
 篤朗が、眉をひそめる。
「茅は、体験したこと全てを、漏らさず記憶しているそうだ……。
 たしか……テンも同じだ、っていってたな……」
「そこまでいくと……隠し芸の域を越えているのだ……」
「……ああ……」
 荒野は、ため息をついた。
「ある程度説明されたとは思うが……おれとかこいつらとかは……ようするに、人間の亜種だ。
 交配は可能だから、かろうじて、まだ人間の範疇には入っているらしいがな……」
 それから荒野は、
「……怖いか?」
 と、徳川篤朗に尋ねた。
「……なにを、今更……」
 徳川篤朗は、にやりと笑う。
 不敵な笑み、と、いえないこともなかった。
「この徳川も、奇才とか天才とかいわれているのだ。
 怪物が、怪物を怪物呼ばわりするのも、しゃれにならないのだ……」
「……そっか……」
 なんとなく、荒野は納得した。
「おれたちが亜種だとすれば……お前は、突然変異、だったな……」
「……亜種、結構! 突然変異、結構!」
 徳川篤朗は腕組みをしたまま背を反らして笑いはじめた。
 頭の上に居座ったままの黒猫が、つまらなそうにあくびをする。
「まあ、凡人凡俗どもには理解されない境遇同士、せいぜい仲良くしようではないか!」
 ……こいつなりの、親愛の情の表し方、なのだろう……と、荒野は思った。
「時に……そこの、隠し芸の二人……どっちか、あるいは両方でもいい。
 わたしの工場で働いてみる気はないかね?
 凡人凡俗どもの従業員は必要としないが、そうした隠し芸の持ち主はいつでも高額優遇で召し抱えてやるのだ!」

 そんなわけで、学校に通い始めるまでの間、テンは徳川の工場に通うことになった。なにより、テン自身が乗り気になっていた。

[つづき]
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