第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(33)
ガクは、ノリに案内された雑誌や新聞が置いてあるコーナーに案内される。テンはそこの長椅子に寝かされていた。
「また……頭、使いいすぎたんだろう?」
ガクがテンに顔を近づけて、囁く。
「じっちゃんがいてってたじゃないか。
人間以上のチカラを使うということは、人間という器に負担をかけることだって……」
テンが「頭を使いすぎて」鼻血をだしたことは、以前にも何度かある。
脳細胞がフル稼働しはじめると、必要される酸素や養分を届けようとして、鼓動が早くなり体温が上昇する。風邪などを引いた時、高熱を発するような症状に似ているが、テンの場合、常人以上に強靱な心肺・循環機能を持っている。それが仇になって、血流が早くなった分、血管への圧力が強まり、鼻の粘膜などの弱い部分から出血する。
仮に出血がなかったとしたら……体温が上昇しすぎれば、人体を構成する蛋白質は以外に低温で溶けだす。だから、どこかで歯止めがかかったほうが、かえって良い筈、なのだが……。
「……わかっているよ……」
テンは、拗ねたような顔をして、ガクから目を背けた。
「今日は……つい、興奮しちゃったんだ……こんなところ、初めてだから……」
そういてテンは、上体を起こして、陶酔したような表情で、顔をゆっくりとめぐらせて、図書館の内部を見渡した。
「こんなにいっぱい……学ぶべき情報があるなんて……凄いことじゃないか……」
そういってテンは、立ち上がった。
出血は、すでに止まっているらしい。
「頭、冷やしたいし……今日は、もう、帰ろう。
一旦帰って、もうちょっと計画たてて、出直す。
……ここには、知識が……学ぶべき情報がありすぎて、目移りする……。
貸し出したい本も沢山あるし、効率よく消化するためにも、一端出直したい……」
特に急ぐ用事もなかったので、ガクとノリはテンに従い、おとなしく帰路についた。
三人とも、四月に学校がはじまるまでは、比較的時間を持て余している身だ。
三人が肩を並べて帰宅すると、家の前で奇妙な二人連れを見かけた。
やせ細った白衣の男と五歳くらいの女の子が手を繋いで三人の前を歩いていていた。女の子のほうが作り物の猫耳を頭につけているのはいいにしても、男のほうがまるまると太った黒猫を頭上に乗せているのは、いかにも奇妙に思えた。
「……あ、あぶないヤツなんじゃないか? あれ……。
変な恰好、しているし……」
「女の子のほうは、可愛いのに……」
「……兄弟……にしては、歳の差、ありすぎるだろ?」
後ろでこそこそ囁きあう三人。
白衣の男……いや、どうみても二十才を越えているようにはみえないから、「白衣の少年」、とでもいうべきなのかもしれないが……ぼさぼさで、ろくに櫛を通した様子のない髪といい、白昼の街路で白衣姿であるうことといい、頭の上に猫を乗せていることといい……不審な点が、多すぎる。
やがてその二人と一匹は、狩野家の門をくぐり、玄関も開けて中に入る。
そこで、白衣の少年が、中に向かって、……。
「お邪魔するのだ! パソコンの引き取りに来てやったのだ!」
と、大声で、叫んだ。
三人は、顔を見合わせた。
「……おー……トクツーくん、早かったな……。
うちの他の連中はまだ学校から帰ってないけど……」
玄関先に、羽生譲が姿を現して、徳川篤朗と徳川浅黄を出迎える。
「今日は、浅黄が早くこっちに来たがったので、六時限目の授業は自主休講して浅黄の保育園に迎えにいったのだ。
加納茅がこちらで合流することになっているのだ……」
「そーか、そーか……いや、君のノートパソコンは、非常によく働いてくれたけど……。
って……君ら、そんなところでなにやっているの? 早く中に入ったら?」
羽生譲は、徳川篤朗と浅黄の後ろで、なんともいえない微妙な顔をして固まっていた三人をみつけると、そう声をかけた。
これが、徳川篤朗と三人の出会いだった。
「……って、わけで、これが、この間から話している徳川君だ……。
外見は非常に怪しくて、中身はそれ以上に危ないけど、下手に刺激しなければ基本的に無害なので、そのように心得ること……」
徳川篤朗と徳川浅黄、それに三人をとりあえず居間に通した羽生は、三人に向かって徳川篤朗をそう紹介した。
徳川篤朗のほうも、
「……外見は非常に怪しくて、中身はそれ以上に危ない徳川篤朗なのだ……」
と、何故か胸を張って名乗る。
微妙な紹介のされ方であり、しかた、だった。
三人は(今日、何度目になるのか)また、顔を見合わせた。
「……ええっと……」
両脇から肘でつつかれて、ガクが三人を代表して質問を切り出す。
「こちらの……猫耳の、女の子は……」
「浅黄は、姉の娘、姪にあたるのだ。
姉がまた留守にしているので、ぼくがしばらく預かっているのだ」
『……全然似てませんね……』
という言葉は、なんとか飲み込んだ。
「……あのぅ……」
ノリが、おずおずと片手をあげる。
「その……頭の上の……は?」
「この黒猫か?」
徳川篤朗は、自分の頭の上を指さして、
「よく聞かれるのだ……。
部室によく来る野良なのだが、時折餌をやっているうちに、こうしてなつくようになったのだ……」
『なついた……というのは……頭の上に乗っけている理由に……なるんだろうか?』
とは思ったが……なんとなく不躾な質問に思えたし、それ以上に、篤朗と長く会話しているとなにか自分が引き返せないところまでいってしまうのではないか、という気がしてきたので、その疑問は口には出さなかった。
「……それで……君らは?」
今度は、徳川のほうが三人の素性を尋ねてきた。
「この家に、住んでいるのかね?
それに、才賀君、松島君、それに加納茅君ほどに、頭の切れる者は、三人の中にいるのかね?」
今度は、テンが他の二人につつかれて、前に出ることになった。
「……この中で一番頭の切れるのは、たぶん、ボクだと思いますけど……」
「君は、碁というゲームを知っているかね?
茅君は、初めてやった碁で、このぼくを完敗させたのだぞ……」
[
つづき]
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