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第五章 「友と敵」(75)
浅黄が形作った二本角の人形……本人曰く、「ウサギ」らしい……は、残念なことに壊さねばならなかった。そのままの形では焼けないし、食べ物を粗末にするのもいただけない。浅黄の作った人形モドキを崩して生地に戻し、丸めて平たくして、ごく普通のハンバーグの形にする。それを、他のハンバーグの元と一緒に熱して油を引いたフライパンの上に並べ、蓋をしめる。
そちらのフライパンは茅に見させておいて、ガク、テン、ノリの三人にはサラダ作りを命じた。野菜を洗って切ったりちぎったりするだけの仕事だが、三人がどの程度調理の経験があるか荒野は知らなかったので、その程度の簡単な仕事を割り振るくらいが適切だった、ともいえる。
「……随分と作ったな……」
徳川篤朗が、寸胴鍋にいっぱいになった液体を眺めて、いった。
「煮物は、いっぱい作った方がうまからな。
それに、余ったら、凍らせておく」
荒野は寸胴鍋の中身をおたまで小さめの鍋に移し、その中に子供向けのカレールーを割って放り込み、かき混ぜて溶かした。
「こっちは浅黄ちゃん用ので……あとは、中辛と辛口、どっちがいい?」
荒野は、誰にともなく、そういう。
何種類分か、ルーの買い置きをしていた。
「辛口、なのだ!」
と、徳川篤朗。
「……甘口、ないの?」
と、ガク。
「辛口がいい……」
と、ノリ。
「ええっと……あまり辛くないヤツ」
と、テン。
……見事にバラバラでやんの……と、荒野は思った。統一してくれると、手間が省けれるのだが。
「じゃあ、ガクは、浅黄ちゃんと同じのな。この鍋で三皿から四皿分くらいはあるから。
で、徳川とノリと茅が辛口。
テンとおれが中辛、っと……」
荒野自身は、極端に甘ったるいカレーでなければなんでも良かった。
「はい。甘口、終わり。
手が空いているヤツ、皿にご飯盛って準備しろ……」
そういって、先にルーをいれた甘口の鍋を火から降ろし、テーブルの上の鍋敷きに置いた。
寸胴鍋からまた別の鍋に、残っていた液体を半分くらい移す。
二つの鍋に、それぞれ中辛と辛口のルーを割り込む。
荒野の横では、ぼちぼちハンバーグが焼き上がっていた。
『……この人数だと、あまりそうもないな……』
ハンバーグの生地も、余ったら凍らせて保存しておくつもりだったので、材料はかなり多めに買ってあった。買い物をした時は、荒野、茅、浅黄……それに、篤朗が加わる程度だろう、と、予測していたのだが……。
『……こいつらも、食いそうだもんなぁ……』
荒野は、意外に手際よく野菜をボールの中に放り込んでいる三人を見た。
テーブルについて、「いただきます」と唱和し、全員で一斉にスプーンを使い始める。
「……で、テン、本当に徳川んとこにしばらく世話になるのか?」
「うん。
いろいろ勉強になりそうだし、徳川さん、いろいろ教えてくれるっていうし、お金も欲しいし……」
「あのカード、どうせじじいの手配だろ? 遠慮なく使っちまえよ……」
「そういうわけには……真理さんにも、買い食いとか無駄遣いはするな、っていわれたし……」
「……一般論としては、それで正しいと思うけどな……。
それに、徳川のとこにいくっていっても、平日は徳川も学校があるし、今までとあまりかわんないだろ……」
「ああ、そうだ。かのうこうや。
ボクらの身分証明書って、どうなってんの?
今日、図書館にいったら、住所が証明できるものがなければ、貸し出しカード作れないっていわれた……」
「お前ら、今日は図書館いってたのか?
だから、年上を呼び捨てにするなって。徳川は、さん付けで呼ぶ癖に……。
身分証明書、かぁ……。
お前らにも、携帯電話持たせたいからなぁ……これくったら、じじいに連絡してまとめて用意させよう……」
「だって、かのうこうやと家のおにいちゃん、同じ名前でややこしいし、徳川さんは、これからお世話になるから……。
あ。そっちの手配は頼みます……」
「だから、なんで向こうが、おにいちゃん、で、こっちが呼び捨てなんだと……」
「だって、おにいちゃんはおにいちゃんじゃないか。
かのうこうやは、どうみたっておにいちゃんという感じじゃないし……」
それまで荒野とテンの会話を聞く一方だったノリとガクが、「そうだそうだ」と、テンの言葉に賛同しはじめた。
「おにいちゃんとかのうこうやは、同じ名前だけど全然ちがうぞー……」
「こっちのかのうこうやは、全然おにいちゃんって感じじゃないぞー……」
……なんなんだ、この差は……と、荒野は思った。
別にこいつらに慕われたいとは思っていなかったが、ここまで差別されるのも、なんか理不尽な気がする……。
「……大丈夫。荒野には、茅がついているの」
よほど憮然とした顔をしていたのか、横に座っていた茅が、荒野の膝を軽く手で叩きながらそういってくれた。
賑やかな食事が終わると、徳川篤朗は一人で帰って行った。明日の午後、狩野家で行われるバーベキューにも呼ばれているらしい。この間の囲碁勝負の関係で、というより、浅黄のオマケ扱いなのではないか、と、荒野は思った。
その浅黄は、茅や三人組とすっかりうち解けていた。
外見的には、それなりに年齢差があったが、こうして一緒に騒いでいると、中身の精神年齢は、たいして変わらないのではないかという気がしてくる。
試しに、荒野はDVDプレーヤーに、夕方、羽生譲が「子供を大人しくさせるには、これ」といって押しつけてきたDVDをセットし、その映像をテレビに映してみた。
どたばたとじゃれ合っていた三人組と浅黄と茅は、その映像が流れはじめるとすぐにテレビに釘付けになり、しーんと静まりかえって、テレビの近くに寄ってきた。
荒野はベランダに出て涼治を電話で呼び出し、食事中、テンと話した身分証明書と携帯電話の件を伝え、「すぐに用意して送る」という返事を得た。
室内からは「あっるこー、あっるこー、わたしはーげんきー」という五人分の元気な歌声が、響いてくる。
『……ご近所から苦情、こなければいいがな……』
と、荒野は思った。
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つづき]
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