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第五話 混戦! 乱戦! バレンタイン!!(35)
『……ああー……』
楓は「絶対秘密だ」といわれた一族の事を篤朗が推測し、茅が認める現場に居合わせ、居心地が悪い思いしていた。しかし、篤朗に不審な点をつつかれたからと言っても、茅自身が進んで明かしたようにも見えたので、楓の立場からはなにもいえない。
荒野が玉木珠美にそのあたりの事情を話した時も、かなり軽々しいと思えたものだが……。
『……こんなにいろいろな人に知られてしまって……』
……いいのだろうか?
と、楓は思う。
あるいは楓は、荒野や茅以上に、今の生活が壊れることを恐れているのかも、知れない。
そんな楓の気持ちをよそに、徳川篤朗とテンは、「徳川の仕事」について詳しいことを話し始めている。テンは、コンピュータや自動制御の工作機械を駆使した徳川の工場に、強い興味を持ったようだ。確かに、それまでのテンの生活の中には、なかった要素だろう。だが、テン以外の二人、ノリとガクの方は、篤朗が連れてきた浅黄や茅と無邪気に遊んでいるところをみると、三人の中でテンだけが特別、好奇心が強いようにも思える。
テンの質問が、篤朗の語る工場の設備や機構などに関する部分に集中しているところをみると、単純な好奇心……というより、未知の物への探求心が強い、とみるべきか……。
帰宅した才賀孫子も、着替えて居間に戻ってきて、徳川とテンの話しの輪に加わった。以前、玉木珠美に「ライフルの整備を篤朗に任せてはどうか?」と示唆された事もあって、孫子は、徳川の工場の設備でそれが可能であるのか、見極めたいようだった。
その場で小一時間ほど話し込み、一息ついたところで、茅が、
「……続きは、マンションですればいいの」
といって立ち上がった。みれば、茅はまだ、制服姿のままだった。
茅に率いられるようにして、徳川篤朗、徳川浅黄、三人組、それに、愛用のライフルをいれたゴルフバッグを背負った才賀孫子が、ぞろぞろと玄関から出て行くのを見送って、楓は、どことなく気の抜けたような、ホッとしたような気持ちになった。
「……んじゃ、わたしたちも食事の支度、手伝おうか?
人数減ったしわたしもいるし、今日くらいは真理さんには休んで貰おう……」
楓と一緒にみんなを見送った羽生譲が、楓の肩に手を置いて楓をそくす。
三人組は、浅黄が荒野たちのマンションに泊まっていくと聞いて、そのままマンションに一緒に泊まるといいだしていた。
「……はい」
楓はどことなく釈然としない気分を抱えたまま、羽生の後に続いて台所に向かう。
「……銃器は、特に遠距離用の物は、精密機械ですの。
その辺のこと、分かっていらっしゃいます?」
「現在の日本の体制下では、兵器製造は一部大手企業に押さえられているが、技術力ではうちも決して負けてはいないのだ……というか、はっきりいって、勝っているのだ」
徳川篤朗は才賀孫子のライフルを両手にとって、重さを確かめるようにして持ち上げる。
「兵器というのが、局限の場で使用される以上、信頼性に直結する部品の精度が問題になるのは、先刻承知しているのだ。うちの工場のオート・マニュピュレータ制御は、日本中の町工場を駆け回って採取した熟練工の手業をデータベース化しているのだ。国内で作れるものでうちで作れない製品はないといってもいいのだ」
微妙にやばそうな内容も含めてそんなことをいいながらも、篤朗は銃口を覗き込む。
「……そういう真似……いくら、弾が入っていないからと言っても……」
孫子は、眉をひそめた。
あくまでライフルを「武器」としか観られない孫子は、平然とそんな真似をする篤朗の精神が理解できない。
「……なるほど……」
そんな孫子の様子に気づいているのかいないのか、篤朗は銃口の中をじっくりと覗き込んだ。
「ライフリングは摩耗していないが……重心が、微妙に、歪んでいるのだ……。
思ったより硬度のある素材を使っているようだが……横からの力には、以外に弱い、か……。
ふむ……」
篤朗は顔を上げ、孫子と目を合わせる。
「……これでは、近距離はともかく、標的が遠くなればなるほど、弾道がそれるだろう?」
そういわれた孫子は、頷くより他なかった。
銃身の歪みは、肉眼では確認できないほど僅かなものだと思ったが……。
「こちらの技術力を疑うのなら、試しにこの銃身だけでも作らせてみせるのだ。
今のうちの技術力なら、これと同じ寸法で、これよりもっと軽くて、硬くて、それに熱に強い強い銃身が明日にでも製造可能なのだ。
それ以上のことは……例えば、この標準器などは特殊な半導体部品が多数使用されているし、弾丸も、炸薬関係の原料を調達するのは法的な問題で国内では珍しいと思うのだが……そうした特殊な物を除けば、あとはうちでも十分に複製可能なのだ。
……これ、分解していいのか?」
孫子は、半ば呆れながら頷いた。
「あなた……自分の専門分野のことになると……随分、多弁になりますのね」
「そうか?」
篤朗には、そんな自分の性癖に自覚はないようだった。
素っ気なく返事をして、孫子のライフルから弾倉を抜き出し、白衣のポケットからドライバーセットやペンチなどの工具を取り出して、テキパキとその場で分解しはじめる。外したビスやネジの一つ一つをテーブルの上に並べていく。
「……元にもどせますの? それ?」
「あの二人ほど完璧な記憶力はないが、自分の手でバラしたものくらいは、憶えているのだ。
頭が、というよりは、この手がな……」
そういいながら。篤朗は孫子の方に目も向けず、手際よく分解作業を行っていく。
孫子自身も、メンテナンスのため分解掃除をすることも多く、お目を瞑っていても行えるほど習熟した作業だったが……その孫子の手よりも、下手をすると動きが早い。
「……これでも、プロフェッショナルの端くれつもりなのだ……」
徳川篤朗は、手を休めずにそういった。
『……頭に猫を乗せていう台詞ではありませんわ……』
と、孫子は思った。
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つづき]
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